「二人の写真が欲しかったようですよ」目覚めたとき、いつものひやっとした存在が感じられず、鬱陶しく思いながら身を起こす。
部屋の隅で本でも読んでいるかと思えば自室に気配がないから大方リビングにでもいるんだろう。家人の後ろをまたチョロチョロと着いて回っているのかもしれない。知ったことではないが、珍しく脳が早くも覚醒しかけていたから朝食がてら様子見でもと思って早々にベットを抜け出した。
「……………………何をやっているんだあいつは」
探し物はすぐに見つかった。
が、いけ好かない豚猫にキャッキャと賑やかしく寄られては、困った表情で何やらつつきまわしている。
何をしているかと横目で観察すれば、手の中のそれはいつぞや渡したソンソ専用のトームストーンだった。
一度だけ中身を見た事があるがどれもぶれた写真ばかりで何を撮ったのか知れたものではなかったのを記憶している。
呼び出しすら出るのに手間取るような有様だったから、あのバカにでも使い方を教わっているのかもしれない。
(余計な事を吹き込んでいなければいいがな)
時折、これはこっちで、そうそう上手~!と甲高い声で褒めているのが耳に障る。
面倒ごとを増やされるのは厄介だ。早いところ釘を刺してでも止めておくか、とため息をついた瞬間だった。
「おい!このスカシ野郎め!」
「………ッチ。なんだと…、」
この豚猫、そう続くはずだった言葉は、パシャリ、という音によってかき消された。
「…撮れた。」
「あらほんと。ソンソも可愛くうつってるわね」
豚猫の飼い主であるこの家の家主の言葉に、いつの間にそばに立っていたのか、ソンソがパタパタと駆け寄った。
「これを、さっきと同じようにするといいよ。やってみて?」
「……………こ、ぅ…?」
「うんうん!上手! スカシ野郎と2ショットなのが気に入らないけど~」
「こら、ケンカしないの。 それよりケイ。あなた洗濯物ちゃんと出したの?出しておかないと洗わないわよ!」
「あわわ!まっておねーちゃん! それじゃあソンソちゃん、あとは楽しんでね!」
「っあ、…ありが、とう…」
「はぁ~い!」
慌ただしく事が収束し、自分の中の不完全燃焼に舌を打ちながら去っていった方へ睨むと同時に、淹れたてのコーヒーがそっと出される。
「ソンソさん、何を撮ったんですか? …あぁ、いいですねぇ。待ちうけにしたんですか?」
こくこくと頷きながら、珍しくご機嫌な様子で手元のトームストーンを見せてくるソンソはこっちが狼狽えるほど笑顔で。
見ればずっと真っ青のまま味気のなかった画面が、さっき撮ったらしい写真に彩られている。
画面の中でむっつりとこっちを見ている自分にも、遠慮がちな笑顔になっているソンソにもふざけた加工が成されていたが、消せ、というには余りにも大人げないように思えるほどの喜びようで。
「はぁ………お前も洗濯物、出しておけよ。」
頭が痛くなる前にさっさとリビングから追い出したのだった。