1960年1960年
ヴォックスはアラスターの電波塔、放送室のソファで終わりを待っていた。ワインの注がれたグラスを口に当てると、コト、と固い音がした。
「ヴォ~ックス。ヴォクシー」
放送は終わった。放送は終わったが、彼の声には未だ電波越しのノイズがかかっている。いつだってそうだ。アラスターは右手で獲物を引きずりながらソファ越しにヴォックスの背後に立った。どちゃ、と上級悪魔だった肉塊が投げ捨てられる。
「いつもどおり頼みますよ」
「ああ」
ヴォックスはグラスを置き、立ち上がる。アラスターと向かいあって、ソファのへりに尻を乗せた。アラスターは自慢のジャケットを脱ぎ、蝶ネクタイを解いていた。赤いシャツに返り血が赤黒く重なっている。髪も少しだけ乱れていた。
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