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    5/29開催ばじ生き直しウェブオンリー作品。
    ※血ハロから12年経過。場地の身体が子供のまま。
    ※キャラの死ネタあり。

    【とらばじ】いい子わるい子 死は想像よりも優しいものだった。まるで眠りにつくように穏やかで、痛みも苦しみもない。ただ安らかに何もない闇の世界の中で漂っているだけ。
     永遠にこのままなのだと場地圭介は思っていたが、突如眩い光が目を突き刺した。突如当てられた光に不快感を覚える。
     せっかく気持ちよく眠っていたのに、邪魔をされた。
     遠くで聞き覚えのある声が聞こえてくる。やや涙混じりで悲しそうだ。
     そんな悲しい声を出してほしくはなくて、場地は重たい瞼を開く。
     比喩なんかじゃなく本当に瞼が重たくて、ピクリと痙攣するだけで視界は開けない。ただ、声はどんどんはっきりしてくる。
     場地、起きて、目をあけて。
     誰の声かはわからないが、知っている声だ。
     そんなに急かさなくても起きてやるから少し黙ってろ。
     そう言ってやりたいのに唇も動かない。手足も動かない。それどころか、自分のカタチが曖昧だ。
     どうやって動かしていたのか、どうやって息していたのか、どうやって生きていたのかがわからない。
     (アレ?オレ、どうなったんだっけ)
     場地の最後の記憶は千冬の腕の中だ。
     (どうなったんだ?一虎は?マイキーは?東卍は、どうなった?)
     確かめなければならない。目を覚ます事ができるなら、早く起きなければ。



     ✳︎✳︎✳︎



     飛び起きたつもりだった。しかし身体は動かず、ただ瞼がゆっくりと開いて見知らぬ真っ白な天井が見えるだけだ。眩しくて薄目で眺めていると目の前が影に覆われた。それはただの影ではなく、よくよく見ると顔のカタチをしている。

    「かず、とら……か?」
    「場地……」

     髪が伸びて雰囲気が変わっていたが、それは確かに一虎だった。彼は大きな瞳に涙を目一杯浮かべてじっとこちらを見つめている。
    「場地!」もう一度名前を呼ばれたかと思うとぎゅっと強く抱きしめられた。

    「一虎、くるしい」
    「いいだろ少しくらい。ずっと、オマエが目覚めるのを待ってたんだから」

     一虎は子供みたいに泣いたままだ。ただその顔つきや身体は大人だった。髪は長く垂れ下がり頬をくすぐる。筋肉質ながっしりとした身体に抱きしめられると不思議と安心した。

    「オマエ、こんなに大きかったか?」
    「テメェがちいせぇんだよバカ……」

     一虎の言葉が理解できずに場地は首をかしげる。そんな様子を見て一虎はどこから話して良いものか考えてから口を開く。

    「今は2017年。オマエが気を失った2005年から12年経ってるんだ」
    「じゅう、にねん……?」

     突然の出来事に場地は何も飲み込めずにただ一虎を見つめることしかできない。
     あの日の出来事は、昨日のことのように思い出せる。そもそも、場地にとっては昨日の出来事だ。それが、12年前だと言う。
     他にも気になる事はたくさんある。

    「ここは?病院か?」
    「いや。東卍のアジトだ」

     アジトにしては病室のように清潔感があり、点滴も刺されている。だというのに病院ではないと言われても信じられない。そもそもアジトに12年も寝たきりの自分を置いておくだけの部屋が用意されていることも驚きだ。

    「……東卍は、今もまだあるのか?」
    「そう…………いや、もうオマエの知る東卍は無い」
     一虎は目を背けて否定する。場地は乾いた唇をゆっくりとひらく。
    「少しずつでいいから話てくれ。この12年、何があったのか」



     血のハロウィン。場地を刺した一虎に激昂したマイキーは彼を殺しかけた。しかし、最後の力を振り絞って場地はマイキーを止めた。
     そこで、場地の意識は途切れたのだ。場地自身、死を覚悟していたが、すんでのところで救急車が間に合い一命を取り留めた。一命は取り留めたが意識は戻らず、そのまま場地は寝たきりになったのだ。
     その後、東卍は芭流覇羅を吸収。そして、壱番隊隊長に就いたのが羽宮一虎だった。
     出頭すると言った一虎を最初に引き留めたのは稀咲であり、一虎の身代わりを出頭させた。「償いたいならマイキーのそばにいた方がいいだろう」と。
     その言葉にマイキーも一虎をそばに置くことにした。場地が戻ってきた時に、また6人で揃った東卍を見せるために。
     初めこそ千冬は一虎を壱番隊隊長として認めなかった。だが、一虎とマイキーと話を何度も重ね、最後には「……場地さんの意志、ちゃんと継いでください」と一虎を認めたのだった。
     それから東卍は黒龍と統合。あっという間に巨大犯罪組織となり、今では関東一の反社会勢力となったのだ。
     組織は大きくなった。だがドラケンが死刑囚となりマイキーは行方不明に。実質のトップは総長代理の稀咲となっていた。

    「今の東卍はなんでもアリの犯罪組織だ。もうオレらの知る東卍は亡くなった。オレも…………オレも汚ねぇ事に手を染めてた」

     ぎゅっと拳を握る一虎に、場地は「そうか」と言葉を漏らすことしか出来なかった。
     なんとなく重たい雰囲気に耐えられず、会話を変えようと場地は「千冬は?」と彼の所在を聞いた。
     だが、一虎の顔は険しくなるばかりだ。

    「……………………死んだ、いや、殺されたんだ……オマエが目を覚ます、直前に……」
    「殺された…………?」
     千冬が誰かに殺された事実がうまく飲み込めず、場地は俯く。
    「…………稀咲に!」
    「アイツ……まだ……」
    「今や東卍は稀咲のイイなりだ。千冬はオマエの意志を継いで最期まで稀咲に逆らって戦ってたんだ。なのに、オレは何の力にもなれずに……」
     また一虎はボロボロと涙を零す。
    「アイツ、本当はオレのこと憎くて憎くて仕方ないはずなのに、ずっとオレについてきてくれてたんだ。オレが危険な目にあった時だって助けてくれた。『オレは壱番隊副隊長、隊長を守るためにここにいる』なんて真っ直ぐにこっちを見ていうんだ」

     場地の脳裏に千冬の姿が目に映る。最後まで自分を信じて着いてきてくれた彼は、自分が動けなくなった後も意志を継いでくれていた。その忠誠心と、自分をずっと信じてくれていた喜び、そしてもうすでにいなくなってしまった悲しみが一緒くたになってやってきて、目頭が熱くなる。

    「場地……ごめんな、千冬も東卍も、護れなくて……」
    「…………いいんだ、オマエがこうしてここに居てくれてる、それだけでも、十分だ……」
    「ごめん……ごめんな、場地……」

     一虎は場地の身体をギュッと抱きしめた。その身体は余りにも小さく、また涙が溢れた。



         ✳︎✳︎✳︎



     12年寝たきりの身体は簡単には動かず、しばらく寝たきりの生活が続いた。歩いても部屋の中だけ。外出は一虎が「心配だからもう少しリハビリしてからにしよう」というので(心配性だな)と思いながらも従った。
     時たま東卍の構成員がやってきて、見舞いにもきてくれた。中にはかつての壱番隊隊員もいたが、彼らはみな過去のようにハツラツとはしておらず、生気が感じられない。そんな姿を見たくも無かったが、無碍にすることもできずに場地は笑いながら話をする。
     一虎は毎日見舞いにきた。少しずつ何があったのかを場地に教えて、時には昔話をして楽しんだ。楽しそうに話す彼からたまに血の匂いがしたが、場地は何も言わなかった。
     変わり映えのない日々。そんなある日の真夜中。その日は何だか寝付けずに、場地はベッドの中でもぞもぞと動いていた。この部屋には必要最低限のものしかなく、暇を潰す娯楽もない。ただ目を閉じて睡魔が来るのを待つ。それまでに、頭の中で今まで起きた事を整理する。
     自分は辛うじて生き残った。その間に12年経過。12年の間で東卍は変わり果て巨悪となった。黒龍と統合。薬、売春、殺し、何でもアリの反社。マイキーは行方不明。ドラケンは死刑囚。千冬は殺された。最近、三ツ谷の行方もわからなくなったという。
     気になるのは稀咲の動向だ。なぜ自分を東卍のもとにおいたのか。なぜ一虎を東卍に引き入れたのか。ただでそんなことをするはずがない。特に自分は稀咲にとって邪魔なはずだ。必ず、裏がある。それを明かさなければ。
     ーーー考え出せばキリがない。現状の東卍を見たわけでもないので考えるにしても情報が足りない。だが、考えずにはいられない。
     どんどん眠気が遠いて、目が覚めていく。
     眠るのを諦めて、少しリハビリがてら部屋の中を歩こうかと思っていると、誰かがゆっくり扉を開いて入ってきた。身体を起こして出迎えようとも思ったが、こんな深夜にわざわざやってくるということは、もしかしたらこっそり会いたいと思ってやってきたのかもしれない、と場地は狸寝入りをする。
     足音はベッドの真横で止まり、しばらく動かない。何をしているのか気になり、薄目を開こうとしたが「場地」という懐かしい声に思わず目を瞑ってしまった。
     マイキーの声だ。12年ぶりに聞いたが、間違いなくマイキーの声だと確信した。
     一虎の話だとマイキーは行方不明ということだったが。なんでまたこんなところに顔を出したのか。
    「東卍……護れなかった……」
     マイキーのものとは思えない弱々しい声だった。
    「ごめん」
     それだけ言って足音は遠のく。慌てて彼を引き留めようとしたが、急に身体を動かすことも出来ず、喉が掠れて声も出なかった。
     やっとの思いで身体を起こした時にはもう彼の姿は影もカタチもなく、場地は真っ暗闇を見つめる。
     その後、場地がマイキーと出会うことは二度と無かった。



         ✳︎✳︎✳︎



     場地が目覚めて一ヶ月半ほど経った。身体は順調に回復。普通に生活する分には問題なく過ごせるようになった。そろそろ外に出たいという場地に、一虎は「先に行かなきゃいけない場所がある」と高級そうなスーツを着せられて外に連れ出される。
     どこに行くのかと思って着いていくとただエレベーターホールへとたどりつく。ここから降っていくのだと思い込んでいたが、予想外に一虎は上の階へのボタンを押した。
    「どこに行くんだよ」
     気になり問いかけると「幹部会議だよ」とだけ告げられる。

    「幹部会議って……東卍の幹部会議にオレを連れていくのか?それ、大丈夫なのか?」
    「大丈夫も何も、オマエはずっと前から東卍の幹部だ。会議に出るのは当然だ」
    「でも……」
    「昔のメンバー、パー達だっている。それに、オマエの今後について大事な話もしないといけない。オレに任せてくれ。万が一何かあってもオレが護る」

     「……わかった」一虎の瞳を見て、場地は一虎の背中にピッタリとくっつく。
    綺麗なベルの音が鳴り二人はエレベーターに乗り込む。エレベーターは音もなく上昇し、最上階へとたどり着いた。
    最上階は一部屋しかないのか、長い廊下の向こうには扉がある。その重々しい扉の前には、いかにもカタギではない男が二人ガードマンとして立っていた。男達は一虎に一礼して扉を開く。横目で場地も奇異な目で見られたが、それを無視して中へと入った。
     中は広い会議室となっていて、大きなテーブルを囲んでに幹部と思わしき人間が座っていた。
     彼らの視線は一虎、そして場地に集まる。余りにも多くの人間に見られて、場地は思わず睨み返した。

     「うわ。マジでソイツ場地圭介?元東卍の壱番隊隊長といえど、そんなガキじゃなぁ」東卍最高幹部、九井一は怪訝そうに場地を見る。
    「そんな見てくれで幹部補佐なんて、舐められンだろ」同じく柴八戒は睨みを効かせていた。二人の間に座っていた乾青宗は何も言わずにただ静観するだけだ。
    「でも年齢はオレらとおんなじなんだろ?何も問題ねぇじゃん」
    「一虎が面倒見るって言ってるし、いいんじゃね?」パーとスマイリーはそれぞれ場地に手を振り微笑みながら話しかける。
    「しかし、こんなスーツに着られているような子供の身体で東卍幹部補佐を謳えばサツから別の罪状でしょっ引かれる可能性も出てくる。オレは反対だ」ムーチョが深く椅子に腰掛けて言う。
    「それもそうだ、これを機に児童売春も始めたらいいんじゃねぇか?金になるぜ?」
    「おい九井、あんんま舐めた口きくなよ」
     見かねた一虎が前に出ようとすると乾が椅子から腰を浮かせて一虎を睨んだ。
    「ココに何かしたら許さねぇ」
    「テメェらこそ、場地を侮辱すんじゃねぇよ。身体はガキのままでも場地は場地だ」
    「一虎……」場地は自分自身で何も出来ない無力感に唇を噛み締めた。今ここで自分は何もできない。一虎がそばにいなければただの子供なのだ。

    「話は終わったか?」
     ただ見ていた半間が割って入ってくると、全員が口をつぐんだ。
    「稀咲さんからの伝言だ。場地圭介は一虎の幹部補佐として認めると」
    「マジかよ」
     幹部は不服を各々漏らしたが稀咲の言葉によっぽど効果があるのか、場地の幹部入りを全員が認めた。

    「……よかったな、場地」
    「……ああ」

     幹部補佐に認められた、と言われたが、場地にとってはどうでもイイ事だった。実際に変わり果てた東卍は想像よりも酷いものだった。
    (なんなんだこれ……これじゃあただのヤクザじゃねぇか……ただみんなの為に、みんなで助け合う為のものだったのに……こんな……犯罪まみれの、組織、無い方がいい……)
    「一虎、ちょっと話がある」場地は一虎の裾を引き、会議室を後にした。



         ✳︎✳︎✳︎



     一虎は場地をさっきまでいた部屋ではなく自宅へと連れていった。高層マンションの最上階。だだっ広く家具もいかにも高価そうなものが並んでいる。
     広い部屋に場地は慣れずにソワソワしていると、ソファーに座ることを促された。
    「で?話って?」一虎は場地の隣に腰掛けて場地に向き合う。
    「単刀直入に言う。稀咲を殺す。そして、東卍をぶっ壊す」
    「……」一虎は何も言わない。それでも場地には一虎の言わんとしようとしてることがわかった。
    「無理だと思ってるんだろ」
    「正直な。オマエは今の稀咲を知らない。だからそんな事を言えるんだ。……稀咲に逆らったら、殺されるぞ」
    「千冬みたいにか?」
    「……」一虎の眉毛が頼りなく下がる。それを見て場地は目を背け、伝えるべきか迷っていたことを伝える。
    「マイキーが来たんだ」
     場地の言葉に一虎は顔色を変え、場地の肩を強く掴んだ。

    「……いつ?マイキーは、なんて?」
    「オレが寝たきりの時に……ただ、『東卍を護れなくてごめん』それだけ言って立ち去ったんだ。アイツもきっと今の東卍を望んでいない。いなくなったメンバーのためにも、オレは東卍を潰す。何年かかってもな」

     場地の意志は固い。幼い顔立ちのその鋭い眼差しが物語っている。
     一虎の答えは最初から決まっていた。場地がなんと言おうと。無茶を言われようと、例え自分の命に危機があろうとも。
    「協力する」
     その答えに場地は目を丸くした。「オマエが言った事だろ」と一虎は笑うと「そうなんだけど」と場地は自信なさげに俯く。
     そんな姿を見て、一虎は場地をぎゅっと抱きしめた。

    「そんな顔すんなって。今度はオレがオマエについていく番だ」
    「……ありがとうな、一虎」

     一虎の暖かな身体に、場地は全てを預けたくなった。だが、コレからは二人で支え合っていく必要がある。このまま甘えているわけにはいかない。
    「あ、そうだ。コレ、オマエのスマホ」一虎はポケットから真っ白なスマートフォンを取り出す。場地は奇妙なものを見る目でそのまま手に取った。

    「すまほ……?なに?」
    「携帯電話だよ」
    「携帯!?ボタンねーじゃん。折り畳めねーし不便だろ。どうやって使うんだよ」
    「画面タッチするだけで操作出来んだよ」

     「ほら」と一虎が電源を入れて場地に渡してやると場地は恐る恐る画面に触れて見る。何度か画面をタッチしただけでは反応は無かったが、アプリをタッチすると別のページが開かれた。

    「なんだこれ!?マジで画面に反応してんのか!すげー!」
    「うわ、今のまじで只のガキみてー。いや、今どき小学生だって持ってるからそんな反応するやついねーか」
    「うっせ。なぁコレ文字打てねぇ」
     はいはい、と適当に相槌を打ちながら場地に寄り添い、操作を一通り教えた。



     幹部補佐に着任したわけだが、場地の一日は一虎の部屋で過ごしていた。たまに一虎が一緒に外に連れて言ってくれるが、一人での外出は許してくれなかった。
     一虎はかなり過保護だ。身体を気遣ってくれているのは分かるが、それにしても過保護過ぎる。これでは半ば監禁みたいなものだと思ったが、心配をかけたのは自分なのであまり逆らわないようにしていた。
     部下が一虎の家へと集まる時も、一人がタバコに火を付けようとした時に、その手を止めた。

    「ウチ、禁煙になったから」
    「えッ!?だって一虎くんもタバコ吸うじゃないですか!やめたんスか!?」
    「やめてはいねーよ。少なくとも場地の前では吸うな」一虎の言葉に場地は前のめりになる。
    「いーよ別にタバコくらい。気にせず吸えよ」
    「ダメだ。オマエの身体はまだ未成熟なんだから」
    「子供扱いすんじゃねーよ」
     睨み合う二人を見兼ねて、部下が間に割って入って宥める。「喫煙スペースが無いわけじゃ無いんで大丈夫ですよ」
     場地は舌打ちをしながら何とか自分を納得させる。ここでムキになれば本当に子供みたいだと引き下がった。



     禁止されるとむしろしたくなる。カリギュラ効果と言うらしい。場地もまた、外出を控えさせられていたせいで、外に出たいという欲が大きくなっていった。
     東卍を潰す為にも、外部からの情報が必要だ。野放しにしておけば被害者が出る一方だ。タイムリミットがあるわけではないが、早く何とかしたい。
     一虎が部屋を空けると言ったある日、場地はある計画を立てていた。一虎にバレないように外出することだ。
     スマホの扱いにも慣れてきて、外に出ても迷わず帰ってこられるだろう。
     こっそりと部屋を抜け出してエレベーターに乗り込む。最上階だからか、エレベーターに乗っている時間がやけに長い。いつまでも下に下に落ちていく感覚は気持ちいいものではない。
     小さくなっていく数字に場地は罪悪感を覚える。一虎に嘘をついてしまったこと。一虎の心配を無視してしまったこと。
     しかし、それでも自分自身で何とかしなければならない。いつまでも一虎に庇護下にいるわけには行かない。
     すっと音もなくエレベーターが止まり、扉が開く。フロントマンの隣を通り過ぎて外へと飛び出す。外は一週間ぶりくらいだろうか。太陽が眩しく何度か瞬きをする。肌を日差しが突き刺してくるが、怯んでいる時間はない。一虎が帰ってくる夜までに調べ物を済ませなければ。
     行き先は東卍が経営している高級ホテル店。そこに稀咲はよく顔を出しているという。確証は無いが行けば何かわかるかもしれない。



     渋谷の街並みは良く知っているはずのものなのに、高層ビルに囲まれると異世界にでも迷い込んだような気分になる。街ゆく人の服装も髪型も昔とは全く違う。一虎が用意した服はダサいと思っていたが、ちゃんと流行りのモノを選んでくれていたことが分かった。
     電車に乗ろうと切符を買ったが改札はICカード専用のモノがほとんどで、乗るまでにも一苦労した。ただ電車の中は大して変わりはなく安心する。
     ぼうっと電車の窓を眺めて、あっという間に過ぎていく風景に柄にもなく物悲しさを感じた。



     目的のホテルは駅の真前にあって探す手間が省けた。どれだけ価値があるのかを計ることは出来ないが、そう易々と泊まれるような場所では無いことだけははっきり分かる。
     フロントに入り受付嬢に「支配人はいるか?」と問いかける。受付嬢は首を傾げながら「失礼ですが……」と聞かれるので「東京卍會、場地圭介だ」とだけ言うと、彼女は裏へと下がって行った。しばらくして出てきたのは身なりのいい男だ。男は「こちらへ」と応接室へと案内された。
     豪華なソファーに腰掛けると、ふわっと身体を包み込まれる。

    「それで、わざわざ東卍の方が、何か?」
    「稀咲に会いたいんだ。ここに良く来ると聞いてな」
    「……なぜ、稀咲さんに会いたいのですか?」
    「まだ直接挨拶をしていなかったんで。組長代理なんでしょ、あの人。直接挨拶するのが礼儀かと」
    「律儀ですね。ですが、稀咲さんがここに来るのもマレなんで私共の方では何とも」
    「そうですか」
    「次に稀咲さんがいらしたら今日のことお伝えしておきますね」
    「頼みます」

     このまま話していても埒があかないと、場地は大人しく引き下がる。それにここでゴネて稀咲に勘づかれたら元も子も無い。
     行く宛は他にもある。この近くの路地裏で同族が情報交換を行うバーがあることも知っている。
     ホテルを後にして、そのまま一つ隣の路地裏へと進んでいく。先ほどの人集りとは打って変わって、閑散としている。いかにもな場所に、場地は気を引き締めた。
    しかしその瞬間、後ろから殴られ気を失ってしまった。
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