彼女のメモリ①<side わたし>
恋愛だとか友愛だとか、家族愛だとか。
そういったものが一体なんなのか、よくわからないまま生きている。
居間のテーブルに置かれたご飯代を眺めながら、頭をテーブルに載せながらスマホをいじる。
きっとわたしは恵まれている。
……頭が痛い。眠いな。
このスマホの中でなら、誰かに愛してもらえるのではないかという期待は早々に無くなっていた。
当たり前だ、わたしはただの学生。もう少し詳しく話していくとすれば、好きな歌手がいて、その人の歌を聞くことが好きで、そのために生きている。
ただそれだけでは誰かが気にかけてくれるわけではなかった。
けれど、わたしから求めることは、もう、疲れてしまっていた。
だから、今度の機会には期待してしまいそうになるが、期待なんてするなとという言葉もここにある。
相反する言葉はまた頭を痛くする。
***
<side 俺>
好きで 好きで 愛してるって
言ってもらえたら良いのかな
ガンガンに音楽が流れ、歌詞が部屋中の壁にぶち当たって震えさせては消えていく。
そう、単的に言うとうるさいのだ。
「好きなの?それ」
音楽に張り合うように声を出した。
「ん。……特にこの曲好き」
いつも口をへの字にしてばかりの口の端がほんのわずかに挙がっている。いつも何もうつしていないような目が、きらきらと輝いている。
俺が黙っていると、まだ話したりなかったという雰囲気で続きを話し出す。
「この歌詞が好き。わたしの言いたいこと、全部言葉にしてくれているから、好き」
すきなものを知ってもらえたら嬉しいし、自分のすきなものを好きと言ってもらえたら嬉しいから話した。
歌が愛してくれるわけではない。
でも歌に愛されている、存在を許されている気持ちになることは問題ないはず。
という考えらしい。
俺は彼女の考えを肯定も否定もせず、またその歌を聴くことにした。
ただやっぱりうるさいなと思った。