無題気付いてしまった。出来ることならば、気付きたくはなかった。
あまりにも無慈悲なその目線の行き先に。
今、私と会話をしているはずなのに。なんでそんな顔で、なんでそんな目で。………嫌なヤツだ。なんて感情を持ってしまっているのだろう。違う、こんなのは私じゃない。
「面影、聞いてるのか?」
「あ、あぁ…もちろん聞いてるよ」
聞いてはいる。その声が私に向いているのだから聞かない訳が無い。でも君は私を見ていないじゃないか。君こそ本当に私の話を聞いているの?
「向こうが気になる?」
「え?いや別に…」
嘘だ、気になるくせに。モヤモヤした気持ちが募る。
「私との話は後でも出来るし、向こうに混ざってきてもいいんだよ」
ここで自分を優先してくれるか、なんて彼を試すことも、あの目線に気づかなければ絶対にしなかった。気づいてしまった私が全て悪い。何故こっちを見てくれていないの。
「そ、そうか?」
じゃあそうしようかな、なんて嬉しそうに言う君に少し嫌悪してしまう。い殺、違う。試して自分の期待通りにならなかった事に嫌悪し、更にこんな気持ちになってしまう自分に嫌悪した。
なんて醜い。好意を寄せている相手に持つべき感情じゃない。
そんなの頭では分かっている。分かってはいるのに、心が止まらない。
「また後でね」
笑顔で手を振って彼を見送る。モヤモヤが一層増す。私を選んではくれないんだね。そんな嬉しそうな顔をして。私にもしてくれないかな。こっちを見向きもしないじゃないか。
あぁ、ますますまずい。この感情を消さなければ。どうにかして失くさなければ。一度死んで蘇生されても消えてくれないだろうこの感情を。
…そうだ、薬を作ろう。私なら作れる。
『すごいな、面影は何の薬でも作れるんだな』
以前、彼が褒めてくれたこの技術があれば絶対に作れる。
待ってて澄野くん。必ず元の私に戻るから。君の相棒として隣に立つのに相応しい私に戻るから。