いとはじ展示① 全年齢 壮年鯉月 頭の下の月島の足が、もぞ、と遠慮がちに蠢いた。
「ん?すまん、痺れたか?」
「いえ、大丈夫ですよ。読書の続きをどうぞ」
月島が、口元に小さく皺を刻んで微笑む。
今年の春、月島は五十になった。崩した足の上に私の頭を乗せたまま、やはり同じように読書に勤しんでいるが、時折眉間に皺がよる。文字が見づらいようだ。
「ふふ、お前もそろそろ眼鏡を作ったらどうだ?」
「まだ要りませんよ、見えてます」
「その割には、眉間に萎びた芋のような皺が寄っておったぞ」
「萎びた芋とは、随分な例えですね」
ぱたん、と読んでいたロシア語の分厚い本を閉じ、月島が火鉢の炭をつついた。
「愛嬌があると言う意味だ」
「愛嬌など、この年の男にはございませんよ」
2043