また名前を呼びたい杏寿郎』
そう呼べたのは何年前の話だろう、私と杏寿郎は幼馴染みでも今は鬼殺隊を支える柱、今では煉獄さんが当たり前になってしまった
『杏寿郎…』
返ってこないことを承知で空中に懐かしいその名を呼ぶ、任務を伝えに来た鎹鴉の雫さえ、夕焼け空を背にすれば虚しく見えてくる
『…行こうか』
深呼吸をし刀を腰に差して羽織を羽織ればもう私は鬼殺隊の雪柱、夜の闇の中へ惡鬼滅殺に駆ける
『雪の呼吸 伍ノ型 太陰の粉雪』
粉雪がチラチラと舞う中鬼の頸が宙を舞う、刀身の返り血を払い鞘に収めると隊士達の方を向いた
『鬼はこれで最後ですが…怪我人はいますか?』
「いえ!雪柱様のお陰で誰も怪我してません!」
「後は隠の方を待つだけです!」
お世辞でも褒めてもらえたことは嬉しかった、多少機嫌も治った所で雫に次の任務を聞いた
「カァァ!次ハ南東!社跡ニテ被害者多数!炎柱ト合流シ直チニ向カエ!」
『炎柱…』
ズキリと胸が痛む、幼い頃より開き過ぎてしまった心の距離、今はあまり彼に会いたくなかった、でも
『大丈夫、大丈夫』
杏寿郎は皆平等に接する、私が余計な気を遣う方が逆効果だ、近くの隊士に一言言ってから私は地を蹴った
『…』
早く来過ぎてしまったな…、彼女と合同だからと浮かれてしまったかもしれん、最近になって…柱になってから彼女とはあまり話せていないからな
『凜音』
そう呼べたのは何年前の話だろうか、俺と凜音は幼馴染みだが今は鬼殺隊を支える柱、今では細雪が当たり前になってしまった
『凜音』
嗚呼、もう君は俺を名で呼んではくれない、そう分かっていてもこの愛しい名を呼ばずにはいられな…
「あ!煉獄さん!すみません、遅れました!」
…危なかった…本当に危なかった、危うく先程の『凜音』が聞かれてしまう所だった
『気にするな!俺が早く来過ぎた!君は遅れてはいないぞ!』
「あ、そうですか!良かった!」
こんな安心したときに見せる無邪気な笑顔、今は俺以外にも見せるんだろう?
『悔しいな…』
「何か言いました?」
『いや!何でもない!行こうか!』
そろそろ隠すばかりでは駄目なようだ、彼女には
俺の想いを知ってほしい