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    Leko_HB

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    現パロプロ選手時空のコバサワです

    #コバサワ

    夏の渡り鳥 「頼みがある」、と珍しく小林が澤村に助けを求めてきたのは日差しが厳しくなりつつある7月の頭だった。
     プロリーグ所属の選手として活躍する小林と、『フリーランス』という名目で謎の仕事をいくつかこなしている澤村の関係は、恋人という名前をつけても良い間柄ではあるもののお互いの仕事に口を出すようなことはない。そんな関係の中で珍しいこともあるものだと、澤村が言葉の続きを促すと歯切れの悪い説明が小林の口から吐き出された。

    「つまり、スポンサーの商品持った写真撮ってインスタに上げろってことかよ」
    「……おそらく、そういうことだ」
     少しの間があって答えた小林の様子に、本当に理解してんのか、と呆れそうになった澤村だが高校時代からの付き合いで小林の時代錯誤な部分は重々理解している。プロチームに所属が決まった時にもチームの命令により宣伝用のSNSアカウントを半ば無理矢理作らされたのだが、スマホをカメラ付きの電話程度にしか捉えていない小林に定期的な更新が出来る訳もなく、初回の『アカウントを作りました』以降何の投稿もなく沈黙を保っている事を澤村は知っていた。しかし去年から移籍した先のチームは特に宣伝に力を入れているところで地元企業とチームの距離も近く、オフシーズン中の広報活動も仕事のうちだと先輩からも苦言を呈されたらしい。
     一通り説明を聞いた澤村は理解はしたものの、この男に所謂『映え』る写真を撮ってファンの心に刺さる一言を添え、然るべきメンション先設定をして投稿するなど、絶対に無理に決まっているという確信だけが強まった。そして小林という男の性格と能力を考慮しても今口頭で説明したところで絶対に覚えられない上に、勝手にさせてみたところで明るさも調整されていないピンボケの商品写真と共に店と商品名が書かれて投稿され、ファンにもスポンサーにも苦笑いされて終わってしまうのが目に見えている。
     高校時代から比べて二回りも大きくなった、プロ選手に相応しい身体を持つようになったにも関わらず、不器用なところは相変わらず変わらない小林の気まずそうな姿に澤村は仕方なく返事を返す。
    「……次の休みに付き合ってやるよ」
    「すまん、助かる」
    「まあいいけどよ。……でも一応これってコンサルティングだよな?」
     そう告げる澤村の含みを持たせた言い方に小林は一瞬、ぐっ、と言葉を飲んだ。
     この渡り鳥のような恋人は、説明されても小林にはよく理解出来なかった横文字だらけの何らかの仕事をしているらしい。今更そんな生き方にどうこう言う気は無いし、底の部分に信用出来る根があることを知っているからこそ、小林がオフシーズンの間だけ澤村が会いに来るという関係が続けていられるのであった。
     しかし一応恋人である小林に対しても澤村のギャランティに関する考え方はとてもシビアだ。それも小林の仕事に関わってくる事なら至極当然のように報酬を要求してくる。しかし小林が一番苦手とする仕事の部分を依頼するならばそれも対等な関係である以上は当然かと、小林は澤村に依頼料の提示をしようとするとその言葉を遮るように澤村が口を開いた。
    「スポンサーのとこの飯、好きなだけ食うから、当然全部アンタの奢りだろ?」
     そう言って笑う澤村の顔を見て、小林は何か心から湧き上がる大きな感情を堪えるように眉間に皺を寄せた。

     晴れた日の海沿いの国道を車で走るのは、どんなに住み慣れても新鮮な気持ちで気分が良いなと小林は思う。東京生まれの小林には車で移動するよりも電車という公共機関が当たり前だったが、わざわざ家から最寄りの入谷駅ではなく鶯谷駅まで歩いて学校に通っていたほどには閉塞的な移動手段が苦手だった小林には、人が少なく車で全て移動する地方での生活が性に合っているのかもしれない。愛車と言えるほど思い入れは無いが、移動手段としてはなんの不満もない小林の車のスピーカーに澤村は自身のスマホからBluetoothで音楽を飛ばす。ランダム再生した『ELVIS』のサントラが流れ始めると、小林には聞き取れない早口の英語の歌詞を澤村は小声で口ずさんだ。
     色の薄いサングラスをかけ、頬杖をついて往年の名曲を口ずさむ澤村の姿は、小林が出会ってから何年経とうと一瞬見惚れてしまうほど絵になる男だ。一つ足りないのはその口元にタバコが無いことだ。高校時代、見つかって停学処分にならないかと小林の心配の種の一つだった澤村の喫煙についてだが、小林が大学時代にプロ選手になる一歩手前の指定選手に選ばれた頃から、澤村は小林と一緒の密室ではタバコを吸わないようにしていた。特に誰かに咎められた訳ではないが、小林の『ビジネス』の邪魔をするほど無粋な人間ではなかったようだ。
    「もうすぐ着くぞ」
     車中に流れるサントラの楽曲が半分ほど回った辺りで、小林が口を開いた。そのまま慣れた手つきで駐車した先は、ログハウスのような作りの若者向けの洒落たカフェレストランだった。
     店先に停められた青いキッチンカーには小林が所属しているチームロゴのステッカーが貼られていて、試合がある時は会場の外にこのキッチンカー並ぶそうだ。
     天気も良く海が見えるロケーションに若者が喜びそうなメニューが並ぶキッチンカー。それだけでもう写真一枚撮れば絵になるであろう素材が揃っていることに、今日の仕事は楽そうだなと澤村は思う。
    「挨拶してくるから少し待っていろ」
     そう言い残して店内へと向かっていく小林の姿を見送り、澤村は車の窓を全開にしてタバコに火をつけた。冬になれば雪が積もるこの地域の7月上旬は、じわじわと汗が出てくるものの不快なほどではない。窓枠に肘をついてシュロの木が並ぶ海を眺めていると、タイミングよくスピーカーが『ブルー・ハワイ』を流してきたことに澤村は気をよくした。
     3本目のタバコに火をつけたところで、戻ってきた小林が澤村に向かって車から降りるように促すジェスチャーをする姿が見え、タバコを咥えたまま車を降りた。
    「そこのテーブルに座っていてくれ。店主の方が張り切ってしまって色々持って来てくれるらしいが……まあお前なら食えるだろう」
    「へえ、気前良いじゃん。天気良くて良かったな、どう撮ろうがそれらしく写るだろ」
     やや申し訳なさそうな素振りを見せる小林曰く、バスケチームのスポンサーになってしまうくらいにはバスケが大好きな店主が、応援しているチームの選手の来店にテンションが上がってしまい、今日はプライベートだからと断ったもののご馳走されることになったらしい。
     それから少し待つと、トレーを抱えた店主が小林と澤村の元へ向かって来た。
    「小林選手お待たせ!ご友人の方も沢山食べてってね!」
    「気を遣わせてしまいすみません。有り難く頂きます」
    「ぜーんぜん!むしろオフシーズンに小林選手が来てくれるなんて嬉しいよー!沢山食べて来シーズンに向けて力つけてね!」
     人の良さそうな30代くらいの男性店主は急に訪れた地元チームの若手エースにとても気をよくしているようだったが、ふと、店主が澤村の方を見ると今までニコニコしていた表情が一瞬固まったのを澤村は見逃さなかった。咄嗟に澤村は今までの経験上から、気づかれない程度に程度に身構えたがすぐにその警戒は解くことになる。
    「……もしかして上南の澤村くん うわー嬉しい!昔ねインターハイ観に行ったんだよー その時のバスマガも取ってあるよ!澤村くん1年生の頃から上手かったよね!もうバスケやってないの?あーーー、いや、澤村くんの人生だからね、それは口出す権利ないね。ごめんね、忘れて!わー嬉しいな、いや相変わらずイケメンだなー、わざわざこんなとこまで来てくれたの好きなだけ食べてね!ほんと、ゆっくりしていってね!」
     目の前の店主は一息で捲し立てながら、食欲を唆る見映えのボリューミーなハンバーガーセット置いて店に戻って行った。そんな店主の勢いに面食らった澤村だったが、気まずそうな小林の姿を見てどうにか正気を取り戻した。
    「……すっげえな、フツー昔の高校バスケの事なんざ覚えてねえだろ」
    「わざわざバスケチームのスポンサーを志願してくれるんだ。思い入れが違う」
    「ふーん、良いじゃん。スポンサーがいねえとバスケが金になんねえからな」
     澤村は満更でも無さそうな笑みを浮かべて、さあ仕事の時間だとばかりに颯爽とスマホを取り出すと、小林は緊張で表情が険しくなった。

     小林のスマホを使い、パシャパシャと角度を変えて手慣れたように澤村は料理と小林を撮り続けている。カメラを向けられても一歳変わらない仏頂面は、どんなにプロ選手としてのキャリアを積んでも変わることはなかったようだ。もうそんな小林のところを指摘しても無駄だと思い、何も言わず微動だにしない小林を画面に収めていくが、小林とその前に置かれた美味しそうなハンバーガーの写真を一緒に画角に入れた時に、澤村はふと頭によぎった疑問を口に出した。
    「……この撮り方じゃアンタ、完全に匂わせてんな」
    「匂わせてるとは」
    「アンタのオンナが付き合ってることアピールしてる様に思われるって事だよ。今までインスタ放置してた癖に急に誰かに撮ってもらった写真アップするなんて意味深過ぎるだろ」
    「……あっ」
     全く気づいていなかったとばかりに顔をこわばらせた小林の表情を見た澤村は、バスケ以外はてんでダメだなと呆れつつポテトを摘んだ。
     まだまだ国内ではマイナー競技のバスケだが、ここ数年は演出と広報により力を入れるようになったお陰で、バスケのプロリーグはブームになりつつあった。特に女性人気が高くなり、選手の写真撮影を目的に立派な一眼レフカメラを下げて会場に足を運ぶ人も多い。かつてインターハイで一戦を交えた小林の戦友達もその対象となっている。
     桑田は人当たりの良さと爽やかさで老若男女問わず人気が高く、その手の人気ランキングでは常に上位に居るし、元金北の河村は『モテたいから』という理由でバスケ人気が熱い地方チームに所属し、地方局の美人アナウンサーと食事に行ったと嬉しそうに話していた。その先輩である高城は日本を代表するポイントガードと名高く、現在はリーグの顔となり宣伝の為テレビ出演などもしている為一般層からの認知度も桁違いだ。小林も例に漏れず、カメラ女子の被写体として人気なことを澤村も把握している。
     190cmを超えた長身に、外国籍選手に当たり負けしないフィジカルは日本代表候補に名が上がるパワーフォワード。すっかりトレードマークになってしまったツーブロックの髪型も相まって、小林がリバウンドを取るたびに実況が『今日もサムライが飛んだ!』と囃し立てられ、その勇姿がSNSに上がる度に若い女性からのいいねとリツイートが膨大な数になっている。しかし小林が作らされたなんの更新もないSNSアカウントはそんな熱心なファン達の間ですら、『公式アカウントがフォローしている以外に偽アカウントを証明出来る要素がない』『逆にそこが小林選手である証明』などと半ばネットミーム化している状態だ。そのようなところに明らかに誰かが撮影したであろう写真を急にアップしたら、確実に小林に濃い関係の人間が居るということを邪推されてしまうことは想像に難くない。小林と深い仲であることは事実ではあるが余計な面倒事を増やす訳にはいかない為、澤村はめんどくさいながらも頭を働かせて一つの解決法を考えついた。だが、思いついた解決法は澤村にとってはあまり乗り気ではない方法だが、一度引き受けた仕事である以上最後までやるのが筋だとばかりに澤村は重い腰を上げた。
    「……仕方ねえ、貸しだからな。とりあえずアンタはこれ口元に持って」
     困ったように固まってしまった小林に、バスケットボールがプリントされたドリンクタンブラーを持たせてポーズを指示する。澤村は言われた通りのポーズを取った小林の横に座ると、スマホを持った腕を前に突き出してインカメラでシャッターを押した。
    「お前も写っているが……」
    「仕方ねえだろ。サービスだよ」
     呆気に取られている小林の横で、澤村は手慣れたようにフィルター機能で色を鮮やかに補正しコメントを入力し始めた。
    「……よし、こんなもんか。後はアンタが頑張れよ」
     ハイ。とぞんざいに小林の手にスマホが戻された。戻ってきたスマホの画面を確認した小林は一気に狼狽えることになる。小林には絶対に撮影出来ない鮮やかな写真に写っているのは、変わらない仏頂面の自分と薄いサングラス越しでも顔の造形の良さが隠しきれていない男が顔を寄せて並んでいる。そしてそこに添えられたコメント──

    『小林先輩にもっと更新しろって言っておきました!これからSNS頑張るって言ってます。皆さん楽しみにしていてください! 高校の後輩より』

    「……なっ!これ、は合ってるの……か」
     まさかこんな投稿がされるとは思ってもいなかった小林は驚きのあまり思わず澤村に文句を言いたくなったのだが、SNSの所作を解っていない小林には反論出来る要素が無く、只狼狽える言葉だけが発せられた。
    「これしかねえよ。急に小林さんがなんか投稿したところで仕事感しかねえし、撮った人間誰だよって噂流れるだろうしよ。とりあえず取っ掛かり作ってやったんだから後は自分で努力しなよ」
    「……わかった。でもいいのか、お前まで顔を載せて」
    「サービスって言っただろ。ま、俺の顔もまだまだ需要あるみたいだしな」
     今も昔も需要しか無いだろうと盛大な惚気のような失礼とも取れるようなことを小林は思ったが、おそらくさっきのバスケマニアの店主のリアクションを受けてのことだろうと納得した。
     小林からの依頼をこなし、二人は少し冷めてしまったハンバーガーにかぶりつく。食べながら小林は写真を撮る時のポイントを教えてもらっていると、手の中のスマホの通知が急に断続的に鳴り続ける。
     なんだこれは。と小林が不思議そうに見つめた先を澤村も確認すると、先程アップしたばかりの写真に大量のハートとコメントが届き始めていた。
    「うわ、まさかこんなに反応あるとはな……」
     全く更新されていないアカウントにも関わらず、一度ファンの間で共有された投稿は瞬く間に広がり、投稿に喜ぶファンのリアクションでいっぱいになっていた。
     その半分近くは澤村へのメッセージで、『高校のときファンでした!』や『今でもカッコいいですね!』などといったもので、流石に一応一般人である澤村への反響を懸念して小林は口を開いた。
    「その……、大丈夫か? お前が嫌なら消して構わないが」
     すまなそうに提案する小林の態度に、少し驚いたような顔を見せて澤村はニヤリと笑う。
    「別にいいけど。この女共より、俺の方がアンタの色んなコト知ってるって優越感感じるし」
     その態度に瞬時に小林の顔が赤く染まる。出会ってから何年経とうとも、澤村がたまに見せる自分の色気を知っている上で敢えてする作られた表情にまんまと心を掻き乱されてしまう。
     側から見たら友人同士が一緒にハンバーガーを食べているだけなのに、そこに流れる空気には一気に情欲の匂いが纏わりつき、小林の首筋には暑さからだけではない汗が伝う。
     小林の向かいに居る澤村の瞳も薄い色のサングラスでは隠せない程に意味深に色づき初めていたが、そんな時店からバスケマニアの店主が「インスタ見たよー!!」と大量の差し入れを手に持って来たことで、二人の空気は霧散したのであった。

     また季節は巡り、10月に入った。プロリーグは今季の開幕戦が始まり、小林は自分の戦いの場であるコート上に居る。しかし満席の来場者の中にも帰った家にも澤村の姿は無い。オフシーズンだけの渡り鳥はまた何処かで自由に自分の力を試しているのだろう。
     そうして、ティップオフの合図が体育館に鳴り響いた。
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    Leko_HB

    DOODLE↓以前書いた三上兄がプロチームのHCをしている時空のK2の話です。
    長くなったので前後編に分けます。

    https://poipiku.com/33325/7775933.html
    雪がとける日に(前編) 日本で一番雪が降ると言われるこの街の寒さは、僕にとってはなんてことないものだ。確かに寒くはあるが、道路は除雪され歩く道はあるし何よりコンビニや自動販売機で温かいものがすぐに買える。日本人は皆『田舎』と言うけれど、ロシアの山奥にある僕の実家を思い出せば大都会にすら思えた。
     
     ──この街に来たのはちょうど2年前になるだろうか。

     大学4年の卒業間近南郷大の監督に呼ばれ、下部チームで外国籍として契約を考えているというオファーが来たと告げられた時は本当に驚いた。その時の僕は丁度進路に迷っていた時期だった。バスケの強豪である大学の周りの皆は社会人チームに内定したり、教員免許を取って体育教師への道へと順風満帆に進路を決めていた。中でも高校からのチームメイトである圭悟は大学3年の時には既にプロリーグの上位チームから特別指定選手として声がかかり、既にプロのコート上で活躍し始めていた。他の筑波の皆も順当に各々の進路が確定した中、僕だけが宙ぶらりんのままだ。
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