#雨水もっと早く決断すればよかった。もっと早く。
後悔だけはいつまでも降り続いていく。
父は険しい顔をしていた。
月明かりもない海の闇は荒々しく波しぶきを舞わせていた。
「父上、母上、どこに行くのですか」
無邪気な声で従弟のジンが叔父に声をかける。
「この海の向こうに私たちの国があるのですって」
幼い彼には理解できないだろう。確かにこの海の向こうに土地はある。けれど、私たちの国ではないのだ。それを『与える』と、一族の長である妲己が言った。
数十年前、そこから渡って来た七尾の狐神がいた。怪我をして辿り着いたその男を、父の親族たちの中でも力が弱くはみ出し者であった女が拾い、あろうことか夫婦となった。その夫婦は追放されることまでは無かったが、むしろ追放された方が幸せでは無いかと思うほど、親族に虐げられた。
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