何で眼鏡かけ始めたんだ、と訊けば予め用意されていたような「答え」を返される。
タブレットを見る機会が多いから眼を保護する為だ、最近疲れやすくなってきたから、などとそれらしいことを並べれられれば、納得せざるを得ない。
レンズ越しでは、いくら無色透明だとしてもアブトの綺麗な黄檗の瞳がちゃんと見られない。
こっそりとオレを追いかけて、時折優しく、時折激しく揺れる虹彩が堪らなく好きだというのに。
アブトは隠してるつもりなんだと思う。
口ではいくらでも嘘をつけるけど、ふとした瞬間に合わさる瞳は何よりも雄弁だ。
もしかして、だから?
けれども視力を保護するためと言われたら引き下がるしかない。
そう思ってた。
オレは隙を見て眼鏡を取りあげる。
「何するんだ、返せ!」
抗議を無視して、眼鏡を取り戻そうと伸ばした手を逆に捕まえた。
せっかく納得してやったのに、オレがいないところでは普通に眼鏡を外してるってどういうことだよ。
偶々忘れ物を取りに戻り、ついでにアブトの顔でも見ていこうかと整備室を覗けば、眼鏡を置いたままキーボードを叩く姿。
他の整備士たちと談笑し、そう言えば眼鏡は?と訊かれれば「ただの気分です」と答えたのを聞いてオレがどんな思いだったと思ってる。
でも、そのお陰で確信できたよ。
そのまま、ずいっと顔を寄せて、アブトの瞳の奥を探る。
濡れたような光彩が揺れていた。
「アブト」
「…なんだよ」
「お前って嘘が下手だよな」