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    ふきのとー

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    ふきのとー

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    新多家。
    クリスマス回で、パパが帰ってきた夜あたり。

    十歳男子ってどこまで素直ですかね
    中学入るまでは可愛いと諸先輩方に聞かされてるので、十歳ならまだありかなと。

    「父さん、今日は一緒に寝てもいい?」

    キラキラした目で、久しぶりに会った息子にそうせがまれたら、断わける訳がない。

    小学生の息子に合わせた就寝時間に一緒に広いベッドに寝ころんだ。
    しかし爛々と目を輝かせている息子は寝る気は全くなさそうだ。
    あれこれとねだられるままに、今回の発掘調査についてや海外の話を聞かせてやる。
    一つ一つに相槌をうったり頷いたり、続きを促してくれたり、うちの息子は大変聞き上手だ。発掘調査でテオティワカン遺跡についてに話が飛んだ。
    息子も自分に似て知識欲の塊だから、あらかじめ情報は揃えているので、話はより深くなる。

    「その遺跡では頻繁に王が儀式を行ってた形跡があって」
    「うん。…よく生贄とかをささげてたんでしょ。心臓をえぐり出して、それを神様にささげるってやつ…」

    言ってて怖くなったのか、声が小さくなっていった。

    「何でそんなことするんだろう。神様が欲しいって言ったわけじゃないのに」

    何かを思い詰めている。

    「生贄と、僕たちは今は呼んでいるけども、当時の人たちにとっては守ってくれる救世主だったのかもしれない」
    「救世主…」

    普段は明るい笑顔の多い息子だが、今は嫌悪に眉を寄せている。嫌な黒い予感を恐れているかのような、何か怒りを孕んでいるかのような。
    こんな「男」の顔を自分は今まで息子に見たことがなかった。

    「救世主にされた人は、幸せなのかな」

    まさかそんな質問が来るとは思わなかった。
    自分と妻の面影を揃えた息子の顔をまじまじと見てしまった。
    だから自分も正直に答える

    「わからない」

    それが最適解だ。

    「生贄という呼び方が適切か分からないけれど、人の命を供物にささげる風習は世界中にある。それこそ人類が文明を築き始めてから。キリスト教で羊をささげる風習は人間をささげる代わりしたという説もあるし、日本も例外ではない。今でも神事の際にご飯を人型に模して備えている神社がある。…なぜ人型なのか、その意味は分かるかい」
    「……前に読んだことがあるんだけど、妖怪とかって、人を食うやつ多いよね。それってさ、本当に人間が食べられてたからかな」

    …ひどい飢饉の時などそういったことがなされていた、特に子供が犠牲になっていたという話もあるが、そこを今彼に伝えたくはなくて口をつぐんだ。
    もう少しの間だけ、子どもには世界を綺麗なままで見ていて欲しい。
    フィジー諸島共和国にも、人食いや人柱(柱の下に生贄を埋める)儀式の記録は鮮明に残っている。むしろそれが観光地化している。
    人を切り分ける石の台、人肉を指すための専用のフォーク。
    人は人の命を軽視するきらいがある。
    記録の残っていない昔から、世界中で。
    それを救世主と呼んだか、犠牲者と呼んだかは分からない。
    人は分からないことだらけだ。
    だから想像することを止めてはいけない。
    今でさえ、軽視され続けている。自らの命を自ら軽んじている。
    軽視しているくせに、神聖視しすぎている。
    だから世界中で悲劇は終わらないんだ。
    君が生まれて確信したよ。命は尊い。人が一人産まれてくるまでにどれだけの歴史と想いが詰め込まれているのか。
    それは必ずしも良い感情だけではなかったとしても。
    沈黙が降りてしまった寝室に、柔らかい声が入って来た。

    「むずかしい話をしてるのね」

    そういって、息子を挟むように、ベッドの反対側に潜り込んでくる愛しい存在の内の一人。
    トキは少しはしゃぐように言った。

    「今日は3人で寝るのね」
    「ええ~恥ずかしいよ」

    言いながらも、ベッドから降りようとはしない。

    「人は人を傷つけることが出来るけど、人を護ることもできるわ。お母さんは、いつも一生懸命がんばってるシンくんが好きよ」

    話しの路線がずれたようではあるが、けれど帰結する先はそこだろう。
    照れたように笑った息子に、先程の「男」の影はなかった。けれども近いうちに、幼さはそれに進化してしまう。わずかな寂しさと誇らしさが去来していく。
    人の温もりに眠気が襲ってきたのか、瞼を擦りはじめた息子に、もう寝なさいと伝えて消灯した。

    現代は、以前までは世界中で行われていたことを忌避する考えが当然となっている。
    もちろん僕のあずかり知らぬところでは、まだ残っているのかもしれない。
    けれども、この後の世界を創る一人である自分の子どもたちには、人の大事さを伝えられるだけ伝えていきたい。
    もちろん、自分自身を大事にすることも。
    それが、親の使命であるべきだと僕は思いたい。




    三人の会話を廊下で聞いていた私は自室にパタパタと戻った。ちょっと自分も混ざりたかったが、それは今度にする。
    スマートフォンを取り出して自身のブログサイトを開いた。
    誰かに認知させる為ではなくとも、記録として、書き残しておかなきゃいけないと、拙いながらもジャーナリストである血が騒いだのだ。
    あのヒトが言っていたみたいに世界には認められなくても、私は覚えていたい。
    世界のために戦っている弟たちと、弟が抱えている大事な思いを。
    それをまとめ上げたら、見せてやるんだ。
    彼が救うだろう命に。
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