「あっ…」
どこか艶を帯びた声音が待機室に響く。
白磁の頬を薄く薔薇色に染めてアブトは後ろの相手へ、今の素直な気持ちを伝えた。
「んっ、そこ…気持ちい…」
本心を見せないことの多い彼だが、今は分かりやすく恍惚とした表情を浮かべていた。
「んっ、…そこ。そこをもっと、もっと強く押してく……ああっ」
少しばかり眉根を寄せて苦悶を浮かべたが、すぐさま身体を弛緩させる。
はぁ、と吐き出された息が熱い。
アブトの背後から手を動かしていたシンは、慈しみの眼差しでアブトへ優しくささやいた。
「アブト、どこをどういう風にしてほしいか、どう感じるのかちゃんと言ってくれよ? じゃないと加減が分からないからさ」
「…問題ない。上手いぞ、シン……」
濃密に親密な二人の気配は室外へも漏れていた。
盛大に口許をひきつらせて入り口でフリーズしているハナビを、遅れてやって来たタイジュが見つけて不思議そうに尋ねる。
「どうしたんですか? ハナビくん」
「……入れねぇ」
「え?」
『もう少し、ゆっくり……』
『こう、か?』
『あぁ…いいな…』
タイジュの耳にもあえやかなアブトの声が届いた。
先程よりも固まるハナビに対して、タイジュはポンと手を打ち、
「ああ、そういうことですか」
「ホワッツ!? なんでそんなに冷静なんだよ!」
「失礼しますよ」
「ちょ、待て、タイジュ!!」
ダチのそういうシーンは勘弁してくれ、とかなんとか叫んでいるハナビを無視する形でタイジュは中に入った。
ハナビもタイジュを追って中へ飛び込む。目をぎゅっと瞑って。
「あ。お疲れ二人とも~」
「遅かったな」
いつも通りの声がかけられ「ホワッツ?(2回目)」と目蓋をあければ、いつも通りのシンとアブトがそこにいた。
ちなみに衣服は少しも乱れてたりしていない。
どういうことだと、ハナビは目まぐるしく二人を観察する。
手前の椅子に座るアブトの背後に立ち、両肩に置かれたシンの手を見て悟った。全てを。
「肩揉んでただけかよ!」
おまけ
「アブトくん、自分、肩もみに自信ありますよ。よくじいちゃんにしてあげてました」
「そうか、なら頼めるか?」
「もちろんです」
とか、和やかな空気のなかハナビだけがアブトを睨んでいる。
シンはタイジュと肩もみを代わると「ちょっとトイレに行ってくるな」と普段通りの笑顔で出ていった。
タイジュの肩もみが終わっても、ハナビの視線の険は取れない。
タイジュがサーバーへ飲み物を取りに立ち上がったタイミングで、気づいていたアブトがようやく「なんだ」と素知らぬ顔で訪ねると、ハナビは真っ直ぐ静かに怒る。
「おまえ、いい加減にしとけよ」
シンが気の毒だ。と言外に伝えれば、アブトはバレたかと言わんばかりに小さく舌を出した。