としうえの、悪い人 ごめん、他に好きな人ができちゃったんだ。
そう言われて、仗助は一年付き合った恋人に振られた。年上の大学生で、ファーストキスも童貞も全て捧げた人である。すらりとした体型に短い髪がよく似合う美人だった。
このままお付き合いして、社会人になったらプロポーズしよう。そんな青い誓いは、あっさりと砕かれたのである。
「うう……」
とめどなく涙が流れる。仗助はハンカチを目に押し付け、こみ上げてくる悲しみにひたすら耐えていた。
「大学生だろ? 価値観が変わる時だからな、急に高校生が子どもに見えたりしたんじゃないか」
「そっ……そうかも、しれねぇ……っスけどっ……」
話すと声が震える。仗助は、岸辺露伴と彼の家のリビングで向かい合っていた。振られてぼんやりと歩いていたところに声をかけられ、泣き出してしまったところを保護されるように連れてこられた。人目もなく我慢する、仗助はひたすら泣いている。
「そんなに好きだったのか」
「ん……っ」
際立った趣味を持たない仗助にとって、彼女は全てに近かった。もしかしたら、それが良くなかったのかもしれない。だが、何もかも後の祭りである。
「まあ、辛い時は泣けるだけ泣いてりゃいいよ」
「っく……」
普段はすこぶる感じの悪い露伴が優しい。傷付いた心に、その優しさは染み入った。
「ううっ……ぅあっ……」
仗助が顔を覆うと、露伴は立ち上がり隣に腰掛ける。そして、肩を掴んで抱き寄せられた。
「ろあんせんせ……」
「ぼくが胸を貸してやるんだからな」
「うううっ!」
ぎゅうっと仗助は露伴に抱き着いた。小柄な露伴はすっぽりと仗助の腕に収まる。そのぬくもりに救われるような気がした。
「っく……」
「お前、たちの悪いのにひっかかりそうだなぁ」
ぽんぽんと優しく背中を叩く露伴は、これまで聞いたことがないほど柔らかい声をしている。きゅうっと胸が締め付けられた。
「こうやってさ、失恋したところに声を掛けてくるのなんて常套手段だぞ」
「へ……?」
恐る恐る体を離し、仗助は露伴の顔を覗き込んだ。すると、表情も柔らかい。
「ぼくがなんの下心もなしで、お前をここに連れてきたと思ってんのか?」
そう言って意地悪そうな表情を作った露伴に、仗助の胸が再び締め付けられる。
「あ、あるん……スか」
露伴は答えない。ただ、黙って仗助の顔を引き寄せて抱きしめた。
「どうだろう」
耳元で囁かれた言葉に、頭を殴られたような衝撃がある。優しさだけじゃない。妖艶な響きを感じ取ってしまい、体がカッと熱くなったのだ。
どうしよう。振られたばかりなのに。あまりに軽率なんじゃないか。心臓がうるさい。涙はいつの間にか止まって、代わりに目の奥が熱くなった。
「試してみる?」
直接吹き込まれた声に、仗助は抗えなかった。