屈んで、背伸びして 真木壮介、174センチ。
前島せとか、145センチ。
その身長差、実に29センチ。頭ひとつ分違う。
「せめてあと10センチ欲しかったわ」
せとかは時々そうぼやく。それに対して真木は、んだか、と労りを持って相槌を打ちつつも、あんまし高いヒール履くなよ、とつい忠言してしまう。せとかは低い身長を補うためにか、よく高さのある細い靴を履いてくる。転びやしないかとややはらはらする真木だ。せとかはいつもちょっとうるさそうにそれを聞いている。
それに、小柄なのも悪くないと真木は思う。
せとかが、ふと真木の袖を引く。真木がせとかの方を向いて、「ん?」と視線で問い返すと、物言いたげに更に強く裾を引く。ああ、とようやく察した真木が膝に手をついて屈むと、せとかは決まって少し面白くなさそうな顔をする。照れ隠しも大いに含むのだろうと解釈して、真木はせとかの足元に視線を落として待ち受けた。
つま先に力を込め、浮き上がる踵を見るのが真木は好きだ。迫る気配。額に触れるやわらかい感触。すぐに音もなく離れていく。真木が目を上げると、わざと作っただろう仏頂面にぶつかって思わず微笑んだ。
「いいなあ」
「なに」
「背伸びすんの、めんげえ」
「……せやろせやろ、感謝しい」
甘い仕草のあとに、打って変わって居丈高。恥じらいを押し込めたせとかの声も趣がある。小柄なのも悪くない。身長差の醍醐味である。