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    p3neru

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    p3neru

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    ソ→凡←天
    ⚠若干ですがソラ天要素があります

    両手に星薄闇に包まれた部屋の中、窓を叩く小雨の音に混じってピアノの音色が静かに響く。
    部屋の中央では、2人の少年がグランドピアノに向かい合っている。そんな彼らを包み込むように薄雲が漂い、空中には複雑な模様の惑星が浮かんでは揺れている。やがて、2つのファンタジーは徐々に境界を失って混ざり合っていき、この世のものとは思えない光景が室内に広がっていった。演奏の手はを止めずに頭上の惑星を見上げたソラチカは、この家に訪れた大きな変化を思い返していた。
     うるさいほど蝉が鳴いていたあの日、ソラチカは待ち望んだ彼との対面を果たすことができた。父に連れられたラッキーはソラチカを見るなり頬を赤く染めて、嬉しそうに微笑んで名前を呼んだ。そんな彼にペンダントを手渡せば、ますます顔をほころばせて、両手で大事に握りしめていた。それから時間の許す限り2人でピアノを弾いて、帰りの飛行機の中ではたくさんおしゃべりもした。キョウダイたちと対面したとき、レイジロウやファンタは酷く動揺していたような気もするが、あまり気にはならなかった。ラッキーが正式にデビューした後も、暇さえあれば2人で過ごすことが多い。一緒にピアノを弾いて、おしゃべりをして、時には外に出たりもして、長い間暗闇に閉じ込められていた彼は知らないことも、やりたくないことも多かったようだけれど、ソラチカはそんな彼の世話を焼くことも楽しかった。ようやく出会えた君は最高の未知を見せてくれた。演奏会でもその圧倒的な未知を持って、人々の視線をたちどころに奪ってしまう。17年もの間見つけられることもなく封じられていたファンタジー、劇薬にも等しい彼の演奏を一番近くで聞くことのできるこの時間がソラチカは好きだった。
     ちらりと、隣の彼に視線をやれば、鍵盤を映した瞳を愛おしげに細めて演奏している。人前での演奏会は面倒に感じることも多いようで、不満げに唇を歪めていることも少なくないが、この時間だけはいつも上機嫌だ。揃いの指輪をはめた指先が鍵盤を叩く度に、ピアノの音に混じって彼の声が聞こえてくる。
     楽しい、ソラチカと一緒に過ごせて嬉しい、愛すべき僕のファンタジーは今日も素晴らしい、また会えて良かった。
     その声はどれも溢れんばかりの喜びに満ちていて、心から演奏を楽しんでいる彼の様子に、ソラチカは自然と口角が上がるのを感じた。

     嬉しい、嬉しい、ピアノ、ぼくのファンタジー、楽しい!

     ―だめだよ!

     一瞬、指が止まる。喜びにあふれたラッキーの音の裏にほんの小さな声が聞こえた気がした。小雨の音よりも小さくて、ピアノの音にほとんどかき消されていたけれど、確かに聞き慣れたラッキーの声だった。彼のものではない、あの冬以来聞いていなかった声。最後に会った日から一年も経っていないのに、なぜだかとても懐かしいような気がした。ピアノの手は止めずに、目を閉じて音に集中する。

     ―自分勝手なことをしてはだめだよ!周りの人を困らせないで!
     ―マネージャーさんに酷いことを言わないで!ちゃんと言うことを聞かないとだめだよ!
     ―キョウダイには優しくして!レイジロウともっと話をしないと!

     徐々にはっきりと聞こえてきた声は彼の言動を責めるようなもので、ソラチカは違和感を覚える。声は正真正銘あの時のラッキーのものだが、果たして彼はこんなことを言うような人物だったか。いつか指摘した通り優しさというエゴを持っていた、けれどもここまで一方的なものではなかったはずだ。怒っているような、笑っているような、あるいは悲しんでいるかのような声は、その逆になんの感情も込められていないようにも聞こえる。なんとなく、いつかのクリスマスにプレゼントされた喋るぬいぐるみを思い出した。電池が切れかけたときに同じ言葉しか喋らなくなって、レイジロウが怖がっていたっけ。一方的に話しかけ続ける声は、あのぬいぐるみのように機械的で、ちぐはぐで、感情的なのに無機質で、ソラチカは少し、興味をそそられた。
     どうして彼を責めているの?天才を選んで彼と一緒になったのではないの?今きみはどこにいるの?どんな気持ちで、どんな表情をしているの?知りたいことが、聞きたいことがいくつも生まれてくる。とめどなく湧き上がる好奇心と知識欲に浮かされるまま、指先に力を込めた。

    ―ラッキー。

    返事はない。声は変わらずに隣の君に話しかけ続けている。その彼は、一瞬、ちらりとこちらを見たが、いつものおしゃべりだと思ったのか、すぐに鍵盤に視線を戻した。
    もう一度、鍵盤を叩く。

    ―ラッキー、聞こえる?

    ―……ソラチカ?

    ピタリと、天才を咎める声が止み、しばらくしてから小さく名を呼ばれた。それは今までの空虚な声とは違って、頼りなく、所在なさげに細く震えている。これまでとは違う人間らしいものを見せた反応に、余計に興味がそそられる。知りたい、彼のことをもっと。感情に突き動かされるまま、演奏のテンポを上げて指を動かす。

     ―ねぇラッキー、君は今どこに、

     突然、音が止まる。ゆったりと軌道を描いていた惑星は水に溶けるように消え、大きな窓から鈍く照らされた部屋が戻ってきた。隣を見れば、演奏を止めたラッキーと目が合う。常に鍵盤を映した瞳は、温度のない色でこちらを見つめていて、ソラチカはゆるりと首をかしげた。

    「ラッキー?」
    「あれに話しかけようとしたでしょう。」

     鋭くラッキーの言葉が投げかけられる。普段ソラチカに語りかけるものとは全く異なる冷めた声に、内心少し驚いた。

    「だめだよ、ソラチカでもそれはだめ。」

    返答を待たずにそう言って、ラッキーは一つ瞬きをすると、にっこりと読み取りづらい笑みを浮かべる。

    「ぼくはあの日見つけてくれたソラチカが好き、大好き。だからソラチカになら、何をされても、ぼくをあげてもいいと思ってる。」

     父に与えられた指輪をつけた手がペンダントの鎖を絡ませている。その横顔は、淡く頬を染めていた。思わずその表情に目を奪われていると、でも、と言葉を区切って再び視線が合わされる。

    「あれはだめ、ソラチカでもだめ。あれの姿を、顔を、声を、聞くのも見るのも知るのも触れるのも、ぼくだけでいい。あれはぼくだけのものだからソラチカにもあげない。」

     そう言って眼の前の彼はにやりと、わずかに歯を見せて笑った。あの子はしなかった攻撃的な表情。ラッキーはそのままちらりと壁の時計を見上げると、「父さんに呼ばれているから。」と言い残し、背を向けて部屋を出ていった。後にはノイズにも似た雨音とソラチカだけが残される。静寂に満たされた部屋の中、眼の前の鍵盤をそっと撫でる。ひんやりとした滑らかな感触を感じながら目を閉じれば、先程のラッキーの言葉が反芻される。そしてもう一度、鍵盤から聞こえたあの声を思い出す。天才を責め立てる無機質な声と、ソラチカの名を呼んだ、雨音よりも小さく、か細い声。無意識のうちに口元がゆるりと弧を描く。

    ―ソラチカにもあげない。

     ごめんねラッキー、それでも俺は彼のことを知りたいと思ってしまった。
     どうしてそこにいるのか。どんな顔で、どんな思いで天才の君に語りかけているのか。あのとき彼が着ていたという死装束を君も着ているのか。新たな未知である君たちを全て知って、話して、触れることができたなら、それはとても素敵なことだと思う。
       
     だからごめんね、君がそう言ってもあの子を諦めることはできないよ。

     早鐘を打つ心臓に、珍しく自分が高揚しているのを感じた。誰もいない部屋でソラチカはひとり、砂糖を煮詰めたように甘く蕩けた笑みを浮かべる。その瞳は、星を映したかのように爛々と輝いていた。


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    p3neru

    DONEソ→凡←天
    ⚠若干ですがソラ天要素があります
    両手に星薄闇に包まれた部屋の中、窓を叩く小雨の音に混じってピアノの音色が静かに響く。
    部屋の中央では、2人の少年がグランドピアノに向かい合っている。そんな彼らを包み込むように薄雲が漂い、空中には複雑な模様の惑星が浮かんでは揺れている。やがて、2つのファンタジーは徐々に境界を失って混ざり合っていき、この世のものとは思えない光景が室内に広がっていった。演奏の手はを止めずに頭上の惑星を見上げたソラチカは、この家に訪れた大きな変化を思い返していた。
     うるさいほど蝉が鳴いていたあの日、ソラチカは待ち望んだ彼との対面を果たすことができた。父に連れられたラッキーはソラチカを見るなり頬を赤く染めて、嬉しそうに微笑んで名前を呼んだ。そんな彼にペンダントを手渡せば、ますます顔をほころばせて、両手で大事に握りしめていた。それから時間の許す限り2人でピアノを弾いて、帰りの飛行機の中ではたくさんおしゃべりもした。キョウダイたちと対面したとき、レイジロウやファンタは酷く動揺していたような気もするが、あまり気にはならなかった。ラッキーが正式にデビューした後も、暇さえあれば2人で過ごすことが多い。一緒にピアノを弾いて、おしゃべりをして、時には外に出たりもして、長い間暗闇に閉じ込められていた彼は知らないことも、やりたくないことも多かったようだけれど、ソラチカはそんな彼の世話を焼くことも楽しかった。ようやく出会えた君は最高の未知を見せてくれた。演奏会でもその圧倒的な未知を持って、人々の視線をたちどころに奪ってしまう。17年もの間見つけられることもなく封じられていたファンタジー、劇薬にも等しい彼の演奏を一番近くで聞くことのできるこの時間がソラチカは好きだった。
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    p3neru

    DONE注意⚠
    ・単行本未収録話のネタバレを含みます
    ・過去捏造あり
    ・本編終了後、諸々が解決して和解もできた時空のつもりで書いています。あまり出てきませんが天凡も和解済みです
    ・ファ編終了前に書き始めた作品なので描写がおかしいところがあります

    ただただラッキーが幸せになって欲しいという思いで書きました…!個人的な願望がつまりまくっています。
    ラッキーが甘やかされる話おいしいごはんを食べよう


    「ミーミンばっかりずるい!僕もラッキーの部屋遊びに行きたい!」

     きっかけは毎日の習慣となっているレイジロウとの通話の中で、うっかりミーミンが以前寮に遊びに来たことを漏らしたことだった。「次日本に行ったときには絶対遊びに行くから!」と張り切るのをなだめて通話を終わらせたわずか2日後、言葉通りレイジロウは学生寮に現れたのだった。

    「ここがラッキーの住んでる部屋・・・!」

    某テーマパークにはじめて訪れたときと同じ表情で、なんの変哲もない殺風景なワンルームを見回すレイジロウにラッキーは思わず苦笑する。

    「レイジロウ、来てくれてありがとう。でも仕事とか忙しいんじゃないのか?」
    「ラッキーに会うために全部終わらせてきたから大丈夫!しばらく休めるようにしてきたからいっぱい遊べるよ!」
    20094