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    huutoboardatori

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    huutoboardatori

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    受験期の遺物 当時はレオいずのつもりで書いてたので注意‼️‼️
    読み返すと全然文が下手で死ぬ マジでそのまま転載しただけです……

    口ずさむクリスマスソング

     瀬名はクリスマスが嫌いだ。
     いや、クリスマスが嫌い、と言い切ってしまうと少々語弊があるかも知れない。別にイエス・キリストの生誕日そのものが嫌いなわけではない。

     12月になるかならないかの間に、まだ冬の初めの街をてかてかの金色のベルやら人工的な緑のリースやら目に毒なほど赤いリボンやらが埋め尽くし、安っぽい会いたい大好き愛してるが飛び交うクリスマスソングがあちらそちらで流れ出す。
     内心ではクリスマス自体になんてさして興味もないくせに、空騒ぎするための、はたまた金儲けするための程のいい口実にしている感じが、瀬名には我慢がならないのだった。

     前買い物をした時に、どこの店にも際限なく飛び込もうとする阿呆の首根っこを捕まえながらそんなことをぼやいたら、「セナはほんとうにめんどくさいやつだなあ!」と笑い飛ばされてしまった。

     したがって、毎年師走の末の瀬名は不機嫌なのだ。

     しかし、今年に限っては、ひとつだけ「悪くない」ことがある。嫌いな、不快なものだらけのこの世界では、「悪くない」ものさえもめずらしい。

     いつも通り冬の商店街を足早に通り抜けていると、耳に飛び込んできた、いつだったかに歌った聖歌の伴奏のような四重和音。

     思わずせかせきと歩いていた黒ブーツの足が止まった。無数のクリスマスソングのなかにひとつ、格別に美しいものがあったのだ。素通りしていくことが出来ず、瀬名はそこに縫い付けられたように動けない。

     歌詞なんてなかった。心の琴線に直接触れられているかのような、軽やかで優しげな、人のあたたかさだけを掬い取って何倍にもふくらましたみたいな旋律。それを追いかけるように、綿々と続いていく神秘的で心地いいな四重和音。それらが、大切な人へ贈り物をするかのように繰り返されていく。それだけで、クリスマスの歌だとしっかり分かった。

     最後に、愛しい人にひとつ微笑みを残すように、どこまでもやさしく献身的な余韻を残してそのメロディは終わった。スピーカーはまた、違うありふれたクリスマスソングを流しだす。
     ようやくふたたび歩き出した瀬名の足取りは、先ほどまでより軽かった。

     そのメロディは、たびたび瀬名の前に現れた。そこそこ流行っているのだろう。あちこちで、店内音楽として流れているのが聞こえた。その度に、瀬名は柄にもなく素直に心を弾ませた。
     否応なく感情が動いてしまうような、キャッチーな主旋律は脳内から鼻歌となって外へと出て行く。馴染みのスタッフさんたちには、クリスマス前の泉くんがご機嫌だなんて!と大袈裟に驚かれる。いくら苛立っても、肝心なところであの旋律が流れ出すから、瀬名は不機嫌になりきれなかった。

     雪のかけらがチラチラ舞うクリスマスイブの日。
     瀬名は少しだけ豪華な夕食に、市場の野菜をたっぷりと入れて、たまたま売られていたドイツのソーセージと合わせたポトフを煮込んでいた。目の前の鍋からは、くつくつと心地いい音が聞こえる。うまくいった気配がする。場所によって滲むように、濃さが虹色に変わり、とろりとまろみのある光沢の琥珀色のスープか波打っている。オレンジのホウロウ鍋をゆったりと使い込んだ木ベラでかき回すと、ふんわりと湯気が立ち昇り、瀬名の鼻腔に、胃袋を直接握り締めてくるような匂いが届いた。
     リビングでヘッドホンをしてパソコンに向かっていた月永が、煮えた野菜とコンソメの出汁のいい匂いに釣られてゆらり、とリビングと対面型のキッチンに現れた。

    「いいにおい……。」

     まだ作曲の世界からいまいち戻ってこれていないのか、少しぼうっとした様子で月永は呟いて、瀬名の後ろからひょこっと鍋を覗き込んだ。瀬名は背中に後ろからのし掛かられて、思わず前のめりになる。

    「ちょっとぉ、肩に顎乗っけないでよねぇ、れおくん。あぶないでしょ」

    「ん〜〜……。」

     空返事で肩口に額をぐりぐり押し付けられる。猫か。
     まだどうにもならなそうな月永を放置して、瀬名は眼前のポトフに集中することにした。くるくると鍋をかき回すと、自然と軽やかに鼻歌が漏れ出した。

     例の「悪くない」あのメロディだ。しっとりとやわらかなメロディは、瀬名の少し癖のある声に、意外なほどしっくりきた。

    「!おまえ、その曲……!」

     突然夢から醒めたように、むにゃむにゃ言っていた月永はがばっと体を起こすと、見ているこちらが気圧されるほどに目を輝かせた。

    「あっちょっとあっぶない!こぼれる、こぼれる!」

    「セナセナセナセナッ、その曲!その曲はどうしたっ!?!?」

     突然肩に体重をかけられて瀬名がよろめくと、鍋の中の琥珀色の液体が大きく波打った。突然のインスピレーションだろうか。火元で騒ぐ十九歳児を睨みつけると、カチカチとコンロのつまみを回して瀬名は火を消した。もう充分に煮えただろうし、こう騒がれては危険だ。ホウロウ製の重たい鍋蓋でことんと蓋を閉じると、綿入りのミトンを両手にはめ、木の鍋敷きをあらかじめ引いておいた二人がけのダイニングテーブルへ持っていく。その間にも、あの阿呆はセナセナセナセナと瀬名にひっつき、騒ぎつづけている。

    「皿を出す!俺とアンタの分の白い深皿二枚、スプーンとフォーク二セット、あとサラダ用の紺の取り皿それにグラス!ハイ、まず持ってきて!」

     そう言って瀬名は月永の背中を食器棚の方へと押して、自分は冷蔵庫へと向かう。ラップをかけておいた山盛りのシーザーサラダに、月永が買ってきた固焼きのパンとスパークリングのぶどうジュースの瓶を取り出す。
     出させておいた皿にスープとサラダを取り分けて半分に切ったパンを添え、グラスにジュースを注ぐと、すっかり食卓の用意は整った。

    「なあセナッ!おまえ、さっきの歌はどうした?どこで聞いた?好きなのか??」

     用意がちょうど終わったのをソワソワと行儀よく待ち、瀬名がテーブルについた頃を見計らって、月永はもう一度、いきせききって瀬名に尋ねた。

     街で聞いた。あまりに綺麗だったから、思わず足が縫い付けられた。聞くたびに心が弾んだ。悪くない、ううん、むしろ好ましい曲と、今の瀬名は思っていた。でも素直にそういうのがなんだか気恥ずかしくて、言葉を濁す。

    「べっつに……。街で聴いて、それからあっちこっちで聞くし、ちょっと悪くないかなって思っただけ。なに、俺がクリスマスイブにご機嫌なのは珍しい?」

    「セナの『悪くない』は、セナ語で素晴らしく大好き!って意味だな?」

     照れ隠しでつい飛び出した余計な一言には目もくれず、レオは心底得意げに、子供のように笑った。

    「はぁ?セナ語って」

    「おれの曲」

    「は??」

    「その曲、おれの曲」

     思わず、開いた口が塞がらない瀬名。
     いやいやいやいや、そんな。そりゃあ、天才的な歌だったけどさ。まさかうちの天才製だったとは。ていうか結構そこら中で聞く曲なんだけどぉ?そんなにデカい仕事入ったなら少しくらいは言いなよねぇ?
     でも、すこしどこかで合点がいく自分も居た。
     
     俺の中の天才は、間違いなく、ずっと変わることなくコイツなんだろう。

     俺だけの天才ではない。月永は、この世界の中で、間違いなく選ばれし天才だろう。そして、この世界には、コイツみたいな天才はごまんといる。でも、瀬名の中での月永は、初めて出会った本物の天才なのだ。その意味はおそらく、一生変わらないだろう。

     いまだ若干衝撃が抑えられない顔をした瀬名に、レオは続ける。

    「瀬名はクリスマス嫌いって言ってたから、なんとなく教えなかったんだけど、でもセナ!おまえはその曲を“悪くない”って思って歌ってたんだろ?俺は嬉しい!セナがおれの曲を見つけ出し好きになってくれたことも、こうして一緒に楽しいクリスマスイブが過ごせることも……!」

    「……ポトフ冷めるよぉ、早く食べなよねぇ?」

     せっかくこの俺が腕によりをかけて作ったんだから、あったかくて美味しいうちに食べなよねぇ、とすこしそっぽを向いて瀬名が言うと、月永は、ほんとうにセナは、めんどくさい奴だな!とたのしげに笑い、いただきまーす!と一口スープを飲んだ。さっきの冷めるよぉは、セナ語で『俺も嬉しい』ってことだろう。

     野菜とコンソメが複雑に絡み合う味は、奥深く魅力的だ。手間のかかるめんどくさいものは、めんどくさければめんどくさいほどうまみを増すと、月永は思う。複雑で素直じゃなくて、面倒なものが、月永は好きだった。
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    huutoboardatori

    DONEオーブの文字です ブラックホール直前くらい?
    死人がガバガバ出てるので注意‼️
     ぐうううううと、そこらを思い切り鳴らすような音がした。

    「お前……」
     ジャグラーは、思わずガイの顔を見つめた。
     ガイは手に持った松明をぱちぱち言わせたまま、まだちょっと理解が及んでいないであろう顔で呆然とした。自分のお腹の音に。
     そこらの倒壊した柱で組まれた櫓が燃え盛っている。焼かれた死体はすっかり炎におおわれて、黒い影のようだ。濃いタンパク質の匂いが、辺りにたちこめていた。

    △△△

     辺境の戦いなんかにろくろく兵は出ない。
     駆け出しのガイとジャグラーが指揮を執るような、一小隊も組めずの分隊が二つ、それと通信兵が一人。軍医は居ない。元々救助隊のガイがいるから割り当てられなかったのかもしれないが、指示を出しながら怪我人の面倒なんて到底見られない。つまるところの使い捨てだ。兵の質もたかが知れていて、逃げたり、死んだり。夕刻あたりに燃えだした村は、日付が変わる頃には耳に痛いほど静かになっていた。小さな火事がいくつも起きて、月も無いはずの暗い夜は不気味に明るかった。燻った家の瓦礫は煤煙がぶすぶすと立ち、足元には息絶えた人間がごろごろ横たわる。ガイはもう一周だけ、と言って村の残骸を見回りに行く。もう悲鳴すらひとつも聞こえないことは、ガイがいちばんわかり切っていた。
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