一緒にお風呂に入りたいラギ監シリーズ12この世界に来てから、いろんなことが次々に起こって。
それはもう立て続けに問題が起こるから、休むヒマなんてなくて…忘れていた。
「はぁ…。お腹いたい…。」
久しぶりの生理痛。
もともと不順気味ではあったから、あまり気にしていなかったけど…。
来ていなかった分がまとめて一気に来たような、そんな重い生理痛に今朝から悩まされている。
今日は幸運にもNRCは休み。
グリムも朝早くから。
「今日はエースたちとゲームするんだゾ!」
なんて言い残して出て行った。
だから、この機会にオンボロ寮でまだ手がついていない部屋を掃除しよう、と思っていたのに…。
「うぅ…動けない…。」
なんとか朝ごはんは食べて、片付けて。
ソファに座るところまではできたけど…。
もうそこから一歩も動けなくなってしまった。
とりあえず今日は大人しく寝よう。
ブランケットを羽織りころんっとソファに寝転がって、うとうととし始めた。
…と、その時。コンコンっとオンボロ寮のドアを叩く音が聞こえた。
「ユウくーん!いるッスかー?」
「……っ!!」
この声は…ラギー先輩??
今日は特に会う約束をしていたわけでははない。
…あれ?むしろバイトがあるって言ってなかったかな?なんて思う。
「は、はーい!今開けますね…!」
少し重たい体に鞭を打って、ゆっくりと立ち上がる。
なんだか一瞬視界がゆらいだように感じたけど…そのまま玄関へと向かい、扉を開けた。
「いらっしゃい、ラギー先ぱ」
「っ!…ユウくん。」
ラギー先輩は私の顔を見るなり、表情をゆがませた。
「体調悪いの?」
「え…?」
「顔色…良くないッスよ。」
するっと頬をなでられて上を向かされれば、心配そうにこちらを見つめる青い瞳とぶつかる。
私は大丈夫、と言いかけた口を思わず閉じて、視線をそらした。
「わわっ、ラギー先輩!お、降ろして!」
「だーめ。…大人しくしないと、ベッドにくくりつけるッスよ。」
ふわっと体が浮いたかと思うと、ラギー先輩に抱き上げられていて。
いつもより不機嫌な声が聞こえて、私は大人しくするしかなくなってしまった。
その甲斐あってか、ベッドにくくりつけられることはなく…ラギー先輩は私を抱きしめたまま、ソファへと座る。
2人分の重みで一気にソファが沈む音がした。
「ラギー先輩…今日、バイトじゃ…。」
「急に中止になったんスよ。ユウくん、オンボロ寮の掃除するって言ってたから、手伝おうと思って来たんスけど…。」
そこまで言って、ラギー先輩はぎゅっと抱きしめる力を強くする。
私の気のせいでなければ、さっきからぐるる…とノドを鳴らしていて…。
「ユウくん。…血のにおいがする。」
「えっ?!…あ。」
すんっと鼻をならして、ラギー先輩は首元に顔をうずめてくる。
顔にラギー先輩のふわふわの髪があたってくすぐったい。
…って!今はそんなのんきなことを考えている場合じゃない。
血のにおい…というのは、間違いなく私からしているはずで。
人間である私は全然感じないけれど…獣人であるラギー先輩には分かってしまうようだ。
というか…これはもしかして、手負いと思われているんじゃあ??
私は何だか身の危険を感じて、ラギー先輩から離れようとぐっと腕に力を入れた。
「たっ、食べてもおいしくない…と思います。」
「シシシッ。だぁーいじょうぶッスよ。…今は食べないから。」
私の力なんて微塵も感じていないかのように、ラギー先輩は私の体を抱きなおす。
一方の手を後頭部にまわして、頭を撫でられて。
もう片方の手は腰をゆっくりとさすってくれた。
あ…すごい。痛みがどんどんやわらいでいく…。
「腰、痛いの?」
「…っ。腰というか…お腹というか…。とにかく痛い、です…。」
…ソウデスヨネ。
ラギー先輩、私が生理中って気付いてる…よね。
こういうことされると…本当は女性に慣れてるんじゃないかって思ってしまう。
それも夕焼けの草原仕込みなのか…はたまた…。
あぁ、だめだ。なんか心が不安定みたい。
私が不安をかき消すようにぎゅっと抱きつくと、ラギー先輩は包むように腕を回してくれた。
相変わらず腰をさすってくれる手は優しくて、あったかくて…。
「…これ、気持ちいいんスか?」
「はい…。ラギー先輩の手…あったかくて…おっきいので…。」
ほぅ…と知らずため息がもれる。
ラギー先輩はいつも少し体温が高めで、こうしてくっついているとぽかぽかしてくる。
頭をなでられると、安心して…うとうとしてきてしまう。
「あんまり痛いなら、薬飲んだら?」
「…くすりは…キライ、です。」
少し寝ぼけながら答えると、ガキみたいというラギー先輩の小さな笑い声が聞こえた。
「ラギー先輩…。」
「んー?」
「ちょっと、寝ても…いいですか?」
「…いーッスよ。」
不意に頭を撫でていたラギー先輩の手が離れて…ふわっと何かが体を包む。
さっきまで自分が羽織っていたブランケットだと気づいたのは、しばらく経ってからで。
「オレも予定外の休みになったし。…彼女を抱きしめながら寝られるなんて、最高の休みッスね。」
言いながらラギー先輩はふわぁとあくびをする。
なんだかかわいいな、なんて思って。
「ふふふっ。ラギー先輩…。」
だいすき…。
ちゃんと音になっていたか…はたまたすでに夢の中だったか…。
どちらかは分からないけれど。
大好きな香りとぬくもりに包まれて、私はいつの間にか痛みなんか忘れていた。