寒夜『外大陸の果ての国には、別れの後に詩を交わすらしい』
未だ外は闇。鎧戸を閉めたにも関わらず、嵌められた玻璃窓は霜がついていた。クリスタルと暖炉で部屋はそれでもほのかに暖かいとはいえたが、その暖かさは「私」が望むものではなかった。
厚手の夜着を私に着込ませて、最後に胸元の紐を結んでしまったテランスに、私はそんなことを言った。
『詩を? 別れ……の後に、ですか?』
言葉遣いも従者のそれに戻してしまった彼に、私は頷く。不審そうな表情が可愛らしくて、手に触れた。
『朝を共に迎えられぬ恋人同士が、そのときの感情なり想いなりを詩にして届けるのだとか。風流といえば、風流だな』
恩師との雑談の折だったろうか、「愛」について語らう機会があった。テランスの激白を聞いた後のことで、己の感情を持て余していた頃だったと思う。相談相手となるような人物は他に思い描けなかったから、私は恩師に彼への感情をひとしきり語った。語ってしまった。
1940