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    ナンナル

    @nannru122

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    POIPOI 146

    ナンナル

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    ファンタジア。8
    漸く☆くんが出せて満足。これは🎈☆と言っていいのか? それとも、モツと言うべきなの? 一応るくんだけど、るくんじゃないのは、るつなの? と一人自問自答してます。

    ム幻のセカイでヨ想もできないギ曲をトモに。8自分の想いに気付いた時にはもう、遅かったんだと思う。

    だって、司はいつだって類しか見てなかったから。

    だから、“諦める”って、決めたの。

    ―――

    『諦めるなんて絶対嫌。私が一番先に好きになったのに、なんでわたしじゃダメなの?』

    ふわりとしゃぼん玉が室内に広がっていく。
    泣きそうな声でそう言ったもう一人の自分に、言葉を飲み込んだ。思わなかった訳じゃない。多分、わたしが誰より先に司が好きだと気付いた。わたしが一番司の事が好きだ。好きだから、諦めたんじゃない。

    『言葉がきついって自分でも分かってる。直さなきゃって思ってる。それでも、笑って許してくれる司が好き』

    わたしじゃないわたしの声に、頷きかけて唇を引き結ぶ。
    甘えてるって知ってる。それでも、わたしの言葉を笑って許してくれる司が、好き。なんでもない事のように返してくれる。どこまでも前向きだから、へこたれないし傷付いた顔も見せない。“大丈夫”って笑って、“ちゃんと分かってるから”と優しい顔をするの。そういう所が、馬鹿みたいで、すごく、かっこいいと思う。

    『落ち込んだ時に背中を押してくれて、困ってる時に手を伸ばしてくれて、泣きたい時に傍にいてくれる、そんな司が好き』

    “うちの歌姫ならば大丈夫だ!”なんて根拠もなく笑う司を思い出して、胸の内が熱くなる。そういう所が、好き。へこたれなくて、いつだって手を引っ張ってくれる司の事が、好き。わたしも、司が困ってるなら助けたいし、大丈夫って背中を押したい。そんな必要無さそうだけど。

    (…本当に、わたしなんだな……)

    鏡の中でしか見た事のない自分の姿を虹色の膜越しに見つめて、ごくん、と喉を鳴らす。
    見ないふりしてきた気持ちを、見せつけられてるみたいな感覚。ううん、なんだか、わたしの中から出てきたみたいな、変な感じがする。
    ずっと隠してきた想いが、二人の前で全部バラされちゃった。それなのに、恥ずかしいというよりも、どこかスッキリしたような気持ちになるのは、なんなんだろう。目の奥が熱くて、泣きたくなるのはなんなの? この感じは、なんだろう。胸の奥がギュッてして、苦しいような感じ。

    「っ……」

    ポケットに手を入れて、小さな個包装を掴む。ぴりっ、とその個包装を破いて、中に入った小さな甘い宝石を口に放り込んだ。

    ―――
    (類side)

    「……ね、…」

    目の前で泣きそうな顔をする寧々のそっくりさんに、言葉を飲み込む。
    初めて聞いたその想いは、本当に寧々の想いだろうか。もう本当に寧々の想いだと言うなら、僕は、応援したい。たった一人の幼馴染が、妹のような存在の寧々が、人と関わる事に苦手意識を持っていた寧々が、そんな素敵な想いを抱けるようになった。その成長を、喜びたい。祝ってあげたい。手助けしてあげたい。
    そう思うのに、何故胸の奥がこんなにもちくちくするのだろうか。

    『ちょ、何してんのっ?!』
    「ぇ…」

    突然慌て始めた寧々のそっくりさんが、僕らでは無い方を見て困惑したような顔を向けている。そんな彼女の視線の先に目を向ければ、寧々が数歩下がって大きく深呼吸をしているのが見える。そのまま、思いっきり地面蹴った彼女はしゃぼん玉の膜を割るかのように駆け出した。

    「寧々っ!?」
    「寧々ちゃんっ!!」

    ぐにゃりと歪んだ球体が、一瞬にして破裂する。パァンッ!っと今までにない程大きな音を立てて割れたそのしゃぼん玉に、僕もえむくんも呆然としてしまう。もくもくと立ち込める煙を見つめて、音の出ない口をはく、はく、と開閉させた。
    小さなしゃぼん玉でも爆風は強かった。それなのに、あんな大きなしゃぼん玉から出ようとすれば……。最悪の状況が頭を過って、サァア、と血の気が引いていく。
    力の入らない体に鞭打って何とか立ち上がる。そのまま寧々がいたはずの方へ体を向ければ、ガララ、とコンクリートのようなものが落ちる音が微かに聞こえた。

    「…いっ、……」
    「………ね、ね…?」

    煙の中で、人影が動き出す。その影はゆっくりと立ち上がると、服の埃を払うようにぱんぱんと手を動かしていた。
    ド、ド、ド、ド、ド、と激しい自分の心臓の音が、漸く聞こえてくる。冷たくなった指先で服の裾を掴むと、煙の中からふわふわの髪が見え始めた。

    「……なんて顔してんのよ、類」
    「…寧々……」
    「よ、良かった……寧々ちゃん、無事でよかったぁ〜…」
    「………えむも、大袈裟過ぎ」

    くす、と笑った寧々に、僕もえむくんも肩の力が抜けていく。本当に良かった。怪我はしているようだけれど、しゅわしゅわと傷が次々に治っていくのを見て、寧々があの飴を舐めているのだと察する。どうやら、彼女は飴を口に入れてしゃぼん玉を破裂させたようだね。傷を修復させながら爆風に飛び込むなんて、無茶をするよ。
    唖然とする寧々のそっくりさんを ちら、と見て、蹴り飛ばされた刀へ目を向ける。距離はあるけれど、隙をつけば取りに行けるかもしれない。
    それなら、と隣にいるえむくんの手を引いて立つのを手助けする僕に、「類!」と寧々が少し離れた場所から声をかけてきた。目の前に飛んできた小さな物を咄嗟に掴むと、掌の中でカサっ、と音がする。見れば、このセカイで拾った飴玉だった。

    「えむをよろしく」
    「寧々…」

    寧々が何かを口に入れるのが見えて、手の中の個包装を破く。中身を口に入れて刀を拾いに駆け出せば、『動かないでっ!』と寧々のそっくりさんの声が室内に響いた。
    それを無視して、刀に手を伸ばす。後ろの方で破裂音が数回聞こえて振り返れば、しゃぼん玉に怯むことなく自分のそっくりさんに近寄っていく寧々が視界に映った。
    痛みを感じないかのように、真っ直ぐ進んでいく寧々が、彼女のそっくりさんに向かって手を伸ばした。

    「わたしも、司が好き」
    『っ……』
    「だから、司の想いも大事にしたいの」

    まるで子どもをあやすかのような表情で、寧々がもう一人の自分をそっと抱き締めた。えむくんも僕も、何も言えなかった。危ないとわかっているけれど、邪魔をしてはいけないと、そう思ってしまったから。まるで、ショーのワンシーンの様な光景に、言葉が消えていく。
    ぽろぽろと涙を流し始めたもう一人の寧々は、声の出ない口をはく、はく、と数回開閉させた後、子どものように泣き始めてしまった。ぱちん、と辺りに浮かんでいたしゃぼん玉がそっと割れて消えていく。そうして、ゆっくりと足元から消えていく寧々のそっくりさんを呆然と二人で見つめていた。

    (……寧々が、まるで別人みたいだ…)

    昔の寧々の様に静かに泣く寧々のそっくりさんを、彼女は優しく抱き締め返して背を撫でてあげている。そんな幼馴染が、知らない女性に見えた。
    きらきらとした光の粒子に変わって消えていくもう一人の寧々を見つめながら、えむくんが僕の服の袖を掴む。数秒程黙って動かなかった寧々が、パッと顔を上げる。こちらを振り返った彼女は、どこかすっきりとした顔をしていた。

    「お待たせ」
    「ね、寧々ちゃーんっ…!」

    いつもの寧々に、えむくんが両手を広げて駆け寄っていく。そんなえむくんを抱きとめる寧々は、優しい表情で彼女の髪を撫でた。
    このセカイのクリア条件は、必ずしも倒す事では無いようだ。寧々があんな無茶をして無事だったのは、優しい寧々のそっくりさんが相手だったからだとは思うけれどね。それに、“もう一人の自分に触れる”がクリア条件とは思えない。それなら、“もう一人の自分が強く願う想いを受け止める”もしくは、“上回る”というのが条件だろうか? たまたま寧々は条件に合ったということかな。
    本当に、このセカイは不思議だね。

    「類、そろそろ上に行こう」
    「…そうだね」

    休憩したいとは言わない寧々に、そっと肩を竦める。飴のお陰で外傷は無さそうだけれど、疲労は大丈夫なのだろうか。爆風を何度も受けたのだから、精神的な疲労は溜まっているはずなのに。
    “一度休憩しよう”と言いかけた僕を、彼女は じっ、と真剣な顔で見つめてくる。まるで、“早く行こう”と訴えるかのように。

    (……寧々の雰囲気が、少し変わった気がする…)

    以前よりも、意思がはっきりしたと言えばいいのかな? 先程までの、彼女の中の“先へ進む不安”が消えたように感じる。それだけ、司くんを助けたいという想いが強くなったのかもしれないけれど。
    そんな彼女に頷いて、部屋の扉へ足を向けた。子ども部屋の扉を開け、廊下に出る。そんな僕の隣に並んだ寧々は、そっと僕の背中を優しく手で叩いた。

    「わたし、頑張るって決めたから」
    「ぇ…」
    「応援はするけど、わたしだって悪足掻きしたいし」
    「………何の話だい?」
    「さぁ?」

    悪戯をする子どものように笑う寧々が、タタタン、とほんの少しステップを踏んで前に出る。くるりと振り返った彼女は、どこか楽しそうだった。珍しい幼馴染の姿に、目を瞬く。そんな僕の隣を、寧々を追いかけるようにえむくんが駆け抜けていった。

    「ほら、行こう、類。“わたし達”のお姫様を助けに」

    そう言って笑う寧々は、見た事ないほどキラキラしていた。

    ―――

    「ここが最上階かな…?」

    階段を上がれば、短い廊下の先に扉が一つだけあった。今までの階層とは少し違うようだ。ドアノブに手をかければ、鍵のかかっていない扉が簡単に開く。ゆっくりとその扉を開けて、中を覗き込んだ。明かりの灯っていない暗い部屋は、シン、と静まり返っている。人影はなく、物音もしない。手探りで壁についたスイッチを押すと、パッ、と部屋の明かりがついた。明るくなった室内は、まるで西洋の寝室のようだった。大きなソファーにカーテンの閉じきった大きな窓、暖炉と本が綺麗に並んだ大きな本棚。大きな鏡に、ドレッサー。そして、天蓋がきっちりと閉め切られた大きなベッドが一つ。
    今までとはまた違った室内に、ゆっくりと踏み入れた。

    「……まるでお城の中みたい…」
    「あの窓、ドラキュラさんが がお〜って入ってきそうだね!!」
    「何言ってんの…」
    「確かに、あの大きさなら人の出入りは簡単に出来そうだね」
    「そういう問題じゃないから」

    ベッドのすぐ側にある窓は、確かに大きい。成人男性が窓枠に立ったとしても少し余裕があるだろうか。それ程大きな窓なら、確かに吸血鬼の登場にピッタリだ。外観も西洋のお城のような建物だしね。子どもの絵本のお城をイメージしているかのような建物も司くんのセカイだからだろう。
    見た所、室内はそこそこ生活感のある普通の内装だ。先程まで誰か座っていたのかテーブルの上に紅茶のカップが置かれている。飲みかけのカップを ちら、と見て、部屋の奥へ足を向けた。天蓋から下りるカーテンが完全に閉め切られたベッドに近付いて、そっとそれを手で握る。
    ゆっくりとカーテンを引けば、光が遮断されたベッドの上に人の姿があった。

    「司くん…!」

    やっと見つけた司くんの姿に、シャッ、とカーテンを勢いよく開いて、ベッドに手をつく。僕の声を聞いた寧々とえむくんも、急いでこちらに駆け寄って来てくれた。

    「司っ…?!」
    「司くん、見つかったの?!」
    「……どうやら眠っているだけのようだね…」
    「よ、良かったぁ〜〜…」

    へなへなとその場に座り込む寧々とえむくんが、肩の力を抜いて安堵する。微かに聞こえる寝息と、触れた手の温かさに、僕もずっと張っていた緊張の糸が切れてしまった。少し眩しいのか眉間に皺を寄せて寝返りを打つ姿に、苦笑してしまう。僕らがどれだけ心配していたのか、彼は全く知らないのだろうね。
    司くんが起きたら、きっと寧々は怒って文句を言うし、えむくんは泣きながら彼に抱きつくのだろうね。僕も、お小言位は言わせてほしいかな。
    なんて呑気に考えていれば、パァンッ、と銃声の様な音が突然聞こえてきた。次いで、頬が一瞬熱くなり、ぴりっとした痛みが走る。反射的に振り返れば、部屋の扉に、“僕”がいた。

    『司くんに触れないでくれるかい?』

    機械越しでは無い自分の声に、ほんの少し違和感を覚えてしまう。自分の声を聞くというのは、こういう感じなのだね。なんとも貴重な体験かもしれない。今までの傾向からすると、好戦的なだけで基本は自分によく似た“クローン”のようなものだと思うけれど、僕のそっくりさんもそうなのだろうか。
    口元を覆う黒いマスクは、見た所機械の様にも見えるけれど、なにか仕掛けがあるのかな。手に持っているのは銃の様だし、弾も本物だろう。もう一人の寧々と戦った時も相手の武器が爆弾で苦戦したけれど、今回も刀で挑むにはかなり不利だね。
    ふむ、と口元に手を当てて自分にそっくりな相手をじっと観察していれば、寧々の「出た…」という不服そうな声が聞こえてきた。

    「来るとは思ってたけど、ここで類が相手ってラスボスなんじゃないの…?」
    「類くんのそっくりさん、なんかこう、ピリピリーっ、てしてるよ〜!」
    「出来ればこのまま司くんを抱えて戦わずに逃げたいところだけどねぇ」
    「いや、無理でしょ。出口塞がれてたら出れないし、逃がしてくれる雰囲気でもないじゃん」

    寧々の言う通り、彼が立っているのはこの部屋唯一の出入口の前だ。そう簡単に通してくれるとも思えない。それに、えむくんも感じている様に、彼の周りはとても空気が張り詰めている。表情を見てもこちらに対して敵意があるのは明らかだ。

    (…理由は、僕らが司くんを連れ戻しに来たからだろうけど……)

    そこでふと疑問が浮かぶ。
    えむくんも寧々も、司くんに好意があるのは知っている。特に寧々は分かりやすかったからね。だからそこまで疑問にも思わなかったけど、僕には、司くんに対してその好意はない。友人として大切だとは思うけれど、二人の抱く想いとは違うだろう。それなのに、何故もう一人の僕は“司くんに執着している”のだろうか。

    「……僕の想いは関係無く、司くんに惹かれるよう造られているのだろうか…?」
    「類…?」
    「…あぁ、いや、なんでもないよ。兎に角、寧々は司くんを起こしてくれるかい?」
    「…………うん」

    寧々とえむくんの手を引いて二人を立たせ、鞘から刀を抜く。「えむくん」と視線を向ければ、彼女は僕の言葉を察してくれたように「はいはーい!」と返事をしてハンマーを出した。不利ではあるけれど、今までと違うのは司くんがこの場に居るから“逃げる”という選択肢がある事だ。それに、このセカイについてもまだまだ知る必要がある。

    「それじゃぁ、最後の勝負と行こうか、えむくん」
    「うんうんっ! 司くんの為に頑張っちゃうよー!」
    「二人とも、気を付けてね」

    とん、と僕らの背中を押してくれる寧々に一つ笑みを返して、地面を強く蹴った。

    ―――


    (司side)

    「……ここは…どこだ…?」

    目が覚めて、数回目を瞬いてから起き上がる。
    大きなベッドはどう見てもオレの自室のベッドでは無い。かと言って、保健室のベッドでも無ければ、遠征先のホテルでも見た事ないものだ。やけに薄暗く感じて手を伸ばせば、何故かベッドの周りにカーテンがかかっていた。それを手で引くと、一瞬で光が差し込んでくる。その眩しさに目を細めれば、光の中から声が聞こえてきた。

    『あぁ、起きたんだね、司くん』
    「……る、い…?」

    オレの顔を覗き込む様に、目の前に類の顔が近付けられる。制服姿の類は、オレの手を掴むとベッドに腰かけた。

    『気分が悪いとか、痛みとかは無いかい?』
    「…ぁ、あぁ、何ともないが……」
    『良かった。お腹は空いているかい?』
    「……腹は、減ったが…」
    『それならすぐに準備するよ』

    ベッドを立ち上がった類が、真っ直ぐ進み部屋の扉に手をかけた。慌ててオレも立ち上がって追いかけると、類はくるりと振り返り、『ここで待っていて』と一言残して出ていってしまう。
    ここが何処なのか、何故ここに類が居るのか、全く分からないまま一人にされて、呆然と部屋の中を見回す。見知らぬ部屋は、絵本で見たお姫様の部屋の様な作りをしている。あれはなんの絵本だったか。お城のてっぺんの部屋に閉じ込められたお姫様の話か? よく思い出せん。
    ベッド横の窓に近付き、カーテンを開く。日本ではあまり見ない作りの窓を開けば、三階や四階と言うには高過ぎる位置からの景色が見えた。遊園地のような乗り物が小さく見える。どう見てもお城だろう建物の造りに、思わず息を飲んだ。

    「…本当に、ここはどこなんだ…?」
    『僕らのセカイだよ』
    「っ……!?」

    後ろから声をかけられて、慌てて振り返る。
    いつの間にかテーブルの上には料理が並べられており、オレのすぐ後ろには類が立っていた。腰に類の片手が添えられ、反対の手がオレの頬に触れる。伝わる体温に心臓が大きく跳ね上がり、顔に熱が集まった。
    優しい表情でオレの顔を覗き見る類が、ゆっくりとその綺麗な顔を近づけてくる。たったそれだけで、心臓が破裂してしまいそうな程早鐘を打ち、顔から火が出そうだった。

    『司くんの想いから出来たセカイに、僕らの想いが混じりあって出来たんだ』
    「……セカイという事は、ミク達もいるのか…?」
    『ここは隔離されていて、僕ら以外は入っては来ないよ。元々は消えるはずだった、セカイの一部だからね』
    「…消える……?」

    類が何を言っているのか分からん。セカイという事は、オレの想いのセカイなのだろう。だが、以前遊園地の中を歩き回った時は、こんな城はなかったはずだ。それに、一部とはどういう事か。
    頭に浮かぶ疑問を考えるオレに構わず、類が一層顔を近付けてくる。慌てて体を後ろへ逸らして距離を取ろうとするも、窓で後退ることは出来ないし限界がある。
    恥ずかしさに目を強く瞑れば、額に類の唇が触れた。驚いて目を開けると、そっと頬を撫でる手がオレの顔を上へ向かせてくるから、自然とオレを見つめる類と目が合ってしまう。

    『そんな事より、そろそろ返事を聞かせてくれないかい?』
    「…へ、んじ……?」
    『告白の返事だよ。僕は、誰よりも君を愛しているよ、司くん』
    「んぇ…?!」

    ぼぼっ、と顔が一気に熱くなり、変な声が口をつく。
    至近距離で見つめられる恥ずかしさも相まって、言葉が出てこない。はく、はく、と音もなく口を開閉させれば、類がオレの手をとった。

    『君が望んでくれるなら、なんだって叶えてあげる』
    「…る、類っ、なにを……」
    『だから、僕のモノになっておくれ、司くん』
    「っ、……」

    じっ、とオレを見つめる類に、言葉を飲み込む。
    数日前から、類が変だ。こんな風に、類らしくもない甘い言葉をオレに向けてくる。“愛おしい”と言わんばかりにオレを見つめてきて、オレを甘やかそうとするんだ。それが嬉しいと思ってしまうオレもオレだが、これは類がずるいだろう。類を好きだと自覚させられてから、余計に心臓に悪い。普段は絶対こんな事を言わないし、こんな風に近付いても来ないくせに。

    (そういえば、何故、類がここにいるんだ…?)

    ここがオレのセカイなのは、何となくわかる。
    だが、ミク達の居ないこの場所に、何故類はいるんだ? それに、ここに来る前、オレは類を探して学校にいたはずだ。それで、偶然えむに会って…。
    ゆっくりと記憶を辿って、はた、と思い出した。

    『司くん?』
    「……お前は、…本当に“類”なのか…?」
    『………』

    目の前にいる類が、黙ってしまう。は触れる手の熱は、夢なんかでは無い。確かに類の体温と変わらない。声も、姿も、何もかも“類”と同じだ。
    だが、確かにあの時、類の手には触れられなかった。えむに案内されて入った空き教室には誰もいなくて、促されるまま近寄った鏡の中から腕が突然伸びてきて、オレの手が掴まれた。そのまま鏡に引き込まれ、部屋に入ってきた類に“助けてくれ”と叫んで手を伸ばし、掴まれる事は無く鏡に飲まれてしまった。
    もし、本当にそうならば、類がここに居るのはおかしい。なら、オレの目の前にいるこの“類”は、誰だ?

    『…僕は、確かに“類”だよ。強い想いで形作られた、現実の僕の半身、と言うべきかな』
    「……類の、半身…?」

    困ったように眉を下げ、類が笑う。
    強い想いとは、なんだ? 類の想いか? それとも、類を好きだと想うオレの想いで出来たという事か? まさか、このセカイ同様、オレが類の分身を作ったとでも言うのか?
    首を傾ぐオレに、ルイはどう説明すればいいか悩むように口元へその綺麗な指を当てた。

    『ここは、捨てられてしまいそうな想いが集まったような場所だからね。気付かずにいるその想いを拾い上げてくれたのが、司くんなんだよ』
    「…意味がわからん。結局、お前は類では無いのか?」
    『現実の僕では無いけれど、僕は現実の僕から出来た僕だよ』
    「はぁ…?」

    余計にややこしくなってきた。類ではないが、類である、という目の前のルイに、頭を抱える。
    確かに、類がオレを好きだと言うことは無いだろう。そんな素振りを今までされたこともない。きっと、この数日間時折オレの前に現れて甘い言葉を囁いてきた類は、このルイなのだろう。どうやって現実世界に来たのかは分からんが、それなら次に類に会った際、いつも通りだったことにも合点がいく。からかわれていたわけでもなく、単に類とこいつは別人だったということだからな。それが何だか悔しいような、悲しいような感じはするが、そんな事に今は構っていられん。
    頬に触れる手を振り払い、ルイの肩を軽く押す。戸惑ったようにオレを見るルイから顔を逸らして、「離してくれ」と小さく返した。

    「ここがセカイなのは分かった。だが、そろそろ帰らねばならん」
    『…僕が偽物だからかい?』
    「そうではなく、ここに居ては皆が心配するだろう。だから、一度顔を見せて来なければ…」
    『行かないでよ。君に、離れてほしくない』
    「ぉわっ…?!」

    制服のポケットに手を入れてスマホを探すも見つからない。そもそも、あの時オレはスマホを持っていなかった気がする。戻り方は分からんが、あんな風に連れ去られては、類が心配しているはずだ。寧々やえむだって、類から話を聞いて心配するだろう。連絡もなく帰りが遅くなれば、家族だって心配する。ここは一度元の世界に戻ってから、時間を見つけてまたここに来る方がいい。
    そう思っての事だったのだが、焦ったようにオレを抱き締めるもう一人のルイが、オレの肩にその顔を押し付けてきた。ギュッ、と強く抱き締められ、思わず顔にまた熱が集まり出す。ふわりと香るルイの匂いに、心臓の鼓動が早まった。

    「る、ルイっ…!?」
    『お願いだよ、司くん。ここに居ておくれ』
    「だが、今頃皆が……」
    『他の人なんて関係無い。僕は、君と離れたくないんだ』
    「っ……」

    類らしくない直球な言葉に、胸の奥を強く掴まれた気がした。“離れたくない”と言われて、嬉しくないはずがない。好きだと自覚させられて、人違いではあれどルイの言葉に一喜一憂した。“好きだ”と伝える為に類を探していたほど、この想いは強い。それが叶うかどうかは分からんが、オレの想いは確かなものだ。その想いを、このルイは返してくれる。類から欲しかった言葉を、オレにくれる。違うと分かっていても、類の声で、類の姿で言われてしまえば、心が勝手に反応してしまう。

    (……そうか、こいつは、オレの想いから出来た“類”なのだな…)

    オレの為の、“オレを大事にしてくれる類”なのだろう。だから、オレの欲しい言葉をくれるのか。それは、なんとも虚しくて、けれど、浸りたくなる程贅沢な夢だ。
    抱き締めてくるルイの心臓の鼓動は、オレより少し早い。その音が、なんだか嬉しくて、目を瞑った。恐る恐るルイの背に腕を回せば、一層強く抱き締められる。
    『司くん』とオレを呼ぶルイの声に、返事は返せなかった。

    『好きだよ、司くん』
    「っ……」
    『ここに居て。僕と、ずっと一緒にいよう』

    優しい声音に、頷きかけてなんとか押し留まる。
    駄目だと分かっている。分かっているが、例え偽物だと知っていても、類が相手では抗いたく無くなる。頷いてしまいたくなる。
    開きかけた口をなんとか閉じて、ルイの服を強く握りしめた。黙ったままのオレの髪を梳くように、ルイは優しく頭を撫でてくれて、それがまた悲しい程嬉しかった。

    (……オレだって、離れたくない…)

    偽りでも、“類からの愛情”が嬉しい。
    早く離れなければと、分かっている。分かっているが、もう少しだけ。あと少し、この腕の中に居たい。
    そんなオレの我儘を、ルイはただ優しく抱き締めながら受け止めてくれた。
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