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    POIPOI 58

    以前支部で公開していた🔥🧹の2作目です。
    続きを全然アップしていなかった為久々に再掲します。

    煉獄兄弟の鬼ごっこ②

    鬼事②兄上を任務に送り出した後、俺は父の部屋へ夕餉を載せた膳を持って向かいました。毎日の事ではありますが俺は父の部屋に入る前に緊張が走ります。父の部屋に近くなると戸の隙間から廊下へ漏れ出た酒の匂いに少し恐怖を覚えてしまうのです。
    以前一度兄上が父上に立ち直って欲しいという思いで父上と話し合いをしようとしたことがありました。兄上はひたすら説得し続けたのですが父上は兄上を煩わしいとしか思わなかった様でした。父上はその内に痺れを切らして布団から立ち上がると、兄上の胸ぐらを掴んで立たせ、拳で兄上の頬を殴りました。兄上は襖を破って廊下まで吹っ飛び、壁に背中を打ち付けていました。父上は兄上を見下ろすと、大した才能もない身で偉ぶるな、と一喝し、ふん、と鼻を鳴らすと酒を買いに街へと出て行きました。俺は廊下の曲がり角に身を隠しながら見ていたのですが父上が兄上を叱責する姿が怖くて震えていました。兄上が切れた唇を手の甲で拭いながら立ち上がり、俺の存在に気付くと、千、と俺の名を呼んで近づいて来ました。
    「兄上…、血が…。」
    泣きそうな俺の頭に兄上の手が置かれわしゃわしゃと撫でられました。
    「別になんて事はない。兄は人一倍丈夫に出来ているから平気だ。しかしいい加減父上に立ち直って貰おうと思ったがそう簡単な事ではなかったな!」
    兄上は殴られたことも気にせず笑顔でそう言いました。
    「父上に頬を拳で殴られたのは初めてだ、流石に元柱だけあって気絶するかと思ったぞ!」
    兄上は父上の事を一切悪く言う事はありませんでした。何か他の手を考えよう、ということになり、俺は兄上の弟子として家を出入りしている蜜璃さんから聞いた話を思い出しました。柱である胡蝶カナエ様の妹君が薬学に精通している、とお聞きしたので兄と二人で蝶屋敷に出向き相談をしました。酒に依存している方を治療する場合、本人の強い意志と酒を断つ環境が必要だそうです。酒を断つ環境とは寝床以外何も無い部屋に本人を閉じ込めることを言うのですが、そうすると脳から少しづつ酒が抜けてきます。酒が抜けると意識が酒を飲んでいた頃と変わる様なので本人の意識が変わってきた所で己を反省させ、会話を沢山すれば元に戻る可能性はある、と仰ってましたがあの父上のことです。酒を辞めようという意志は今の時点で無いだろうし蝶屋敷にて隔離をすることも出来ると言われてもまず父上を隔離すること自体が不可能なのです。幸い父上は余計な事をしなければ酒を飲んでも暴れることはないので、部屋で大人しくしていてくれるだけまだ良かったと思います。だけど父上をどうにかしたくても為す術も無い事に、兄上は大層心を痛めていました。
    俺は父上の部屋の前に辿り着くと正座をして膳を置き戸越しに父上に声を掛けました。
    「父上、夕餉を持って参りました。入っても宜しいでしょうか。」
    中から衣擦れの音と共に酒で焼けてしまった低い声が聞こえてきました。
    「いらん。」
    「そう仰らずに、中に入らせて頂きますよ。」
    失礼します、と戸に手を掛け、静かに横へ滑らせました。中を覗くと、布団の上に片腕で頭を支えながら寝転がった父上の後ろ姿と共に強烈な酒の匂いが鼻をつきました。俺は眉を顰めながら膳を持って立ち上がり、父上の側へ置いて、温かいうちにどうぞ、と声を掛けて早々に部屋を出ようとしたのですが父上から突然声を掛けられて呼び止められました。
    「千寿郎。」
    振り返って先程と変わらない姿勢の父上を見ました。
    「何でしょうか、父上。」
    「まだ鍛練を続けているのか。」
    父上が肩越しに俺の方を睨んできました。
    「…ええ、それが何か…。」
    「お前もいい加減諦めたらどうだ。日輪刀の色も変えられなかった奴が足掻いた所で無駄な所だ。お前の打ち込みの音を聞いていてもちっとも様になっとらん。」
    俺は何も言えず下を向きました。そんな事はわかっているのです。だけど父上に言われると俺は自分の力量の無さをまざまざと思い知らされ自信を失う一方でした。
    「…食事が冷めてしまいますので早目に召し上がって下さい。膳は廊下に出しておいて頂ければ片付けますので。」
    俺は話を逸らすととぼとぼと父上の部屋を出て行きました。
    ひとしきり家事を終わらせ風呂に入って自分の部屋に戻ると、布団にうつ伏せになって兄上が買って寄越してくれた本を開きました。伊蘇普物語という本で『兎と亀』や『北風と太陽』など色々な話が収録されていて、今一番のお気に入りでした。本を読んでいると嫌な事も忘れられるので、そのままひたすら読み続けると次第に眠気がやってきて、俺は本を枕にしたままその日は寝てしまいました。
    明け方、勝手口の方から物音がするのが聞こえ、俺はまだ寝足りない眼を擦りながら身体を起こしました。起き上がって音のする方に歩いて行くと厨で棚をごそごそとしている影が見えました。
    「どっ…泥棒⁉︎」
    俺は戸の横の食器棚に置いてあったすり鉢の中の擂粉木を震える手を伸ばして取ると両手で握りしめ、気配を殺してそっと背後に近づきました。
    「このくせ者!覚悟!」
    大きく振りかぶるとその影に向かって擂粉木を目一杯振り下ろしました。
    「待て、千寿郎!俺だ‼︎」
    俺は聞き覚えのある声にはっとして振り下ろす手をその影に当たる寸前で止めました。
    「よもや…。」
    良く見ると其処には俺と同じ焔色の長髪の男がその大きな眼を更に大きくし、背を退け反らせて立っていました。
    「あ、兄上⁉︎此処で何を…!てっきり泥棒かと…。」
    俺が寸止め状態の手を下ろすと兄上はふぅ、と安心した様に息を吐きました。
    「すまん、任務が早く済んだので帰ってきたのだが、少し腹が減ってな。厨で食べる物を探していたんだ。」
    兄上の手には昨晩味噌汁を作った時に余って蒸しておいた薩摩芋が握られていました。
    「棚に芋が入っていたので頂戴しようとしたら突然千寿郎が殴りかかってきたから心臓が飛び出るかと思ったぞ!」
    「驚かせてすみません、でも兄上も明かりくらいつけて下さいよ。俺だって怖かったんですから。」
    擂粉木をすり鉢の中にがらんと戻すと俺は眉間に軽く皺を寄せました。
    「寝ている所を起こさない様にと思ったのだがな。次は気を付けよう。これ、貰っていいか?」
    薩摩芋を差し出してきたので、どうぞ、と言い直ぐに朝餉の支度をします、と告げると俺は草履を履いて顔を洗いに井戸へ向かいました。後ろから、わっしょい!と言う声が朝っぱらから響きましたが兄上の事なので仕方なし、と放っておきました。

    昼間は兄上は寝ているので俺は兄上が起きるまでの間は静かに過ごしていました。掃除と洗濯を終わらせて一人で昼餉を取った後、俺は縁側に腰掛けてうとうととしていました。朝いつもより早起きだったのでついそのままこてん、と横になって寝てしまっていると、千、と呼ぶ声が聞こえました。薄っすら眼を開けたのですがとても眠くて誰かは確認出来ないまま、また眼を閉じてしまいました。すると大きな温かい手がふわりと俺の頭を撫でました。余りの気持ち良さに俺は安心してそのままでいるとその大きな手がもう一つ増えて寝ている俺を持ち上げました。ふっと眼を開けると其処には兄上の顔があり、俺を見下ろしていました。
    「兄上…?」
    「そのまま寝てるといい。朝早くから起きて眠いのだろう。」
    「う…ん…。」
    俺は兄上に身を預けたまま、また夢の中へと戻って行きました。
    暫くして眼を覚ますと俺は布団に寝かされていました。うーん、と両腕を上げて伸びをすると妙に身体が重く何かが腹の上に乗っている感じがしました。眼を動かして腹の方を見てみると筋肉質の腕が乗っかっており、あ、と思った瞬間左耳の中にふっと生暖かい風が入り込んできました。
    「ひゃあっ。」
    くすぐったくて声を上げ、風が吹いてきた方を見ると、すやすやと寝息を立てている兄上の顔が真横にありました。俺は兄上に抱き枕にされた姿で寝ていて、またその発達した筋肉質の腕と脚にしっかり挟まれており、抜け出ようにも出られない状態になっていました。
    この状況は不味い、と俺は唯一自由な両腕で必死になって兄上の腕を退けようとしました。しかし俺の細腕では兄上の腕を退けられず、むしろ下手に刺激しすぎてかえって兄上の腕に巻き取られ、身体が正面同士でぴたりとくっ付く形になってしまいました。
    「あ…あ、あ、兄上、お願いですから、は、離して…。」
    兄上の胸元に顔を埋めた状態で、赤面しながら訴えました。
    「う…ぅん…。」
    兄上は深い眠りに入っている様で少しも気付いてはくれず、俺がもじもじして動くのが無意識に気になるのか更に深く巻き取られ、俺の上にうつ伏せになって兄上の長い髪が耳の中に入り込んできました。
    「ひゃ!…うっ、くすぐった…あっ!」
    くすぐったくて堪らず払い除けたいのに上に乗っかられ腕すらも動けなくなって一人で喘いでひくひくしていると兄上が様子がおかしい事に気付いたのか眼を覚ましました。
    「ん…?千寿郎…?」
    「あっ、兄上!髪の毛っ!退け…!ひっ…!くすぐったいっ!」
    「毛…?ああ…、すまん。」
    「きゃあっ!」
    兄上が髪を掻き上げると耳に入り込んでいた毛が出て行く瞬間に中をこそこそして思わずぶるりと震えて悲鳴を上げてしまいました。
    俺の声に驚いたのか兄上は眼を丸くして俺を見て、当の俺は恥ずかしさの余り顔がじわじわと赤く染まって、横目で兄上をちら、と見るとその端正な口元ににやり、と笑みを浮かべるのが見えました。
    嫌な予感しかしませんでした。
    兄上が、千は耳が弱いのか、と言うとふっと息を吹きかけられ俺がきゃっ、と悲鳴をあげると楽しくて堪らないような顔をして、俺の上に乗って身体を押さえ付けたままぎゅうぎゅうと抱き締めてきました。
    「千は可愛いなぁ…。」
    「兄上、重っ…!息がつけませんっ…!」
    辛うじて動く手で兄上の脇腹をぱしぱしと叩くと兄上は身体を半回転させて自分が下になり俺を腹の上に乗せました。
    「千寿郎も充分重くなったぞ。大きくなったな…。」
    兄上の胸に手をついて顔を覗き込むと、兄上は眼を細め優しい顔つきで俺を見ていました。俺はその穏やかに自分を見つめてくる顔に見惚れて言葉を繋ぐことが出来ませんでした。
    「まだ時間もあるからもう少し寝よう。」
    兄上は俺を隣に下ろして並ぶと寝息を立て始めました。俺ももう暫くこうしていよう、と兄上の方を向き、兄上の手を指先できゅっと掴むとまた眼を閉じました。


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