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    POIPOI 58

    掲載しようと思って放置されてた未公開作品です。
    宇髄さんサイドになります。

    嫁騒動0.5 紅葉が山々を鮮やかに染め上げた秋が過ぎ、明け方の冷えた空気に冬の到来を感じ始めた頃、とある屋敷では一人の体格の良い美丈夫が三人の妻のうちの一人の膝に頭を乗せて寝転がっていた。
    銀色の肩より少し下まである長い髪の間から覗く赤みを帯びた紫の目は虚に閉められた障子の腰板を見つめていて、着流しの下の鍛え上げられて常に血管の浮いている筋肉質の身体は力なく畳の上に投げ出され、時折、須磨と言う名の妻の太腿の間に顔を埋めては長い溜息を吐いていた。
    「天元様、まだお○ん○んが痛むのですか?」
    須磨が心配そうに天元と呼ばれた男に話しかけた。
    「…ああ。」
    「あー!もう許せません、許せません!天元様を不能にして!あの蛇男!もう!どうしてやろうかしら!私達がホントどれほど迷惑してるか…!」
    「ちょっと黙っててくんね…?」
    (傷に響く…。)
    この男の名前は宇髄天元といい、数日前に同僚の柱である蛇柱の怒りを買ったばかりであった。
    元はといえば鬼殺隊を支える柱ともある男が部下の年下の隊員にちょっかいを出し、つい行き過ぎた行為をしたのが原因だった。
    宇髄は当初、甲の称号を持つ才能に溢れたうら若い青年が悩みを相談してきたのを、上官たる者配下の悩み一つも聞けない様では派手に男が廃る、と快く聞いてやっていたが、相談にのっているうちに青年の事をもっと知りたいと興味を抱くようになった。最初はじゃれ合いのつもりでちょっかいを出して嫌がる青年の反応をみてはこんな顔もするのか、と満足していたがそのうちそれだけでは物足りなくなり、家や青年の恋の相手まで調べ上げてちょくちょく様子を見に行っていた。自分の助言に効果があったかはわからないが青年は恋の相手と少しずつ距離を縮めていて、今日は口付け出来ただの手を出して少し脅かしてしまっただのそんな報告を逐一してくる青年に対し最初の頃は一緒に喜んでやっていたがいつからか心が燻ぶり、あまり喜べないようになっていた。それでも青年の恋の相談役という立場として己をわきまえようと努力は試みていたがどこか複雑で、両思いなのは誰の目からもわかるのに中々青年を受け入れようとしない彼の恋の相手にやきもきしだして、笑顔を作って相手と結ばれるという夢を大切そうに抱く青年を見る度に宇髄は歯痒さを感じていた。
    宇髄がもどかしく思うのもやむを得ない話だった。何故なら青年の恋の相手は青年の実の弟だったからだ。青年のことを知れば知る程宇髄は苛立ち、青年の恋を成就させてやりたい思いの中に否定的な感情が混在し始めてここ数ヶ月ずっともやもやしていた。そして段々と青年の恋の相手に対して気遣いをすることに面倒くささを感じ始め、この小海老天、と心の中で文句を言う様になった。
    宇髄はそんな心境の中、共闘を繰り返して自分を完全に信頼しきっていたこの青年にある日生誕を祝われ、心の中で燻っていた火種が火花を散らしはじめた。
    こんないい奴をこのままにしておくのはいけない、と思ってしまった。俺が正しい恋へと導かなければ、と使命感に駆られた宇髄は「何か欲しいものはあるか?」と聞いてきた青年に思わず「お前。」と言いかけたのを笑顔で堪え…たが相手にはにやりと意味深げに笑った風にしか見えなかった。そして頭の中に小海老天の顔が浮かびはしたがもうどうあっても散り始めた火花を消すことは出来ず、とうとう雷管に火花が達して暴発した。
    箍の外れた宇髄は実直なこの青年を風呂へと誘った。何も疑おうとしない青年は素直についてきた。宇髄が連れて行った山奥の岩風呂に感動してにこにこと笑っていた。可愛かった。宇髄は青年が喜ぶのが嬉しかった。あまりにも愛らしいので着替えをしている所をじっと見ていたら少しむくれた。自分の方を少し気にしながら身に纏った服を一枚一枚落として肌を出す姿に心が打ち震えた。目の前に曝け出された美しい背中にかかる情熱的な色の毛先と安産型の尻が尊くて胸が詰まった。
    先に風呂に入った青年に呼ばれたので宇髄も服を脱いで風呂へ近寄った。青年の目は宇髄の下半身に釘付けになり感嘆の声を上げた。羨ましいと褒められて誇らしく思いその無邪気な顔に擦り付けてやりたくなったがそこはぐっと堪えた。そのあと話を色々とする中、楽しそうに笑う青年を見て宇髄は幸せを感じていた。ずっとこのまま続いて欲しいと思った。しかし暫く話をしていると青年は恋する弟のことを話し出した。今度弟も連れてきてやりたい、と揺らめく湯に視線を落としながら頬を染めて言うので楽しかった気分が一転した。やはり弟か。宇髄は自分の不仲な弟を思い出した。宇髄にしてみたら親の教育下で敵同士の関係しか作れなかった実弟に恋心を寄せるなど考えたこともなかった。何故青年がそこまで弟に執着するのか理解出来なかった。宇髄にとって弟は弟でしかなかった。例え普通の家庭だったとしても、弟が愛すべき存在だとしても超えてはいけない一線が無意識下で自身に刻まれていたのでそんな風に考える、ということ自体がまずなかった。だが宇髄はすぐ頭を切り替えて煉獄は自分とは違う、生まれた時点でそのような気質がどこかにあったのだろうと思い自分の弟は記憶の隅に追いやって閉じ込めた。
    楽しめなくなった宇髄は自分の心の底にじわりと沸いて出る黒い感情に気付いた。弟を想う青年を見て苛立ち始めた。この純粋に弟を愛する青年から何か一つ奪ってやりたくなった。宇髄はこの場所を教えてくれたことに対して礼を言う青年に手を伸ばし顔を近づけた。思いがけない宇髄の行動に動揺した青年は何が起きているのかわからないといった風で身を固くしていた。宇髄の口と青年の口が触れ合う直前に別の存在が近づいてくる気配を感じた二人は驚いて風呂を飛び出し、岩陰に身を隠したがこれがまた大事おおごとになった。裸で密着した状況に宇髄は自分の欲が抑えられず青年を手篭めにしようとした。既成事実を作ろうとしたが拒絶された。弟を諦めさせようと社会的倫理を説いたら彼を泣かす寸前だった。青年も一番の理解者だと信じていた宇髄に裏切られた気持ちになって傷付いたが同時に宇髄も傷付いた。だが宇髄は傷付いていないふりをした。何故なら彼の自尊心が許さなかったからだ。日頃から周囲に自分を祭りの神と崇め讃えろと強要しているだけのことはあって彼の内面は言動とは対照的に地味だった。忍らしいと言えばそうであったが生まれた時から身に染み付いた地味さを払拭し派手な生き方をしたい彼にとって何もせずとも目立つ風貌の青年は自然と心惹かれる相手であった。そんな彼に振られたのだ。派手な彼が選んだのは同じ派手な容姿をした弟だった。若干兄である青年よりは派手さは劣るものの彼はその容姿とは対称に中身が地味だった。ただ単に大人しいといえばそっちの方が正しいかもしれないが。だけどそれが余計に宇髄を傷付けた。自分は努力して派手さを身につけた。親にも兄弟にも愛されず閉鎖的な環境でひたすら自我を貫いてきた宇髄は無条件で自分が憧れる要素を持ち合わせたこの兄弟に嫉妬した。どんなに自分が派手を取り繕おうとしても敵わなかった。同じ外面が派手で内面が地味な奴なら俺の方が百倍も千倍も良いだろ!血も繋がってねぇし!と宇髄は思うようになった。
    宇髄は君を傷付けてしまった、と謝る青年に対し上から目線で冷たく突き放す物言いをした。
    お前らがどうなろうが俺には関係ない、と。本当はそんな風に思ってた訳じゃ無かったが。自尊心が邪魔したが故に出てしまった言葉。そしてお前はもう俺の嫁だ、と、自由にしておいてやるよ、と青年を好意的に見ているが故に、自己承認の欲が勝ってしまっているが故に上から目線の一方通行の言葉が自制の効かぬままに次から次へと口をついて出て、然るべく自分と向き合おうとした誠実な青年を困惑させた。
    その日はそんな状態で別れたが問題はその後にも続いた。
    自分が彼を手篭めにしようとした時に首筋に付けた痣を彼の弟が見てしまい、激怒した弟は青年を箒で殴り付けて家出をしてしまったのだった。
    事態を重く見た同僚の蛇柱が宇髄の屋敷を訪れてきて、色々と問いただしてきたがもう後に引けなくなった宇髄は同僚に対して横柄な態度をとった。またも心無い発言をして蛇柱の怒りを買い仕置きを受けたが俺は間違ってない、間違ってるのはあいつらだ、と一連の出来事を受け入れられないまま蛇柱の前で蹲り、冷たい目で見下される屈辱に耐えた。
    「頭冷やせ、阿呆。お前のは愛でも何でもない。」
    そう言って去って行った蛇柱にてめえに俺の何がわかる、と言いたかったが、下半身に蛇の咬傷を負った宇髄は声を出す余裕もなくふるふると小刻みに震えながら痛みに耐えていた。
    そんなこんなで今に至る。
    宇髄は腰板に青年の笑う顔を見ていた。あいつ今頃何してるんだろう、とぼんやりと考えながら目を閉じたがまたすぐ開いた。
    無性に青年が気になりこのまま部屋に寝転がって呆けているのはらしくない、地味にださい、と飛び起きて外出用の隊服に着替えをした。とりあえず遠目に様子を伺うには大丈夫だろう、と縁側に出て屋敷をとり囲う塀に飛び移ると屋根を伝って青年の家へと向かった。
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