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    POIPOI 58

    続きです。

    嫁騒動②兄上の頭に日頃の鍛練の成果を発揮した後、煉獄家を飛び出した俺は列車に揺られておりました。混乱から意味不明の言葉を叫び、勢いづいて出てきてしまったものの特に行き先も決まっておらず、車窓から見える収穫の時期を終えて藁干しをしている地味な色の田圃をぼーっと眺めては溜息を吐いていました。
    家のことを考えると兄上の首筋に付いた痣が真っ先に思い出され、兄上を受け入れようとしたあの夜のことも一緒に思い出しました。あの夜は一体なんだったのだろう、兄上どうして…、俺は貴方のことを信じていたのに…。
    そう思うと虚しいような哀しいような何とも惨めな気持ちになり、じわりと泪が浮かんで田圃がぼやけました。
    胸が痛い…、愛されていると信じて疑わなかっただけに俺にとって兄上の裏切りはこの世の地獄を見せられたのと同じ位、衝撃だったのです。そして心の中の兄上の愛情で満たされていた筈の部分がぽっかりと抜け落ちて、俺はどうしようもない孤独を感じていました。
    列車はぐんぐんと先を急ぎ、通り過ぎて行く視界に入り込んだ田圃の土手に一羽の青鷺が収穫されて何の魅力も無くなった畑の土くれを眺めて佇んでおりました。もう暫く行くと、夏、誰かが植えて綺麗に咲き誇っていたであろう向日葵畑が看板だけ残して草に覆われておりました。列車が田舎へ進めば進むほど景色も荒れ、そんなものを見ていたら一層侘
    わび
    しくなってきて喉の奥がつーんとして浮いた泪が溢れそうなのを必死に堪えながら想いを遠い所へ追いやっている内に、あっという間に列車は終着駅へ到着してしまいました。
    「だいぶ遠くへと来てしまった…。」
    俺は汽車から降り、駅前の町へ出て歩き始めました。始めて訪れた場所なので右も左も分からず、取り敢えず今日泊まれる所を探そうと宿を探しながら歩きましたがそれらしき場所は見当たりませんでした。俺はその町はずれの誰もいない小さな公園に行き着き、置かれていた色褪せた木製の長椅子に背負ってきた風呂敷を下ろして腰掛け、一息付きました。
    家のことを全て放り出して来てしまった、そういえば父の食事の支度もしていなかった、家に何か食べるものあったかな…、洗濯物も干したままだ、俺が箒で殴り付けた兄上は大丈夫だろうか、血なんか出ていなければいいが…。
    兄上の事を考えると心配ではあったもののやはり心が痛みました。
    行く宛のない俺は長椅子に座ったまま公園で何時間も俯いていました。
    その頃煉獄家には伊黒さんが訪れていて、兄上の頭に出来た腫れ物に対して上から冷めきった視線を送っていました。
    「これまた派手にやられたな煉獄。」
    「派手と言うな!今は宇髄のことなど思い出したくもない‼︎」
    兄上が畳の上で胡座をかき、腕組みをしながら伊黒さんを睨みました。
    「ふふふ、そんなぶっぱれ状態の腫れ物を頭に凄まれても何の気迫もない。千寿郎も腕を上げたな。」
    伊黒さんは兄上の頭を見て可笑しそうにくすくすと笑っていました。
    「笑い事じゃない!一体何なんだ宇髄は!いきなり俺の菊門を狙ってきたかと思えば俺を自分の嫁の一人と言い出した!俺は宇髄の嫁になる気など露程も無いし全く何を考えているのか理解出来ない!」
    「宇髄の言う事など真に受けるな煉獄。お前がそんなだから奴は面白がってお前に構ってくるんだ。」
    「そうやって人を弄んだ結果がこれか!」
    兄上は自分の頭の腫れ物を指差しました。
    「これもその結果か!」
    更に兄上の部屋の障子を差し貫いて本来の用途を逸脱している俺の箒も指差しました。兄上の頭上に派手でいーね!と喜ぶ宇髄さんの顔が浮かび、自分が宇髄さんに踊らされているかと思うと兄上は腹の底がじくじくしてやり場のない感情を持て余していました。
    「千寿郎はこんな事をするような子ではなかった!宇髄が余計な事をしなければ千寿郎も家出をする事はなかったんだ!いや、俺も確かに油断はしていた、最近気を許し過ぎていたのかもしれない。俺が不甲斐ないばかりに俺は千寿郎を傷付けて…、くっ…。」
    「落ち着け煉獄、面倒くさい。」
    項垂れる兄上に伊黒さんが顔を顰めました。
    「もういいから早く要件を言ってくれ!俺は今すぐにでも千寿郎を探しに行きたい!今は君と話をしている程暇じゃないんだ!」
    「暇じゃないだと…?」
    これにはさすがに伊黒さんもカチンと来たようでジロリと兄上を見下ろすと上からずぬぬ、と圧をかけ始めました。
    「頭腫らして伸びていた奴が何だ、俺は任務の打ち合わせをしようとお前に手紙を送ったのに鴉からお前の返事が一向に来ないからわざわざ出向いて来てやったんだ。それが来てみたらなんて有様だ。俺の手紙は鴉の脚に付いたままだし俺が起こさなかったらいつまで寝ているつもりだった?大体おまえは隙がありすぎだ。宇髄なんか信用するから付け込まれて今回の騒ぎになったんだろう。千寿郎もずっとお前の心配をしていたんじゃないのか。なのにお前はそんな千寿郎の心配をよそに宇髄と二人で温泉になんか行って…ネチネチネチネチ。」
    「うぐ…。」
    「何なら御館様の前に出向いてお白洲
    しらす
    で裁きでも下して貰おうか?まぁ宇髄を証人に出そうとしても無駄なことだ、あいつは面白がって派手に余計なことを言うだろうからな。共に風呂に入って乳繰りあった罪、情状酌量の余地なしでお前は斬首だ。」
    「斬…。べ、別に裁判をしたいと言っている訳じゃないだろう。それに俺は同意の元じゃない。」
    兄上は人差し指を蛇の様にくねくねさせながら責め立ててくる伊黒さんの執拗な口撃を受けて傷付き、膝を抱えて遂には顔を間に埋めて蹲
    うずくま
    りました。別に俺はやましい気持ちで宇髄と風呂に入っていたのではないと兄上は言いたいのだと思いますが何せ俺は以前から宇髄さんを警戒しており肉体関係を思わせる証拠も取れた以上只事では済まされなくなっているのです。そんなつもりではなかったから良いのではないのです。
    「どんな展開になるのかは大方想像出来た筈だ。宇髄も悪いが変な気を持たせたお前にも責任がある。所で甘露寺の入浴姿など見てないだろうな、貴様ら。」
    いや、想像なんて出来なかった、と兄上が表情で訴えようと顔を上げたら、甘露寺の裸を見てたらコロスと言わんばかりに伊黒さんが顔を近づけてねめつけました。
    「う…、俺も宇髄も見てない!安心しろ!」
    伊黒さんの強烈な悋気を前に兄上は辟易しました。間違っても見た、などと言ったら伊黒さんに全力で絞められるのは目に見えていて、兄上は誤解の無いよう真っ直ぐ伊黒さんの目を見返して否定しました。怖いから。
    「悲鳴嶼の所にでも行ってもう一度修行し直してこい。というか今すぐ千寿郎を探しに行け。見つけるまで絶対に帰ってくるな。もし帰ってきたら俺が許さない。でも明日の俺とお前の合同任務までには帰って来い。」
    「…言っていることが支離滅裂だな。」
    「何か言ったか?」
    「…いや、なんでもない。無論、今すぐ探しに行くつもりだ。」
    「じゃあ早く行け。」
    兄上は立ち上がって畳に落ちていた隊服の上着を掴むと即座に部屋を出て行きました。これ以上ネチネチ言われたくないから。
    伊黒さんは兄上を見送りながら難儀な奴だな、と心の中で思いました。
    「さて…、千寿郎を泣かせた罪を宇髄にどう償ってもらおうか…。」
    伊黒さんは縁側に出て庭を眺めていました。子供の頃に父に助けられた後、最初に連れて来られた場所が煉獄家で、この庭で初めて俺達兄弟と出会いました。俺は小さくてその頃の記憶はないのですがその日、一つの布団に伊黒さんと俺と兄上の三人で川の字になって仲良く寝ていたそうです。そんなことを思い出していると鏑丸が首をもたげて伊黒さんの頬に擦り寄りました。
    「そうか、お前も心配しているのか。」
    伊黒さんは空を見上げ、雲の多い青空を仰ぐと姿を消しました。

    日が落ち始め空気も冷えてきて、俺は結局その日は一日中公園の長椅子で佇んでいました。そろそろ何処か屋根のある場所へ移動しなければ、と考えていると俺の前に籠を背負った少年が近づいてきました。
    「君、ずっとここにいるけどどうしたんだい?」
    俺は顔を上げて声をかけて来た少年を見ました。
    彼は大きな赫灼の瞳でじっと俺を見つめていました。風が吹いて彼の花札の様な耳飾りがカランと鳴り、緑の市松模様の羽織がなびきました。彼は俺と視線が合うと、優しい笑顔を俺に向けました。
    「いえ、あの…、大丈夫…です。」
    「そうかい?大丈夫ならいいけど…、君から寂しそうな匂いがしたから少し気になって…。」
    「あ…。」
    俺が下を向いて俯くと彼は俺の荷物を見て家出をして来たことに勘づいた様子でした。
    「もしかして、行く所がないのかい?」
    彼は身体を前に傾けて心配そうな表情で言いました。
    「あ、あの、この辺りで宿を借りられる所があったら教えて欲しいのですが…。」
    顔を上げて思い切って彼に尋ねると彼はきょとんとしていました。見ず知らずの相手に色々と見抜かれているみたいな気分になった俺は少し恥ずかしくなり、視線を彼から外しました。
    「すみません、今日家族と少しあって家を出てきたばかりで…。」
    俺が正直に言うと彼はくすりと笑って俺に一歩近づいてきました。
    「だったらうちに来ないか?どんな事情があるかは知らないけど君を泊めてあげることは出来るよ。」
    「本当ですか⁉︎」
    「うん、ここから少し距離はあるけど君さえ良ければ。」
    見た所、彼は穏やかな少年といった印象でした。幼い頃兄上に知らない人にはついて行ってはいけない、と教えられておりましたがどういう訳か彼からは信頼できる何かが感じられました。
    「良いのでしょうか…?あ、でもやはり貴方に迷惑を…。」
    「別に迷惑だなんて思ってないよ?俺がそうしたいと思ったから言ったんだ。」
    「…なら、お礼は後で必ず致しますから!」
    「いいよお礼なんて、困った時はお互い様だよ。じゃあ、行こうか。」
    彼はくるりと身体の向きを変えました。また彼の耳飾りが小さく音を立てました。
    「あの、貴方の名前は…。」
    俺が尋ねると彼はもう一度振り向きました。
    「俺は竈門炭治郎、君は?」
    「僕は煉獄千寿郎…です。」
    「千寿郎君、よろしく。」
    そう言って彼は笑いました。日の光の様な温かい笑顔でした。


    炭治郎さんの家は町からだいぶ離れた山奥の中にありました。
    「ただいまー。」
    「おかえり兄ちゃん!」
    「おかえりー!」
    炭治郎さんが家の戸を開けると弟や妹達が元気よく飛び出して来ました。
    「よしよし、茂、花子、留守番ありがとうな。」
    炭治郎さんは笑顔で二人の頭を撫でていました。
    「お兄ちゃん、この人は?」
    「うん、紹介するよ、煉獄千寿郎君だ、暫く家に泊めるから皆んな仲良くしてやってくれ。」
    「はーい。」
    「おかえり炭治郎。」
    竈門の前で火を起こしていた大人の女性がこちらへ近づいて来ました。
    「ただいま、母さん。」
    「あら、後ろの人は誰?お客様?」
    「ああ、暫く家に泊めてあげることにしたんだ。いいよね、母さん。」
    「あ…、はじめまして、煉獄千寿郎といいます。暫くご迷惑おかけすると思いますが、よろしくお願いします。」
    「あら、迷惑だなんて、気にしなくていいのよ。ゆっくりしていってね。」
    炭治郎さんの母上や弟妹達は笑顔で俺を迎え入れてくれました。母という存在をよく知らない俺は炭治郎さんの母上の笑顔にほっとし、心が温まる気がしました。
    夜になって炭治郎さんの母上が作ってくれた夕餉を頂き、炭治郎さんの弟達と暫く遊んだあと縁側に出て寛いでいると俺の袖を後ろから引っ張る感覚がありました。振り向いて見ると六太君が俺を見ていました。
    「お兄ちゃん、もっと遊ぼ?」
    あどけない笑顔に俺も微笑み返して視線を合わせました。
    「いいよ、一緒に遊ぼう。」
    「わぁい。」
    俺は六太君に手を引かれて部屋へ戻り、正座の上に六太君を座らせて持ってきていたお伽噺の本を風呂敷から取り出して読み聞かせました。六太君は俺の膝の上で本を読み上げる声に真剣に耳を傾けていました。
    かわいいなぁ、俺にも弟がいたらこんな風に本を読んであげてたのかなぁと、俺は兄になった気分になりながら自分に弟がいる架空の世界を想像していました。そういえば兄上にもこうやって本を読んでもらっていたなと、ふと思い出し一瞬言葉に詰まりましたが今は頭から振り払いました。
    暫くすると六太君がうとうとし始めたので俺は本を読むのを止め炭治郎さんを呼びました。
    「ああ、寝ちゃったか、今布団敷くから待ってて。禰󠄀豆子、六太の布団を頼む。」
    「うん、ちょっと待ってて。」
    炭治郎さんは六太君を抱え上げて隣の部屋にいた禰󠄀豆子さんを呼んで布団を敷いてもらい、そこに六太君を横たえて掛け布団を被せた後、ついでに俺と家族の布団も押し入れから下ろして二人で敷いていました。
    「そろそろ眠ろうか、千寿郎君も今日は疲れただろう?」
    「ええ、今日は色々とあったので…。」
    「身体を休めた方が良いよ、明日になればきっとまた元気になるから。さあ、みんな、もう寝る時間だ!」
    「はーい!」
    炭治郎さんの弟妹が布団に潜り込んでいく中、俺も寝衣姿に着替えて布団に入りました。
    明かりが消されて暗い部屋に寝息が立ち始め、俺も疲れから直ぐに眠りに落ちてしまいました。


    俺が眠りについた頃、兄上は思い当たる場所から血眼になって俺を探していましたが一向に俺の足取りは掴めず苛立っておりました。途中出会った仲間の隊員にも協力を仰ぎ、目撃情報を集めて貰いましたが家の付近で見たという情報のみで有力な手掛かりを得ることは出来ませんでした。
    「何処へ行ってしまったんだ千寿郎!」
    兄上は苦しげに呟きました。鬼の存在を知る人間からしてみれば夜というものは恐ろしい時間でもあり、ましてや家族がいなくなったとなれば不安で一杯になるのは当然の成り行きでした。
    兄上は更に街の外れまで俺を探して駆け、畑の土手で前方を明るく照らしながら線路の上を走る列車にたまたま遭遇しました。
    黒煙を吐きながら黒光りした大きな車体をゴトゴトと揺らして通り過ぎて行く列車を見送った後、兄上は俺が列車に乗ってもっと遠くに行ったかもしれないと思うと、列車を追うように線路の上を走り出しました。
    森の中を貫いて伸びる線路をひたすら辿った先に大きめの町へ着いた兄上はまだ人出のある通りを見渡しました。ここにいるかもしれない、と視線を左右に動かしながら歩くと一軒の茶屋の縁台に腰掛けている冨岡さんを見つけました。冨岡さんは縁台の上に置かれた盆の上に乗せられた皿のおはぎを竹串でつつき、湯呑みから茶を啜っていました。
    「冨岡。」
    兄上が冨岡さんに駆け寄って声をかけました。冨岡さんは無言でゆっくり兄上を見上げ、湯呑みを持つ片手をそっと膝の上に置きました。
    「何の用だ、煉獄。」
    俺がいなくなって焦っている上、多少せっかちな所がある兄上にしてみたら冨岡さんのスローな動作に思う所があったようですがそこは自分本意になってしまう為ぐっと堪えて心を落ち着けてから冨岡さんに手短に問いました。
    「弟の行方がわからないんだ、何処かで見なかったか?」
    冨岡さんは無言で兄上の顔を見上げていました。そして視線をゆっくり前方に移すと静かに考え込み始め、途中で湯呑みを持ち上げて茶を啜っていて、「あ。」と声を発したかと思うと「いや、違うな。」と呟いて、またゆっくりとした動作で湯呑みを持つ手を膝の上に置いて考え込み、それを見ていた兄上はまたも思う所があったけどそれでも俺の情報を聞き出す為に冨岡さんが再び声を発するまでひたすら耐え忍んでおりました。
    「そういえば……の町で見た。」
    「声が小さくて聞こえない‼︎」
    思わず兄上は叫びました。
    「そういえば雲取山の近くの町で見た。」
    「本当か!」
    「ああ。…そう、あれは俺が遅い昼餉を取ろうと定食屋に入って鮭大根を…。」
    「そんな経緯はいいからもっと要点を押さえて話してくれ!」
    兄上の身体が小刻みに震え始めていました。
    「どうした、煉獄。寒いのか?」
    「寒くなど無い!それよりも早く!」
    「しかしお前顔が赤いぞ…。流行り病か?」
    「いいから‼︎」
    「…そうはいかないだろう。」
    「心配無用‼︎!」
    「…。」
    少しも空気を読んでくれない冨岡さんに兄上の我慢も限界に達する勢いでしたが冨岡さんは兄上から視線を外すと漸く兄上に答え始めました。
    「大きな籠を背負った少年と一緒に雲取山の方へ向かって歩いて行った。」
    それを聞いた兄上は大きな目を一層大きくさせて冨岡さんが「おはぎ、食べるか?」と勧めようとしたのを他所に、光の速さで雲取山へ向かって駆けていきました。
    籠を背負った少年?誰だ!何処の誰だ!うちの千寿郎と一緒にいたと!なるほど!
    兄上は全集中の呼吸で更に速度を上げ、悋気に燃え盛る心を精力に変換して、それでも身体から溢れ出す炎の渦を後方に残しながら町の外れへと消えて行きました。

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    Lilykmt

    DONE🔥🎴でキスの日!短いお話です。
    さりげなく🔥さんがプロポーズしています。
    日差しがたっぷりと降り注ぐ庭、煉獄家3人分と自分の洗濯物を洗い終えた炭治郎は、真っ白にはためく洗濯物を見て、よしっと呟いた。
    今日はいい天気なので乾くのもきっと早いだろう。
    庭の草むしりなどは普段千寿郎が、部屋の掃除は槙寿郎がやってくれている。
    煉獄の姿を探すと、縁側に出る部屋の柱に身を持たせかけて、炭治郎へ慈しみの目を向けて佇んでいた。
    「煉獄さん!」
    「洗濯物をありがとう炭治郎」
    庭へと下りた煉獄に走りよった炭治郎は、いいお天気なのでついたくさんしてしまいましたと笑う。
    「手伝わなければと思いつつも、すまない。見とれてしまった」
    「煉獄さ…」
    「まるで君がこの俺に嫁いできてくれたかのようで、錯覚を起こす」
    「煉獄さんさえ良ければ、俺はあなたの妻になりたいです」
    片腕も効かないし、痣ものでいつ果てるとも知れぬ命ですがそれでもいいならと微笑む。
    「俺こそ片目も見えぬ男だ。けれどお互いになにも支障はないな!無理をしてはいけないが、君はこれ以上ないくらい頑張っているし…俺は君が好きだ」
    洗濯物が風にはためく音、不器用ながらも真っ直ぐな言葉に炭治郎は目を丸くし煉獄の言葉に口元を綻ばせる。
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