残響番外編③前編 ガタン、ゴトン。列車が線路を走る際に鳴る音が、足元の振動と共に車両内に響く。平日の真昼間とあって乗客は少なく、各々が手元のスマートフォンを眺めたり雑誌や新聞を読んだりして過ごしている。大きな車窓から差し込む光で明るいものの、冷房が効いており暑さは感じられない。
耳に嵌めたワイヤレスイヤホンから音が漏れないように気を配りつつ、練習中の曲やその他に気に入った曲などを聴いて、読みかけの文庫本のページを静かにめくる。そうして過ごす移動時間を、大倶利伽羅は殊の外気に入っている。とはいえ、大学付近に引っ越した大倶利伽羅は高校時代と異なり通学に電車を使わなくなったから、電車移動の頻度は少ない。使うとしても他大学のオーケストラ部の練習に呼ばれた時や、演奏会を聴きに行く時、友人知人と共に出かける時など、遠出の用事がある時に限られる。そして今年度はそこへ、恋人に呼び出された時、という場合が一つ加わった。
8568