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    アメチャヌ

    ガムリチャか捏造家族かガムリチャ前提の何か。
    たまに外伝じじちち(バ祖父×若父上)

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    アメチャヌ

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    10×21.2くらいのガムリチャ(ふわっとした)20世紀初頭貴族パロ的な何か

    「リチャード、売れる銀食器はないか」

     子供の足の大きな歩幅で勢いよく近寄ってきたかと思うとおかしなことを口にする少年を怪訝に思い、リチャードは手元の本から顔を上げて「何故だ」と問い掛けた。
     庭をのぞむ書斎には長椅子に掛けるリチャードの他に誰もいないというのに、少年は猫科の獣のような黄金色の瞳で用心深く室内を見渡すと、声をひそめて答えた。

    「今から家出をする。資金が必要だから売り払っても構わない物があったらくれ」
    「ばかを言うな、あったとしても渡せるわけがないだろう。屋敷にある物は俺の物ではないんだ。勝手はできない」
    「だが、不要なものの一つや二つはあるだろう?」
    「あるかもしれんが、だめなものはだめだ」
    「どうしてもか?」
    「どうしても、だ」
    「あんたなら協力してくれると思ったのに……」

     大人びた口調で拗ねる幼い顔に苦笑し、リチャードは本の頁を閉じた。
     長兄の婚約者の遠縁だという少年は、名をヘンリー・スタフォードという。
    どういうわけか、初めて顔を合わせて以来、ヘンリーはリチャードによく懐いた。屋敷に滞在中は生意気な口ぶりで後ろをついてまわり、リチャードが書斎にこもれば真似して本を開き、馬に乗れば真似して鞍にまたがろうとした。
    鬱陶しさを感じていたこともあったが、慣れたせいか今ではあまり気にならない。それどころか、姿が見えないと屋敷の中で迷子になっているのではないかと心配になる。
     しばらく間が空いても屋敷を訪れればヘンリーは当たり前のようにリチャードの隣に立つ。逢わなかった月日など無いかのような振る舞いに呆れもすれば安堵もした。十以上も年下の相手に愛情を抱いているのだと、再会の度に深く心に感じていた。
    可愛げの欠ける幼い彼を、今では弟のように想っている。
     リチャードは手を伸ばし、ヘンリーの細い腕を優しく掴んだ。軽く引き寄せ、計画が頓挫して不満を隠しきれない少年に微笑みかける。

    「銀食器は渡せないが、六ペンスやるから家出はやめて、遊びに行ってこい」

     家出したがる理由は分からないし、訊き出すつもりもない。ただの思いつきなら気を紛らわせてやればよいかと柔らかいこどもの頬を撫ぜると、ヘンリーは擽ったげに顔をそらした。

    「あんたも一緒なら、それでもいい」
    「なら決まりだな。上着を取ってこい。表に車を回すよう言ってくる」
    「わかった。だが六ペンスは借りるだけだ、ちゃんと利息をつけて返す」
    「利息だと?」
    「ああ、これは前払いだ」

     言うと同時にちいさな唇がリチャードの頬をかすめる。
     突然のキスに驚いていると、あっという間に機嫌を取り戻したヘンリーがいつもの生意気な顔でニヤリと笑った。

    「あんたの上着も必要だな。一緒に取ってくるから待ってろ」

     来たときと同じように子供の歩幅で足早に書斎を出ていく背中を見送りながら、リチャードはひと仕事終えた心持ちで使用人を呼ぶためのベルを鳴らした。
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    アメチャヌ

    DONE*最終巻特典の詳細が出る前に書いたものです、ご承知おきください。

    69話の扉絵がバッキンガムが65話で言ってた「美しい場所」だったらいいな〜、地獄へ落ちたバッキンガムがリチャードのお腹にいた(かもしれない)子とリチャードを待ってたらいいなぁ〜……という妄想。
    最終話までのアレコレ含みます。
    逍遥地獄でそぞろ待ち、 この場所に辿り着いてから、ずっと夢を見ているような心地だった。
     
     薄暗い地の底に落ちたはずが、空は明るく、草木は青々と生い茂り、湖は清く澄んでいる。遠くの木陰では鹿のつがいが草を食み、丸々と太った猪が鼻で地面を探っていた。数羽の鳥が天高く舞い、水面を泳ぐ白鳥はくちばしで己の羽根を繕う。

     いつか、あの人に見せたいと思っていた景色があった。

     まだ乗馬の練習をしていた頃。勝手に走り出した馬が森を駆け、さまよった末に見つけたその場所は、生まれた時から常に血と陰鬱な争いが傍にあったバッキンガムに、初めて安らぎというものを教えた。
     静謐な空気に包まれたそこには、あからさまな媚びも、浮かれた顔に隠れた謀略も打算もない。煩わしさからはかけ離れた、ほかの誰も知らない、誰もこない、自分だけの特別な場所だった。
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