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    お誕生日大遅刻SS。前日に2本もプロットたてて書こうとするとか馬鹿でしかないんだよなぁ……。
    嬬武器雷刀(つまぶきらいと)君と嬬武器烈風刀(つまぶきれふと)君がレイシスちゃんの誕生日パーティから一緒に帰る話。
    気になったら公式キャラ紹介(https://p.eagate.573.jp/game/sdvx/vi/chara/index.html)見てね。ついでにゲーセン行ってゲームしてね。頼む。

    明日はケーキ食べよーな 夜の陰落ちるアスファルトの上を足音が二つ転がっていく。陽が沈んで随分と経った住宅街に落ち行く固い音色を奏でるのは、普段の履き慣れたスニーカーではなく新品の革靴だ。汚れ一つ無い真っ白なそれは、街灯が照らす夜道の中でほのかに光って見えた。
    「パーティー楽しかったな!」
    「えぇ。何より、レイシスが楽しんでくれたようですからね」
    「そそ。レイシス、ずーっと笑ってたもんな」
     よっぽど楽しかったんだろうなー、と喜色に満ちた声は白を形取り、ふわりと浮かんで空へと消えていく。喜びで華やかに彩られ緩んだ頬は、うっすらと紅が滲んでいた。
     えぇ、と応える穏やかな声。その音も、普段の怜悧でシャープな輪郭を失い、わずかにとろけていた。ふ、と柔らかに吐き出した息も同じく白になり、闇夜に舞って消えた。
     本日は一月十八日。己たちが愛し守るべき少女、レイシスが――そして、この世界が生まれた記念すべき日だ。この世で一番大切であるその日を盛大に祝い迎えるため、兄弟と仲間たちは一ヶ月ほど前から誕生日パーティーの準備を進めていた。多忙な運営業務の合間と主役である薔薇の少女の目をかいくぐりつつ用意した舞台は、仲間たちの多大な助力もあり大成功を収めた。今日一日、満面の笑顔を咲かせはしゃぐ彼女の姿を見ることができた。それだけで企画した甲斐があったというものだ。
    「オレらも誕生日だしなー」
    「……そうでしたね」
     そんな賑やかで晴れやかなパーティーであるが、本日の主役で祝われる少女が驚愕の表情とわずかな怒りを見せる場面があった。兄弟二人して自身の誕生日をすっかり忘れていた、と発覚した時のことだった。
     一月十八日はレイシスの誕生日。何より大切な日。世界で一番めでたい日。
     そのような意識があまりにも強く、己たちの誕生日など完全に忘れていた。この日、この世で最も喜ばせるべき彼女に、信じられないとばかりに目を丸くさせ、自分たちのことも大切にしろ、と諭すほどの事態を招いたのは、今回唯一の瑕疵だ。まさかこんなことで愛しい少女の記念すべき日に傷を残してしまうなど思ってもみなかった。ちゃんと覚えてくだサイ、とまろい頬をぷくりと膨らませた彼女の姿と強い言葉は胸に刻むべきである。少なくとも、生きている間は。
    「オレたちはすっかり忘れちまってたけど、レイシスは覚えててくれたし? 嬉しいよな。オレたち以上にオレたちのこと考えてくれてるってことじゃん」
    「あー……まぁ、そういう解釈もできますね」
     にへらと呑気に口元を緩ませる兄に、弟は呆れた調子で返す。しかし、そんな彼が紡ぐ音も片割れ同様にどこか綻んでいた。愛している人が己たちのことを覚えていてくれた。考えていてくれた。想っていてくれた。随分と都合の良い解釈だが、忘れずにいてくれたことは紛れもない事実である。あの鮮やかな桃の少女に想いを寄せる少年たちが喜ばないはずなどなかった。
    「烈風刀」
     声とともに、朱い瞳が隣を歩く碧を見る。コートのポケットに手を突っ込み、少し屈んで己と対の色を覗き込む姿は幼さを思わせるものだ。蒼玉を見つめる紅玉には、喜びと愛おしさがにじみ幸いの色を成していた。
    「誕生日おめでと」
     ニッと口角を上げ、雷刀は祝いの語を紡ぎ出す。いたずらげな表情とは裏腹に、響かせる音色はふわりとまあるく柔らかで温かさに満ちていた。
     兄の言葉に、浅葱が瞬く。少しだけ瞠られたそれがゆっくりと細まり、ゆるいカーブを描いた。唯一無二の兄弟を見つめる瞳は、優しく愛おしげな、大切なものにそっと触れるようなものだった。
    「雷刀こそ。誕生日、おめでとうございます」
     ふふ。へへ。幸福で染められた笑声が、薄闇を纏う夜道にこぼれ落ちる。穏やかな音色を耳にし、胸にしまいこんだのは、朱碧の双子だけだった。
    「よーし! ケーキ買ってこうぜ! オニイチャンがおごってやんよ!」
     腕まくりをするようにコートに包まれた二の腕をがっちりと掴み、朱い少年は張り切って宣言する。髪と同じ色をした睫に縁取られた大きな目は、夜闇を照らすように輝いていた。天上の黒を彩る星たちとよく似た光をしていた。
    「もうどこのお店も閉まってますよ」
     やる気に満ち溢れた炎瑪瑙を、苔瑪瑙が苦い笑みを浮かべて見やる。つややかなそれには、呆れと少しの寂しさが宿っていた。
     パーティーとその片付けを終えた今、二人で暮らす部屋への帰り道、夜の帳はすっかりと落ちきり世界をすっぽりと覆っていた。一般的な店はとうに閉店時刻を過ぎている。ケーキを買うなど無茶な話だ。大体、雷刀の財布の中はいつだって寒風が吹き荒ぶっている。テンションに任せておごるなどと言っているが、実現は不可能であろう。
     えー、と朱は不満げな声を漏らす。せっかく思い浮かんだ名案が一言で崩された彼の唇は、ほのかに尖っていた。子どもそのものな姿に、碧は少し苦みを漂わせ息を吐いた。ふ、と細い音と白が夜を彩る。
    「明日二人で買いに行きましょう。朝の早い内に行けば、たくさんの種類がありますよ」
     ネメシスでケーキといえばCafe VOLTEだ。常から多くの女性客で賑わい売り切れになることもしばしばなかのカフェだが、昼前に行けばそんな心配などなく多種多様なケーキに出会えるだろう。個数限定品を買うのは無理でも、常時販売しているものや季節限定品は手に入れられるはずだ。問題は、朝にすこぶる弱い兄が起きられるかどうかという点だが。
     なるほどなー、としょげた様子をしていた片割れは感心したような音を漏らす。よし、とあげた声は一転して明るく、夜空に響き渡りそうなほど大きなものだった。
    「じゃ、明日は早く起きねーとな!」
    「起きれるんですか?」
    「起きれるかじゃなくて、起きるんだよ」
     何故か得意げな声音で紡ぎ、兄はトンと拳で胸を叩く。調子の良い台詞に、弟はふ、と呆れた息をこぼす。そこには愛しさを孕んだ響きが混じっていた。
    「じゃ、さっさと帰って寝よーぜ」
     ほら、と雷刀は隣を歩く烈風刀の手を掴む。冷えたそれを離すまいとばかりにぎゅっと握り締め、少年はタッと軽やかに地面を蹴り駆け出した。
     唐突に手を引かれ、碧い少年はえっ、と驚きの声をあげる。たたらを踏むように彼も走り出した。
    「ちょっ、と、雷刀! 危ないでしょう!」
    「だいじょぶだいじょぶ!」
     咎める声に、おどけた声。強く握り力強く引く手に諦めたのか、碧は足を速め、薄ら闇を走る朱の隣に並んだ。隣までやってきた喜びを表すように、重なり繋がった手が緩く振られた。にひ、と喜色をあらわにした笑みが八重歯覗く口からこぼれ落ちた。
    「まずはお風呂に入らなければいけないでしょう」
    「わーってるって」
     だから早く早く、と雷刀は足の動きを速めていく。烈風刀も、後れを取るまいと負けじと強く地を蹴った。
     街灯に照らされた夜道を駆け行く軽やかな音が、星瞬く天空へと響いていった。
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