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    数年前から書きたいと思ってた地味地味推してたコンビをようやく書けた。Part2。
    気になった人はゲームやってねと言いたいけど今回ばかりは上級者向けコンテンツの話だから言えない悲しみ。

    いつだって貴女を見据えて フィールドに細かな光が瞬いては消えていく。輝きが生まれる度、金属と金属が擦れ合う音が蒼天へと昇った。光と音を伴う鮮やかな剣戟が繰り広げられる様に、ワァ、と数多の高揚した声が空間を満たした。
     場内を一望できる特等席――出場者待機所上部に設けられた観覧席、その欄干に両腕を突けて乗せ、烈風刀は剣と鎖が交わり合う競技場を眺める。姿勢悪く背を曲げ力なくもたれかかる姿は、いつだってしゃんとして過ごす彼らしくもないものだった。
     碧の表面を白が、桃が瞬く。常は澄んだ川底色の目は、覇気無くぼんやりとしていた。愛する少女が全身全霊で闘っている最中だというのに、その手に汗握る風景を映し出す水宝玉はどこか膜を張ったようにぼやけて見えた。
    「あら。レイシス、勝ったのね」
     後方から声。普段と変わらず余裕たっぷりのそれに、少年は首だけで振り返る。わずかに伏せられた若葉の中に、鮮やかな躑躅が飛び込んだ。
     観覧席の出入り口の脇、支える柱に背を預けたグレイスは、唇に指を当てふふ、と笑みをこぼす。言葉に反し、奏でられる響きとゆるりと細められた瞳は確信めいた色を灯していた。
     世界が変わってからは白とチェリーピンクの衣装で華奢な体躯を彩る彼女だが、今日は全く違うものになっていた。
     髪をまとめる役割も果たす角のような黒のヘッドギアは、薄く鋭利なものになっている。時折現れては消えていくEVIL EYEに似た形の装飾が、巻角のように後頭部から前へと侵蝕していた。
     鮮やかな桃が白い肌を引き立てていた首元は、漆黒のギアで守られている。中央部が青白く光る様は機械めいた印象を与えた。
     黒のフリルがあしらわれた胸元、つやめく鴇色で飾られた細い身は、今日は黒一色で彩られていた。エナメル質の輝きを宿す三角形の布地が、腹の横から覆うように彼女の身体を包む。まるで白い肌を黒い牙が食らおうとするようだった。
     さらけ出された足回りは、頑強な装甲が守っていた。光を吸い込む黒と目に痛いほどのピンクのそれは、無骨ながら格好良さを醸し出している。腰を中心に何枚も広がる様は、花が咲いているようだ。
     こちらに来た頃に比べて随分と健康的に色付いた肌には、黒い線が何本も走っている。頬、デコルテ、鼠蹊部、太股を侵蝕するその色は、彼女の柔肌にアクセントを加えスタイリッシュな印象を与えた。
     慎まやかな胸元、幼く浮き出る肋、柔らかな白い腹、少し肉付きがよくなった太股を惜しげも無く晒す衣装は、重力戦争時代の彼女を彷彿とさせた。
     MODE:Extarmination。
     それがグレイスが身にまとう、今日のために作られた新たなる武奏だ。『駆除』を意味するこの武奏は、まさに何もかもを破壊し殲滅する様を容易に想像させる凶悪さを放っていた。
    「あなた、レイシスと闘うのは初めてだったわよね? どうだった?」
     不遜な眼差しで目の前の少年を射抜き、少女は愉快げに問う。そこには多大なる好奇心が浮かんでいた。
     本日はヘキサダイバーにてバトル大会が行われていた。参加者は主催者であるグレイスを含め七名。対する挑戦者は、レイシスただ一人だ。休憩を挟む一対一の一本勝負とはいえ、一日で七人も相手取る試合形式は厳しいものである。だが、そうでなければならないのだ。この大会は躑躅の妹曰く『最近なまってる』あの薔薇色の姉を鍛え直すために企画されたのだから。
     大会の記念すべき初戦、レイシスにとって今日初めての対戦相手は長年共にしてきた烈風刀だった。重力戦争時代、二人は一度対立したことがある。しかし、その時少年が直接剣を交えたのは恩師と兄だけだ。運が良いのか悪いのか、今までアリーナバトルで闘う機会も無かった。幼い主催者の言う通り、碧と桃が直接ぶつかり合うのは今回が初めてだ。
     振り返っていた首を緩慢な動きで戻し、碧は再び広いフィールド――その真ん中で闘う愛おしい少女を見下ろす。繰り広げられる熱戦を前にしても、翡翠の瞳は依然ぼやけたままだ。
    「強かったですよ」
     興味津々といった様子の問いに――敗者にかけるには意地の悪い問いに、少年はただ一言だけ返す。先ほどまで闘っていたとは思えないほど冷めた平坦な音色をしていた。
    「それだけ? もっと他にないの?」
    「ありませんよ」
     きょとりと目を瞬かせ、どこか気の抜けた様子で少女は問いを重ねる。返されるのは依然穏やかで短い言葉だ。面白みの欠片も無いそれが不満なのだろう、マゼンタの瞳はじとりと細められ、柔らかな頬がぷくりと膨らんだ。
    「『強い』としか言えません。それぐらい、圧倒されてしまった」
     ふ、と碧の少年は溜め息にも似た呼気を漏らす。細いそれには、悔しさがはっきりと滲んでいた。
     護るべき存在だと思っていた。護られるべき存在だと思っていた。
     かといって、か弱いなどとは決して思ってはいない。むしろ、己よりもずっと力を持った者だということははっきり分かっていた。ただ、己はその強さを漠然としか理解していなかったことを、己の力など到底及ばない存在であることを、嫌というほど思い知らされたのだ。
     レイシスが剣を握り操り始めたのは、世界が新しくなってからだ。経験は浅いはずだというのに、闘う姿は数多のバトルを重ねてきた勇士のようなものだった。試合序盤は己の遠距離からの狙撃にはわはわと慌て隠れていたものの、しばしして物陰から跳びで駆け出した少女の立ち振る舞いはまっすぐで、愚直なまでに対戦相手を――烈風刀を見つめていた。試合経験少なく、銃への対抗手段もろくに知らない彼女には物陰に隠れスナイパーライフルを扱う己などなかなか捕捉できないだろうに、そのラズベリルの瞳は確かに倒すべき相手を見据えていた。
     飛んでくる銃弾を素早く避け、時には真っ白な刃で跳ね飛ばし。そうしてついにこの懐に飛び込み得物を振るった彼女に圧倒されてしまったのは、紛れもない事実であった。
     長い間剣を扱い闘ってきた碧から見て、桃の振る舞いはまだまだ荒削りだ。それでも、二振りの剣を操るその姿は輝きに溢れていた。原石とは彼女のような者を言うのだろう。それも、磨けば凄まじい光を放つ美しい宝石の。
     全力を出すべき相手であることは理解していた。だから、全力を出して、アリーナバトルを重ね確かな扱いと信頼を得たこの武器を選んで挑んだ。そして、負けたのだ。普段ならば晴れ晴れとするこの胸から、未だに強い悔しさと歯がゆさがはっきりと溢れ出、侵蝕するほどに敗北を喫したのだ。
     ふぅん、とグレイスはつまらなそうに漏らす。その音は依然不満げだ。けれども、どこか楽しさを孕んでいるようにも聞こえた。
    「すっかり腑抜けてると思ったけど」
    「闘ってみれば嫌でも分かりますよ」
     黒いアームカバーに包まれた腕を組んだ彼女を見やり、烈風刀は笑みをこぼす。穏やかな色をした目には、自嘲の念がうっすらと膜張っていた。
     重力戦争が終結して数年、レイシスはすっかり闘いから身を引いていた。アリーナバトルは何度かやっていたようだが、あれは結局スポーツで一種のアトラクションでしかない。彼女はあの日々が嘘のように闘いと無縁の生活を送っていた。その姿を隣でずっと見ていた妹だからこそ、そう思ったのだろう。先のヘキサダイバー内で起こった事件も相まって、『腑抜けてる』なんて評価を下したのはいつだって闘いに身を置く彼女からすれば当然だ。
     けれども、今日相対した薔薇色はそんなことなど毛ほども思わせない様相だった。腑抜けたなんて到底思えないような、そんな言葉なんて欠片も浮かばないような、確かな腕をしていた。むしろ、更に強くなったのでは感じさせるほどだ。
    「まっ、レイシスがどうであろうと最終的に勝つのは私だけどね!」
     ふふん、と得意げに鼻を鳴らして躑躅の少女は謳う。高らかなそれは、自信に満ち溢れたものだった。己の力を全く疑っていない、相手の力を認めつつも圧倒的に捻じ伏せてみるという気概をはっきりと感じさせるものだった。実に彼女らしい。
    「……どうでしょうね」
    「何? 私が負けるって言いたいの? この武奏で?」
     呟くような声をしっかりと拾い上げ、少女は少しの怒気を滲ませた声を重ねる。チャキリ、と軽い金属音。視線をやると、どこからか取り出した二丁の銃を構えこちらへと向けていた。常日頃扱うそれより大ぶりで銀色の刀身が付いた、攻撃に特化したものだ。対レイシスのためだけに用意したのだろう。愛銃に比べればまだまだ使い慣れていないであろうそれに、確かな信頼を寄せていることが伝わってきた。
    「負けるだなんて、一言も言っていませんよ」
     ただ、と少年は続ける。欄干から身体を離し、くるりと振り返る。唇を尖らせこちらを睨めつける躑躅を、浅葱がはっきりと射抜く。武器を向けられているというのに、その口元には微笑みをたたえていた。
    「容易に勝てる相手ではないことは確かです。それぐらい、貴女が一番分かっているのではないですか?」
     誰よりもレイシスと闘ってきたのはグレイスだ。その力を一番理解しているのもグレイスだ。『腑抜けた』なんて言っているが、その実力を侮っているはずなどない。姉とアリーナバトルで手を合わせた数少ない相手は、妹である彼女なのだから尚更だ。スポーツという枠組みの中でも、桃の少女は確かな実力を発揮していたのだから。
     ぐぬ、と尖っていた可愛らしい口がへの字に曲がる。構えていた銃が下ろされ、まっすぐに藍晶石を見つめていた尖晶石がふいと気まずげに逸らされた。
    「……だから、手を抜いたりなんかしないわ」
     可憐な口元から、確かな音がこぼれ出る。両手に持った銃をトリガーガードに指を入れくるりと回す。改めてグリップを握る手に力が込められていることなど、少し離れたここからでも分かった。チャキ、とまた金属音があがる。
    「この最強の武奏で、全力で闘って勝つの」
     力強い言葉は、聞く者の胸を貫くように鋭利でまっすぐだ。高らかな宣言は、誰よりも、何よりも、己に言い聞かせるようなものだった。強く眇められた瞳には、確かな闘志が、勝利への執着が見て取れた。何が何でも実力で姉に勝ちたい。そう考えていることがありありと分かる眼差しをしていた。
     それもすぐに切り替わり、少女はふふん、と不敵に笑う。腰元の武奏の下に銃をしまい、もたれていた壁から身を離す。カツカツとブラックとマゼンタのヒールを鳴らし、グレイスは烈風刀の隣へと立つ。欄干に片肘を突いて、競技場を、そこで闘う者たちを見下ろした。
    「でも、私のところまで来れるのかしら」
     眼下に広がる光景に、白い眉間に皺が寄る。桜色の唇は、再び不満げに尖っていた。奏でられた音色はどこか不安げだ。
     広いフィールド上には、二人の少女がいた。接とレイシスだ。鎖苦無という初めての得物相手に苦戦しているようで、桃はぴょこぴょこと不安定に迫り来る攻撃を避けていた。はわわわ、と動揺する彼女の声が容易に想像できる動きだ。
    「あぁもう! ちゃんと勝ちなさいよ!」
     いつの間にか手すりを握り、妹は吠える。競技場いっぱいに響き、姉の耳に届いてしまいそうなほどの声量だ。すぐ隣で直に浴びせられ、碧は反射的に目を細める。それもすぐ柔らかなものへと変わった。
    「敵を応援していいのですか?」
     真剣に闘うべき相手を見つめる少女に、少年は意地悪く問うてみる。フィールドに釘付けになっていた薄朝焼け色が、再び空色へと向けられる。む、とまろい頬が不服そうに膨らんだ。
    「レイシスは私が倒すの。途中で負けて私のところまで来れないとか許さないんだから」
     ふん、と不機嫌そうに言い放ち、少女はすぐに競技場へと視線を戻す。カキン、と高い金属音があがる。刃が交わる音だ。あぁ、とこぼす声はハラハラとした焦燥と不安が混ざった音色をしていた。
     グレイスにつられるように、烈風刀も広い競技フィールドを見やる。先ほどまで不安定だった動きは、次第に確かな足取りになっている。剣を振るう手も、相手に合わせ洗練されていっているのがはっきりと見て取れた。勝利はだんだんと彼女へと近づいていた。
     頑張ってくださいね。
     武奏を操る度ふわりと舞い踊る桃を眺め、碧は呟いた。
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