幻想世界と紅の色 昔から本が好きだった。
紙とペンを介して知らない世界を、見たこともない世界を、見ることなんてできない世界を知ることができるなんて、この上なく面白い。この世にはまだまだ見たこと、聞いたことがないものが満ち満ちている。加えて幻想から生まれた物語までたくさんあるのだ。まだ何も知らない子どもが引き込まれるのは必然であった。
幼いながらも、きっと己が今いる小さな世界を出て行くことは難しいと察していたのも一因だろう。これ以上『外』を知ることはない。無意識が囁く度、少年はページをめくる。なめらかな指先が、抵抗するように紙を辿る。
様々な物語の世界の中でも、海を舞台にした冒険譚が特に好きだった。己が見ることのない世界を欠片だけでも理解できた気がして、どこか空虚な心が満たされるのだ。
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