キー萌の戦闘妄想【街が突然現れた怪人に破壊されていっている！】

「魔法少女萌葱色参上っ！」

高い建物の屋根の上から可愛らしい声が響いた。長く巻いた黒髪のツインテールに、モノトーンのワンピースを身にまとった一人の少女。
人々は確信した。魔法少女が来てくれた、これで安心だ、と。

この世界には世界の制覇を狙う怪人一味と、そんな怪人から人々を守るために神より力を与えられた魔法少女が居る。
そして今まさしく怪人一味のボス、怪人『キーツ』の手によって人々の街は侵攻を受けていた。
『萌葱色』は魔法少女の中で唯一キーツと互角戦えるほどの強い力を持ち、他の魔法少女からも勝利の女神と言わしめるほどだった。

しかし、多数の人々は知らなかった。
萌葱色は人々のために戦っているわけではないことに。加えて、互角には戦うもの毎度敗北してしまうことに。

「あぁー！　雑魚怪人かと思ったらぁ！ねぇねぇねぇねぇねぇキーツぅ！今日もいっぱい遊んでくれるんでしょぉ、今日こそぶちころがすからそこでじっとしててねぇ〜！」

先ほどまでと打って変わって無邪気な子供のような言葉に人々は目を丸くする。
萌葱色から十数メートル離れた地上にいる、藍色の髪に黒く禍々しいツノを持つ青年の姿をした怪人キーツ。萌葱色を仰ぎ、返事をするように淡く微笑んだ。

「とぉっ！」

足を伸ばしながら身体を丸ごと一回転させ、遠心力から勢いを付けながら飛び降りる。足先はそのままキーツへと向き、弾丸のような飛び蹴りが真っ直ぐと降り注ぐ。
が、キーツは軽くパスされた球を受け取るかのように頭の斜め上、片手でその足を受け止めた。コンクリートがキーツを中心に円状に割れる。

「今日もぶちころがされるの間違いではないかな、萌葱」

反対の手で足首を掴むと、自身の身体を後ろに向かせ、振り払うように後方の建物へと萌葱色を投げ飛ばす。
しかし咄嗟に身を捩って壁に足がついたところで膝を曲げて衝撃を受け止め、逆にそれをバネにしてキーツの方へ飛んでいく。

「ぶちころがすのぉ！」

急接近と同時に拳を振る。が、それも先ほどと同じように受け止められてしまう。
お互いに反対側の歩道に立ち距離を取る。

「初めて拳を交わした時に比べて、中々成長したように思える」
「ほんと！　キーツがいっぱい遊んでくれるからだよ、好き好き大好き！」

無邪気な笑顔を向ける萌葱色にまたキーツは微笑んだ。
もうこの時には一般人はおおむね逃げ去っており、二人きりの空間となっていた。

「はは、では今日は負けないといいな！」
「そっちこそぉ！」

お互いに一気に間合いを詰め、拳が向かい合う。
先に相手の肉体に当たったのはキーツの方であり、衝撃波を出しながら萌黄色の身体は間合いを詰めた速度と同じくらいの速さで背方へと飛んでいった。
拳が当たったのはちょうど鳩尾あたりで、身体をくの字に曲げ建物の壁を壊してようやく落ち着いた。衝撃はかなりのもので、萌葱色はそれだけで立つのがやっとというほどにダメージを受けた。

「どうした、今日こそと言っていたではないか」
「キーツが、急所……狙って……かはっ！」

軽く喀血し、前方に倒れ込む。
そんな萌葱色の首根っこを掴み上げ、したり顔で笑った。

「一撃食らった程度でこれではわざわざ出向いた甲斐も無いと言うもの。少女よ、次は楽しませよ」

そう言うと、キーツは消えてしまう。
萌黄色の身体はそのまま地面に落とされ、「へぶっ」という鳴き声が響く。

「う……もう立てない……っていうか何、私と遊びたくて来たの……？」

少し嬉しそうに笑った。
その場に残された萌葱色はと言うと、少し間を置いて神によって神の世界へと転送された。