雲の切れ間万物を迎える為の穴が展開された。鼓膜を揺さぶる不快な共鳴音と共に、緑青の草地が真紫に染まる。その毒々しい力場に魅入られるかの様に足をふらつかせながら踏み込んだかつての英雄は、何処からともなく飛んできた黄金の矢に真正面から射貫かれた
「そこに入ると危ないぞ」
細長い指と柔軟な関節を巧に利用して矢を二本番えた声の主が、大振りの弓を携えながら【的】に向かって呼びかける。間髪入れず斜に構えると、狩人は弦を撓らせ、矢を見舞った。
鬼火となった的は、音もなく輪廻へと戻る。
永遠の楽園エリシウムの一角で繰り広げられていた名もなき英雄との攻防は一旦の終息を迎え、
そこに残ったのは、高台に切り裂かれる風の唸り声と、戦士の残滓、狩人、そして黒衣の死神だった。
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