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    hiisekine_amcr

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    暁理の2人が任務で過去に行ったら突如離れ離れになってしまったので暁さんが理人さんを取り戻そうとするお話の続き。まだまだ続きます。暁さんは出てきません。またオリキャラが登場します。

    ##暁理

    2 チャオ 寒い。
     痛い。
     そんな感覚がして、理人は重たい瞼をうっすらと開いた。
     視界は真っ暗だった。しかし、少し目が慣れてくると、微かにだが中の様子が伺える。完全な暗闇ではないらしい。首を動かしてみると、微かな灯りが揺れるのが見えたが、その光は格子状に遮られ、影となっていた。
     理人は、痛みを訴える体に鞭を打って起き上がった。ひんやりと冷たい床に寝転がされていた体は、すっかり冷え切っていた。震える手足を駆使してなんとか立ち上がると、体に掛けられていたらしい毛布のようなものが床に落ちた。それと同時に、肩からするりと薄い布地がすべり落ち、肌が晒された。冷たい外気に、ふる、と体が震えた。
    「ここはいったい……?そうだ、暁さんと連絡を……」
     そう思って手首に触れたが、理人の想定に反し、そこにあるべきものは何一つとしてなかった。タイムワープガジェットも、通信機器も、普段身に付けているあらゆるものがなかった。纏っている服装は普段着ているTPAのユニフォームではなく、薄い浴衣一枚のみ。愛用の下着も脱がされ、髪を結っていたゴムもなく、長い髪がそのまま肩にかかっている。
    「……いったいなにが、どうなって……」
     理人は朦朧としながらも、木柵を掴み外の様子を伺った。木の柵は、軽く揺すっても開かなかった。鍵がかけられているようで、この柵が牢の役割を果たしているのだと気が付いた。牢の外は蠟燭の灯りがほのかに揺れていること以外、別段何もない。見張りの姿も、声すら聞こえない。
     ――状況を把握しなければ。
    (先程まで、自分は何をしていた?どうして、こんなことに?)
     知らない場所に幽閉されているという困惑、そして武器も装備も何もないという焦りが、考えの邪魔をする。肌を刺すような寒さに襲われているはずなのに、嫌な汗が出てくる。
    (確か、自分は暁さんと一緒に近世の日本にタイムワープをして……タイムジャッカーを見つけたから制圧して被疑者を確保して……、そうだ、武器を回収しに屋敷の中へ降りたのだった。……そこまでは覚えているのだが……)
     理人は頭を抱えながら、過去の記憶を辿ってみるが、それ以上思い出すことができず、結局何故自分が今ここにいるのか、理由は全くわからなかった。
    (困った。……暁さんと合流するにも、通信機器がなければ不可能。……だいたい、自分が今どこにいるのかさえわからないのでは、仮に連絡が取れたところで合流しようがない)
     無力感に苛まれ、大きなため息をついてしまう。目の前の木の柵も、本気で蹴とばせば破壊することは可能だろうが、靴も服も無い状態では怪我をする恐れがあるし、ここを突破したところで逃げ切れるかどうかなど未知数なのだ。であれば、今自分にできることはほぼ無いと言っても差し支えないだろう。
    (致し方ない。少し休憩して、今後どのように動けば良いか、作戦を練ることにしよう。もしかしたら、何か情報を得られるかもしれないし)
     理人はそう考え、木の柵から離れ、牢の奥にある壁に寄りかかるべく、足を踏み出した。その瞬間だった。
    「っ!?」
     足元に何か大きなものが転がっていたようで、それに躓き、盛大に転んでしまった。幸い受け身は取れたが、その「何か」は呻き声のようなものを上げ、もぞもぞと動き始めた。
    「す、すみません!大丈夫ですか!?」
     思わず駆け寄り、その大きな影を手探りでさすった。
    「んん……ああ、うん、平気だよ。突然だったから、びっくりしたけど」
     声の主は、何事もなかったかのように、穏やかな声色でそう言った。とてもゆっくりで、まだ寝ているのではないかと理人は思った。その声質と体の大きさから察するに、おそらくは成人男性だろう。
    「本当に申し訳ありません。暗くて足元がよく見えなかったものですから」
    「そうだねえ。仕方ないさ。僕は大丈夫。それより、新入りさんが来ていたなんて、知らなかったな」
    「はあ。自分でもよくわかっていないのですが、気付いたらここにいて」
    「ふふ、そうなんだ。大丈夫、心配しなくても、朝食の時間になったら、ここから出してもらえるよ。ご飯は美味しいし、素敵な音楽も聴けるし、夜だってこうして……ああ、良かったら、一緒の布団に入るかい?」
    「は、はあ……?」
     どこまでもマイペースなその人物の言葉に、理人は思わず閉口した。しかし、寒かったのは確かなので、布団の端の方に入れてもらうことにした。
    「ずいぶんと冷えているね。くっついた方があたたかいよ。もう少し、こちらへおいで」
     指先に触れたその男性の手が、ぐい、と理人を引く。
    「え、ですが」
    「遠慮しないで」
     その人物は、ほら、と布団を手で打った。理人は一瞬躊躇ったが、相手からは殺気のようなものは感じられない。ならば、もう少し近くに寄っても大丈夫だろうか。
     理人は、身をよじってその人物の近くに落ち着いた。人肌であたためられた布団のぬくもりに、思わずほっと息が漏れた。
    「ふふ、これでもう大丈夫だね。僕も、すこし肌寒かったから、これで、もっとあたたかくなりそうだ……」
    「助かりました、ありがとうございます。……ところで、いったいここは、何なのでしょうか?牢屋のように見えるのですが……」
     そう理人が尋ねるも、その人物は既に眠りの中にいた。加えて、どうやら抱き枕のように抱えられてしまったようで、それ以上身動きを取ることはできなかった。
    (見ず知らずの男性と、同じ布団で、このように抱かれて眠るなどと。……暁さんには絶対に知られたくはないな)
     そのようなことを考えながら、理人は深くため息をつき、瞼を閉じた。

     数時間後、聞いていた通り、朝食を知らせる声が牢に鳴り響き、その扉が開かれた。
     なかなか起きない隣の人物をなんとか起き上がらせ、肩を貸しながら案内された先へと向かう。人を支えながら階段を上るのは一苦労であったが、普段のトレーニングの過酷さに比べればなんということはなかった。階段を登りきると、視界が明るくなる。どうやら自分たちがいたのは地下室で、地上に上がったのだと気が付いた。そのころには傍らの人物も自分で立てるくらいには覚醒しており、理人は乱れた自身の衣服を直した。
    (何が起こるかわからない。警戒を怠らないようにしなくては)
     理人は、周囲の気配や物音に集中し、最悪の場合はこの身ひとつで屋敷を抜け出すことも検討していた。しかし、タイムワープガジェットや通信機器が、おそらくはこの屋敷の人間の手にあるであろうことも予想できていたため、それは最後の手段にしようとも考えていた。
    (もし外と連絡が取れるのであれば……せめて昨日見た、火消しに扮した調査員とコンタクトが取れれば、一度自分の時代に帰還することもできるだろうが……)
     そのようなことを考えながら歩みを進めると、一段と高くなった場所に、御簾のようなものがかけられており、その中で一人何者かが腰かけているのが見えた。周囲の人物たちが皆その男に跪いているのを見るに、おそらくここの主なのであろう。
     いったいどんな奴が、自分をこのような目にあわせたのだ。
     理人は苦い表情を浮かべながら、その人物をーー残念ながら顔まではよくわからなかったがーー睨み付けた。
     一瞬、ぴり、とした空気が流れたような気がしたが、それもすぐにかき消された。
    「ふ、ふふふ。思っていた以上だ」
     御簾の内側から男の声が聞こえた。御簾の近くに控えていた部下と思しき人物が、口を開く。
    「いかがですか、チャオ様」
    「ああ。十分だ。俺の宝物に加えるに足る、美人だね」
     チャオと呼ばれた男は、喜色のこもった声でそう言った。その視線は理人には見えないはずなのに、まるで全身を舐め回すように見られているような気がして、ぞわり、と鳥肌が立った。
    「それで、俺の新しい宝物は、名前は何というのかな?ああ、いや、当ててみよう」
     チャオは、うーんと小さく唸ってから、「桔梗。あやめ。それとも、牡丹かな?」と楽しそうに花の名前を挙げていく。
    (女が付けられるような名ではないか……!)
     思わず怒りが湧き上がってくる理人だったが、先程から黙って隣にいた昨夜の男性が、ふっと口を開いた。
    「僕はチャオから、びわという名をもらったよ」
    「びわ?」
     理人は思わず気の抜けた声を上げた。
    「うん、びわ。素敵な名前だよね」
    「そ、そうでしょうか……」
     困惑する理人に、チャオはくつくつと笑う。
    「びわがその名を気に入っているのであれば良かった。さて、君にはどんな名をつけようか。金の髪が美しく、凛としていて……うーん、そうだな……。やまぶき、などはどうだろう?なあ、びわ?」
     チャオは、理人ではなく、その隣のびわにそう問いかけた。びわはふふ、と笑って、「いいんじゃないかな。やまぶき。綺麗な花だよね」と答えた。
    「じゃあ、やまぶきで決まりだ。ようこそやまぶき。今日からここが、君の家だよ」
    「!」
     チャオのその言葉に、理人は弾かれるように顔を上げた。
    「何を勝手に……!自分には、帰る場所が」
    「やまぶき。俺を困らせるんじゃないよ?君はもう、俺の宝物の一つになったんだ。悪いようにはしない。食べ物も、音楽も、服も、欲しいものならいくらでも用意してあげる。それにほら、頼もしい用心棒だって、こんなに沢山……ね?だから……」
     チャオはまるで幼児をあやすようにそう言った。そして、その声色のまま、「逃げられるなどとは、思わないことだね」と吐き捨てた。
    「っ……!」
     理人が周囲を見回すと、刀を持った武士のような者が何人も、自身を取り囲んでいた。部屋の出入り口にも複数名。おそらくは部屋の外にも同じような武士が待機しているのだろう。用心深いものだ。
    (暁さん……、自分はいったい、どうしたら良いのでしょうか)
     隣でのほほんと「よろしくね、やまぶき」と笑っているびわにも目もくれず、理人は俯き、拳を握りしめた。
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