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    hiisekine_amcr

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    暁理の2人が任務で過去に行ったら突如離れ離れになってしまったので暁さんが理人さんを取り戻そうとするお話の続き。今回はチャオ→理人色が強めです。

    ##暁理

    8 籠 謎の浮遊感に襲われていた。
     車に乗っている時のような、あるいは空を飛んでいるような、どこか地に足がつかない感覚。
     夢でも見ているのだろうか、と思ったが、その感覚はやけにリアルで、これは現実なのだと、うすぼんやりとした頭も徐々に理解していく。
     瞼をゆっくりと上に押し上げる。ひどく薄暗い。それになんだか窮屈で息苦しい。
     ここはどこだ?と声を上げようとしたが、それは出来なかった。口は布で結ばれている。それどころか、手足までもが拘束されているようで、身動きが取れなかった。
     いったい、何がどうなっている?
     理人は、こうなるまでの過程を思い出そうと、記憶を辿った。
    (確か、自分はチャオの屋敷の蔵で、びわさんと一緒にいて……)
     チャオが現れて、自分の膝の上で寝始めたと思ったら、自分も一緒に寝てしまって、起きたら賊が出たという話を聞いて。
     その後の記憶が、どこか曖昧だ。
     まるで数日前、初めてあの地下牢で目を覚ました時のようだが、あの時と違うのは、寒さをあまり感じないことだ。手足は動かせないが、厚手の毛布が体を包んでいるのがわかるし、ご丁寧に湯たんぽまで仕込まれている。
    (チャオの仕業なのだろうか)
     誘拐されているにしては、扱いが丁寧だ。いや、手足や口を封じている時点で、丁寧と言って良いのかはわからないが。ただまあ、手足が自由であったならば、理人は間違いなくこの空間から脱出していたであろうし、この拘束はある意味では正解といえよう。
     とりあえず今のこの状況を判断しようと、理人は耳を澄ませた。人の足音のようなものが聞こえる。ざりざりと砂を踏む音。小石が転がる音。そして二人分の人の息遣い。
     間違いない。運ばれている。
     理人はさらに聴覚に集中した。
     風が揺らす木々のざわめき、ざわざわと流れる水の音。
     次第に、足音の質が変わった。石や砂が擦れる音が少なくなり、湿った土を踏む音へ。そして理人の座る空間の角度も変わり、重心が傾く。
    (坂を登っている……いやこの場合は、山だろうか?)
     そう理人が考えていると、突然地面が大きく揺れた。驚きのあまり、声が出てしまった。
    「どうした」
    「悪い、木の根につまづいて……今、中から声がしなかったか?」
     外から男の声が聞こえる。どうやら本当に、運ばれていたらしい。
    「やまぶき様が起きたのかもしれん。早く屋敷までお連れするぞ」
    「ああ」
     男たちはそれ以降、何も話さずに歩みを続けた。やまぶき、と呼ぶということは、間違いなくチャオの手のものだろう。
    (何故このようなことを)
     チャオの考えることはわからない。が、ある程度の予想はつく。彼は理人のことをいたく気に入っているようだった。宝物、と言っていたくらいだ。よほど手放したくないに違いない。だから、先程入ったという賊から守ろうと、屋敷から遠ざけている。そう考えるのが妥当だろう。
    (自分は別に、あの男の所有物ではないのだが)
     少しの苛立ちが、理人の胸中に渦巻く。
     あの余裕の笑みが、馴れ馴れしい態度が、触れる手つきが憎たらしい。ついその感触まで思い出してしまい、理人は体を震わせた。
     元はと言えば、タイムワープガジェットを取り戻すためにあの屋敷にとどまっていたのではなかったか。どう考えても、今は屋敷から離れ、別の場所に運ばれている。このまま行っても、タイムワープガジェットを取り返すチャンスなど、来るはずもない。
     そう考え始めたら、こうしておとなしく運ばれているのもひどく馬鹿らしく思えてきた。なんとかここを脱出できないだろうか。
     理人は、後ろ手に拘束を解こうと、指を彷徨わせた。まずは手足を自由にしなくては始まらない。
     そう思って指先に神経を集中させ、縄に指をかけたその時、ゴトリと衝撃がして地面が揺れ、それから全く動かなくなった。
    (まずい、気付かれたか?)
     理人は咄嗟に目を瞑り、寝たフリをした。すると、瞼の向こうが突然明るくなった。扉が開かれたようだ。
    「やまぶき!」
    「チャオ様、やまぶき様はまだお休みになっておられます」
     焦ったようなチャオの声と、小声で諌める誰かの声が耳に飛び込んでくる。理人は、さも今起きました、というような表情で瞼を上げた。
     どうやら、だいぶ山奥まで運ばれてきたらしい。扉の向こうには、こちらを覗き込むチャオと、その背景には木々に埋もれるようにして山中に聳え立つ二階建ての屋敷があった。朝焼けの色に照らされたそれは、ひどく美しく見えた。
     チャオが嬉しそうな顔でさあ、と手を差し伸べると、理人の手足が拘束されているのに気付いた。
     拘束を解いてくれるかと思いきや、チャオは余裕の笑みで理人を抱き寄せ、そして両手で抱え上げた。思っていたより力があるようで、その体幹は安定している。
    「おはよう、やまぶき。……屋敷に入ったら、全て外してあげるからね」
     チャオはさらに表情を緩め、穏やかな声でそう言った。文字通り手も足も、声すら出ない理人は、なすすべなくチャオに身を委ね、屋敷の中へと運び込まれていった。

     山中の屋敷は、町中の屋敷と違って、いくつも部屋があったり、蔵があったり、広くて立派な庭があったりするようなものではなかった。どちらかというと質素で、調度品も少なく、よく言えば侘び寂びを感じるような空間だ。
    「それにしたって、本当に何も無いね、ここは」
    「そうですね……」
     屋敷の二階の窓から、外を眺める。見えるのは、ただひたすらに群集する木々だけだ。正確に言えば、屋敷の入り口に二人、警備の武士が立っているが。
     屋敷に運び込まれてすぐに、理人はびわと対面した。どうやらびわは先に着いていたらしく、二階の部屋で温かい茶を飲んでいた。チャオに横抱きにされている理人を見て、ふふ、仲良しだね、と言われた時は全力で否定したかったが、生憎口を布で縛られていたので言葉に出来なかったのが残念だった。そうだろう?と笑うチャオには一撃を喰らわせたかったがそれすら出来ず、理人はただ唸ることしかできなかった。それを見たびわはまた笑った。理人は少しびわを憎く思った。
     やっと拘束が解かれたと思った時には、既にだいぶ明るくなり、朝食の時間となっていた。
    「料理人は昼には来るから、朝はこれで我慢してくれるかい?」と出されたのは、中に餡の入った饅頭だった。びわが「高かったんじゃないかい?これ」と言っていたので、おそらく高級品なのだろう。理人のいた時代では子供の小遣いで買える程度の菓子だが、ものの価値というものは時代の移り変わりによって大きく変わるものだ。
     そうしているうちに昼になり、昼食を取らされ、何もしないうちに昼下がりだ。
    「ああ、本当に退屈だ。……屋敷の中を探検してこようか」
     びわはうんざりといった様子で、おもむろに立ち上がった。理人も全く同意見だったので、「それは良いですね」と賛同した。
    「でしょう?じゃあ行ってくるね」
    「え?あ……いってらっしゃい」
     てっきり一緒に行こうと誘われたのだと思った理人は、思わずそのまま硬直した。びわは近くに控えていた二人の警備に声をかけると、そのうち一人と一緒に下へ降りていってしまった。
     いや、別に四六時中一緒にいたいわけではなかったし、明確に誘われていたわけではないのだから、別に良いのだが。むしろ誘われていたのだと思い込んでしまっていたのが少し恥ずかしくて、理人は視線を窓の外に戻した。
    (警備の武士は下に二人、そして、後ろに一人、か。この屋敷の警備は最低限で済ませているようだから、逃げ出すならば今だろうか。……しかし、明るいうちでは、動きが気取られやすい。ならば、行動に移すならば夜か)
     そう剣呑な目で下の警備二人を睨みつけていたら、視線に気付いたのかそのうち一人と目が合ってしまった。曖昧に微笑んで誤魔化すと、警備は嬉しそうににかりと笑った。どうやら、こちらに好意を抱いているらしい。
    (これからお前たちを欺いて脱走しようとしているんだぞ、こっちは)
     少しだけ良心が痛むが、もちろんそんなことはおくびにも出さず、理人はぺこりと小さく会釈を返し、窓に背を向けた。あまりにも暇だし、体も鈍っているし、筋トレでもしようかと床に手をついた時、とつ、とつ、と、階段を登る音が聞こえてきた。びわがもう戻ってきたのだろうか、と思って見ると、現れたのはチャオだった。
    「チャオさん」
    「やまぶき。どうだい?この屋敷は」
    「何もないですね。びわさんは退屈のあまり、屋敷内を散歩しにいったようです」
    「そうか」
     少し困ったように笑ったチャオは、理人の隣に来るとそのまま腰掛けた。まっすぐに見てくる視線から逃れるようにまた窓の景色に目を向けたが、やはり到底面白みのある景色とは言い難い。
     なんだか落ち着かなくて懐に手を入れると、指先が湯たんぽに当たった。とっくにぬるくなってしまっていて、暖房器具としての役割を果たしていない。
    「……湯たんぽを変えてもらってきます」
    「寒いのかい?」
    「ええ、まあ」
     別に耐えられない寒さではない。チャオと二人きりになりたくないだけだが、面倒なので茶を濁す。とにかくここから離れたかった。
     しかし、そうはさせてくれないのが、チャオという男だった。
    「ここに来るといい」
     そう言って、腰に手を回された。ちょうど立ち上がろうとしていたところだったので、バランスを崩し、チャオの胸に肩を寄せるような体勢になってしまった。チャオは、一番上に着ていた厚手の着物で、理人を包み込んだ。
    「こうしていれば、あたたかいだろう」
     そうやって甘い声と表情で語りかけられたら、そこらへんの女性なら皆落ちてしまうのだろう。生憎理人は思い切り眉間にシワを寄せてしまったが。
    「ふっ、ふふ、良い表情だね」
    「どこがですか」
    「いや、かわいいな、と思って」
    「はあ?」
     一瞬どきりとしたが、何のことはない、ただの口説き文句だろうと気づくと、理人はぷいと顔を背けた。チャオの表情が本当に嬉しそうなのは、見ないふりをした。
    「自分は別に、自分の容姿を好ましく思っていませんから」
    「そうなのかい?もったいないな……。俺は、一目見た瞬間に君の虜になってしまったのに」
    「はあ。そうですか」
     相手をするのも面倒だ。やはり今からでも、びわのところに合流しようか。そう思って立ち上がろうと腕に力を入れると、自分を抱えていたチャオの力が強められた。
    「ダメ。どこへ行こうというんだい?」
    「びわさんのところへ。屋敷の中を散歩すると言っていたので」
    「もう少し、ここにいてくれないか。温もりが恋しい季節なんだ」
    「部下の方でも抱えていては?」
     そう言うと、小さく「えぇ……」と困惑する声が耳の後ろから聞こえた。さすがに、誰彼構わず抱ける人間ではなかったか。
     お願い、とチャオに懇願され、さらに視界の端に見える警備の武士が腰の刀をちらつかせ、なんだか面倒になった理人は深くため息をつくと、仕方なく体の力を抜いた。
     これ以上抵抗しないとわかったのか、チャオは嬉しそうにありがとう、と理人を抱く腕の力を強めた。
    (ただの商人のくせに、なんだこの馬鹿力は)
     腕力で言ったら負けていないはずだが、少し不安になった。未来に戻ったら、もっとトレーニングに力を入れよう。理人はそう心に誓った。

    「……やまぶき?」
     穏やかな声にふと目を開けると、目の前にびわの姿があった。薄闇の中に浮かび上がるようなその顔は、火の灯りに照らされて煌々ときらめいていた。
    「ふふ、おはよう」
    「びわ……さん?あれ……」
    「しー、チャオが起きてしまうよ」
     びわにそう言われて横を向くと、眠るチャオの顔があった。
    「自分は……また寝てしまっていたようですね」
     見ると、床に置かれたチャオの手元には帳簿が積まれている。そういえば、意識が途切れる前に、チャオが理人を抱き込みながら帳簿のチェックを始めていたような気がする。どうやら、退屈さに加えて数字をぼそぼそと読み上げるチャオの声が子守唄になって、そのまま寝てしまっていたようだ。
    (なんと不用心な……)
     反省するが、だがまあ、それも今更だろう。
     理人がゆっくりと立ち上がると、チャオは支えを失って床に転がった。理人は小さくため息をつくと、チャオの膝裏と背に手を回した。
    (家主をこんな所に寝かせておくのはさすがに可哀想だろう。風邪をひくかもしれないし)
    「警備さん。チャオさんの寝室はどちらですか?運びます」
    「は、はい。こちらです」
     理人がチャオを軽々と抱え上げているのに面食らった警備は、慌てて理人を先導した。
     チラリと振り返って見たびわは、小さな燭台を手にまた窓辺に寄りかかっていた。理人と目が合うと、小さく燭台を揺らした。あれはいってらっしゃいの合図だろうか。
    (本当にマイペースだな、あの人は……まあいいか)
     狭い廊下を抜け寝室にたどり着き、チャオを寝具の上に下ろす。和紙ごしに小さく揺れる燭台の灯りがチャオの顔を照らす。どこか険しい表情をしていて、安らかな眠りについているとは言い難い。おそらく、先ほどまで冷える窓際でうたた寝をしていたから、体が冷えてしまったのだろう。理人はチャオの着物を整えてやり、上から布団をかける。これで暖かく眠れるはずだ。
     おやすみなさい、と小さく声をかけてその場を離れようとすると、にゅっとチャオの手が伸びてきて、理人の手を掴んだ。
    「わっ!?」
    「やまぶき……」
    「お、起きてたならそう言ってください!急に掴まれては驚きます」
     実際、驚きのあまりとっさに蹴り上げそうになった。すんでのところで踏みとどまったが。
     ごめんね、と呟くチャオの声は不明瞭で、どうやら寝ぼけているようだ。チャオは掴んだ理人の手を頬に引き寄せた。自分の手が冷たいせいか、チャオの体温はやけに温かく感じられた。
    「行か、ないで……俺のところに、いて……?」
    「はあ……?」
     半分夢の中なのだろうか、言葉はどこか辿々しく、目なんてほとんど開いていない。放っておけばすぐに寝落ちてしまうだろう。しかしそのまま放置していくのも気が引けて、理人は掴まれた腕を振り解くことはせず、傍に転がってチャオの胸をトントンと優しく打った。まるで、親が子にするように。
    「ありがとう……」
     チャオは、声にならないほど小さな声でやまぶきに語りかける。
    「いえ。お疲れなんでしょう。今日はもうこのままお休みになっては」
    「ん、やまぶきも……」
    「自分は眠くありませんから。びわさんと雑談でもしています」
    「じゃあ、俺も、ふたりと……」
    「やめておいた方が。すごく眠そうですよ」
    「んん……」
     こうしていると、まるで幼な子のようだ。
     チャオは今にも寝てしまいそうだが、それでも理人の手を離さない。眠たいだろうに、チャオはなおも口を開き続ける。
    「こうしていると……子供の頃を、思い出す」
    「子供の頃?」
    「母さんが、なかなか寝付けない俺に、子守唄を歌ってくれて」
    「へえ……」
     チャオにも子供の頃があったのか、と思ったが、当たり前のことかと気付いた。誰も大人の姿で生まれてくることなどない。
    「優しい親御さんですね」
    「うん。優しくて、美しい人だった……俺が子供の頃に……亡くなってしまったらしいけど」
    「えっ?」
     理人は思わずチャオの顔を見た。チャオは変わらず、理人の手を頬に当てて、目を閉じている。
    「父さんも、母さんも……俺を置いていってしまった。でも今の俺には部下がいるし、やまぶきや、びわもいる……だから、もう、大丈夫……もう、誰にも……」
     チャオは、それを言い切らないうちに眠りに落ちた。最後の方は、何と言っているか聞き取れなかった。
     数秒そのままの体勢でチャオの様子を伺ったが、どうやら完全に寝てしまったらしい。規則的な寝息が聞こえてくる。
     理人はそろりと手を抜き取ると、音を立てないようおもむろに起き上がった。
    (意外な一面を見てしまったな)
     眠たそうにしている姿も新鮮だったし、甘えるところはどこか子供っぽくも感じた。それに、まさか家族の話をされるとは思わなかった。
    (両親、か……。もしかして、亡くなった母親の面影を、自分やびわさんに投影している?……いやまさか。それなら、普通に女性にするか)
     そう考えながら寝室を出ると、扉のすぐ外に警備の武士が二人立っていた。軽くお辞儀をすると、そのうち一人が理人の後ろをついてくる。
     暗い廊下を歩き進むと、見慣れた窓辺に出た。目覚めた時には紫色だった空は、既に黒く染められ星が出ている。
     見ると、小さな燭台の灯りが窓辺に揺れている。どうやらびわがそこにいるらしい。
    「びわさん」
     理人が歩み寄ると、それに気づいたびわが少し体をずらし、場所を開けた。
    「おかえりなさい。遅かったね」
    「チャオさんを寝かしつけていたもので」
    「なるほど」
     燭台の火は、明るいだけでなく、微かにだが暖も取れる。びわは燭台を理人に近づけると、「暖まるといいよ」と微笑んだ。たしかに、夜は昼間よりもさらに冷え込む。理人はありがたく、火に手を寄せた。少しだが、暖まるような気がする。
    「随分とチャオと仲良くなったみたいだね」
    「いえ、別に。仲良くしているわけではありません」
    「そうかな。だいぶ彼に情が移ったように見えるけど」
     理人は何も言い返せなかった。確かに、最初は嫌悪感しか無かったが、今は情が少しも湧いていないと言うと嘘になる。しかし、それを認めるのも癪だった。
    「やまぶきは、このまま、チャオと一緒に暮らすのかい?」
     何の冗談だ、と思ってびわの顔を見ると、びわは笑ってなどはいなかった。理人は思わず俯き、首を横に振った。
    「……自分には、帰る場所があります。それは、ここではない。……簡単には行けないかもしれませんが、必ず、帰らなくてはいけないんです。……必ず」
    「暁さんも、待ってるし?」
    「そっ……!?」
     思わず驚いてびわの目を見ると、びわは少し笑っていた。そういえば、前に地下牢でそのような話をしたような気もする。
    「図星みたいだね。僕もそうだよ。ノヴァが……、僕の大切な人が、待っているから」
     だから、こんなところにはいられないよね、と微笑むびわの目に、燭台の火が映り込む。
    「ねえ、やまぶき。逃げちゃおうか」
     吐息だけのその声は、理人以外の誰にも聞こえない程に小さくて、それでいて、ひどく楽しげだった。
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