ミレニアムで敵艦隊の僅かな空間を掻い潜る。
ハインライン大尉の新兵器とやらを信用すると決めたのは艦長だが、それでも本来避けるべきとされる敵の砲撃に真正面から突っ込むというのはひやりとするもので。
眩い光と共に艦内に強い衝撃が響き渡ったが、無事に作戦通りに敵艦隊を突破することができ、航行し続けるにあたって大きな損傷もなかった。
出航前にもあれこれと操舵席周りの説明と調整を施してくれた彼は噂通りの天才だったのだと心の中で賞賛を贈りながら、ノイマンは次なる指示を待つ。
「敵艦隊回頭中! 超高速ミサイル、多数接近!」
「ディスパール撃て! 艦回頭百八十度、左ドリフト! 相対速度合わせ!」
チャンドラの状況報告の声に次いで、凛として覚悟の決まった艦長の指示が耳に入る。
随分と手荒く無茶な指示だな、と思わなくもないが、今のミレニアムの目的は総裁救出の為に動いている別働隊のために囮となりながら敵を牽制することだ。
しかも今の自分たちはコンパスでもオーブでもない、シグナルロスト中の“海賊”なのだから、少しばかり派手に暴れ回るこその方が海賊の名に相応しいのかもしれない。
初めて操舵する戦艦。知らない操舵桿の形。士官学校の訓練でしか着たことがないパイロットスーツ。隣に座るのは同じ組織であっても交流がない人物たち。
ヘリオポリス以降、アークエンジェルの操舵桿しか握ってこなかったと言っても過言では無いノイマンにとっては慣れない状況下でしかないというのに、何処が心が凪いでいる。それはきっと、耳に入ってくるチャンドラと艦長の声とが、形は違えど操縦桿の重みが、アークエンジェルの操舵席に座っていた時と変わらないからだろう。
エルドアでは組織間の交渉や地理的有利を取られてファウンデーション軍の策略に陥ってしまったが、今回は策略に陥る隙どころか、策略を立てさせる前にこちらが攻め入るスピード勝負だ。
今まで自分たちは普通の戦艦では考えられない無茶な戦いを幾度も生き延びてきた。
艦が変わったとはいえ、艦長と、自分と、チャンドラと、今は遠くで待機しているフラガ大佐、そしてキラがいるのだがら、こちらが負けるはずはない。戦争に絶対は無いと分かっているが、それでも今回ばかりは負ける気にはならないとノイマンは深呼吸をする。
「全モビルスーツ、発進!!」
マリューの号令と同時に、ノイマンは舵を切った。