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    3150_lucky

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    とりあえず続いたやつ。書きたかったこんなん予想してないから売っちゃった三木カナエとブチ切れクラさんが書けたからまぁ満足

    リビングデッド新横2「ええと…どう言った御用でしょうか」
    口火を切ったのは吉田だった。幽霊になっても冷や汗って概念あるんだなと思いながら、三木は心の中で吉田に最大級のエールを送っていた。頑張って吉田さん、あなたが勇者だ。
    固まっているクラージィも吉田に畏敬の念を抱いているようだった。そりゃそう、ドラウルにちゃんと話しかけられるとか凄い。
    「お暇なら遊ばない?」
    「いえあの…お恥ずかしながら現在猫の身体を借りてる状況で、三木さんに至っては幽霊のままなので…」
    「ふむ…でも猫ならそのまま魂が定着させられるし、そこの昼の子も身体があるならレッツリビングデッドできるよ」
    リビングデッド。生気のない人、行きながら死ぬ人、つまりゾンビ。
    「アルミニウスは他人の体を使うのは申し訳ないって言うけど、自分の体が残ってたら問題ないでしょ?」
    ずずいっと詰め寄られてまずもって違う待ってくれどいしようこの人懐こいゴジラさんを。
    「い、いやまぁその」
    「それは本当ですか、大公様」
    三木が何かしら言い逃れようとするより前に、クラージィがドラウルのマントの裾を掴んだ。
    「魂だけとなってもカナエは私の大切な人です。もしこの墓にずっと縛られるなら」
    「ま、待ってくださいクラさん!」
    話がとんでもない方向に行きそうで慌ててクラージィの口を塞ごうとするが、すかすかと通り抜けるだけだ。
    「そういや三木さん土葬でしたよねぇ、私の方が先に幽霊になってたもんですから、隣にでっかい棺桶埋められた時にはびっくりしましたよ」
    僕は焼いちゃったから残った骨しか入ってないんですよねぇ、と吉田が呑気に言うけれども違うそうじゃない。
    「カナエは嫌なのか?私は…私はずっと会いたかった。納得して選んだ別離でも、未練がないなど絵空事を言うつもりは無い。愛した者がこの世を去って、それが悲しくない訳が無いだろう。私が…私がどんな思いで…!」
    クラージィの目が、水晶体の端がさぁっと赤く染る。ああ泣きそうだと思って、けれどこの指じゃ涙を拭ってもやれない。
    親しくなるごとに、思ったよりも頑固で感動屋で、そうしてずっと関わるもの全てに誠実だと知った。知る度に大切になって、そうして随分と酷いことをした。
    どうしたって人間を捨てられなかったからせめて忘れられたくなくて、この別離を惜しん欲しかった。この別れの痛みが薄まるまで、自分のいない世界のクラージィを独占したかった。
    執着したものを失うことが吸血鬼にとって致命傷となることを知っていて、自分のことなどドラウルに頼んで忘れさせるべきだと、傲慢でもそう思っていた。
    三木だって大切だったから、自分のことなど忘れてくれと思ったのに惜しんでしまって、結果見付かってこんなふうに泣かせるくらいなら。
    思いのほか簡単に、泣かせてしまえるほどには執着されていて、それを喜んでしまう浅ましい自分が居る。
    誰だって大切な人に必要だと言われて惜しまれた嬉しいものだろうと言い訳をしながらも、ああもうこんな予定じゃなかったのにと三木は頭を抱える。
    クラージィの訪問が十年に一度くらいになったら、それこそ吉田がそうなったように猫の体を借りて、猫が死ぬまでぼんやりと街を歩いて、そらから猫が死ぬのと一緒に消えようと思っていた。
    吉田に伝えても怒られそうなので伝えていなかった、三木の第二の就活プランだ。いやだってこんな事態を考えてなかった。幽霊になると思わなかったし、さらにゾンビになるかもなんて誰が予想するんだ。
    泣きそうなクラージィと感情の読めないドラウルの目、そして吉田のつぶらな猫の目に見つめられて、三木は降参したように手を挙げた。
    否やはない。人間として死んで、まさか幽霊になるなんて思わなかったし、希死念慮がある訳じゃないから移動できる身体があるなら有難い。それを誰かに望んでもらえているなら尚更だ。けれども。
    「いやぁ、俺死体売っぱらったんで…この棺の下、空なんですよね」

    だってマジでこんなの予想してなかったもんだから。


    「………売った?」
    地獄の底から響くような低音が、もう存在しないはずの三木の鼓膜に届く。幽霊だけど耳で音聞いてんのかな、と思考が逸れたのは逃避だ。
    吉田すら胡乱な目でこちらを見ているが、涙の滲む目は人を射殺しそうな鋭さと怒りを孕んでみきを睨みつけている。
    「待ってください話し合いましょう」
    「ああ是非とも話を聞きたいものだ!死体を売った?!私の愛する人間の!身体を売り飛ばしただと?!」
    「いやほら魂はここにいるので!」
    「結果論だろう!お前がもし幽霊になっていなければ私は空の墓相手に語りかけていた!」
    バンッと三木の横スレスレを物凄い勢いで通り抜け、後ろの墓石を殴りつけたクラージィがぐいと詰め寄る。ので、その分下がった。温度を感じないはずの幽体なのになぜか背中が寒い。
    「死体の売却先は幾つだ?」
    「え…?」
    「臓器としてバラバラに売ったのか?骨は、肉は?!」
    「いやあの…く、クラさん?」
    「取り戻す。もし移植されたなら誠意を持ってその方に、寿命を全うされた時には臓器を返してくれと頼んでやる。もし返して貰えなかったとしてもお前の行き場は全部確認する」
    言いなさい、と睨みつけるクラージィは激怒していた。こんなに怒らせたのはうっかり調整ミスって過労で死にかけて入院した時くらいだ。一日検査入院して退院しようとしたら、そのままクラージィと吉田に捕まってスマホを取り上げられ、吉田とクラージィの家に一ヶ月くらい軟禁された。あとから聞くに「あの人人一ヶ月は休ませないと交感神経優位になって休んだら死ぬようになりますよ」とか言われたかららしい。
    あの時は怖かったな、いや今も怖いが。
    「黙ってないで返事をしろ、三木カナエ!」
    焦れたように詰め寄られる。身体があったら襟首掴まれてるなと思考を脇に逸らしながら、降参しっぱなしの両手を下ろす。
    身体、何に使われたんだろうか。
    「売った先は一つですよ、あの…屍商人のエルダーさんのとこです」
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