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    madorominekoko

    94です。便利モブ三人衆と親吸血鬼が主になります。雑食です。逆、リバ、R、G、パロ、なんでも。ポイピクでは書くのも雑食になる予定です。

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    madorominekoko

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    ミキクラです。
    三木さんが分岐を失敗してる世界です。

    #ミキクラ
    mixicura

    鳥は籠の中で微睡む 目覚めは最悪だった。
     全ての臓腑が毒を流し込まれたかのように熱く痛く、とにかく調子が悪い。腹は減って寒いし、意識が戻らない方がと目覚めて十秒で思ってしまったほどだ。
     息をするだけで一苦労だというのに気絶する事すらできず、ここはどこだろうかと歩きだす。
     足もまともに上がらない、壁に手をつきズリズリと歩くも、歩けども歩けども、天国とも地獄とも判断つかぬ光景が広がっていた。
     夜だというのに昼のように明るく、行き交う人々の服装は奇抜で、建物は奇妙な形の物も多く、地面も何か不思議な素材で覆われている。
     人々がかわしている言葉も耳慣れぬもので、訳がわからず死後の世界はこんな意味不明な世界なのかと目を回す。
     歩いて歩いて、ついに歩けなくなって、人目を避けるように建物と建物の間に身体を横たえた。
     寒い。
     腹が減った。
     痛い、苦しい、辛い。
     ひゅうひゅうと自分の呼吸が浅くなっていくのを感じ、視界が滲み白んでいく。
     あぁ、このまま目を閉じれば次こそ地獄か天国かだと、あがらうか受け入れるか決めかねていれば、半分白くなった視界に黒い靴が映った。

    「         」

     言葉が分からない。
    「       」
     声は淡々としていて、心配しているのか怒っているのかも分からない。
     顔を見れば何か分かるかと、気力をふりしぼり視界を上げていく。
     ズボンに、白い袋、シャツに、どこか疲れたような男の顔。その顔からは表情は読み取れず、無表情にこちらを見下ろしている。
     無表情に見えるのに、なぜか彼は泣きそうな気がして、「私でよければ話を」と言おうかとして、意識が途切れた。


     次の目覚めは、だいぶマシなものであった。
     腹は減って気分は悪いものの、温かなベッドの中で寒さはなかった。
     ――ここはどこだ?
     外ではない。部屋の中だとは分かるが、薄く光っている天井についてる道具や、用途のわからぬ道具がたくさんある場所に見覚えはない。
     身を起こし、衣服があのボロ切れとかしていた布ではなく、白い上質な物に変わっている事に気がつく。
    「        」
     ギッとドアが開く音。
     そこから見知らぬ男が出てきた。
    「……」
     この男は、気絶する寸前に話しかけてきた人物か。
     戸惑いつつも黙して探るような目で相手を見ていれば、男性はベッドの横に座った。
    「            」
    「……」
    「              」
     困ったように眉を寄せる男性に、少し申し訳なさが浮かんでくる。
    「…………言葉がわからないんだ」
     私が呟けば、男性は驚いた顔をしてから、ポケットから手のひら大の板を取りだした。
     男性が指先で板を押せば光って、なにやら板の絵が変わる。
    「          」
     男性が板に向かって何かを話す。
     そして板を私に見せた。
     板には英語が書かれており、それなら読めた。
    “コレは読めますか?”
    「はい」
    “スマートフォンでやりとりしましょう”
    「スマートフォンとは?」
     私が質問すれば、男性は片言の英語と身振り手振りで板の赤い丸を押してから話すように指示する。
     私は頷いてから赤い丸を押し英語で話す。
     すると板に見知らぬ文字が浮かんだ。コレが彼の言語なのだろう。
     男性は文字を見ると、片言の英語で翻訳している板の事だと教えてくれた。
     
    “俺は三木と言います”
    “私はクラージィです”

    “すみません。勝手に部屋に運んで服を着替えさせました。身体も軽く拭きました”
    “ありがとうございます。このように清潔な服まで”
    “腹もすいてるでしょうし、食事でもしながら話しませんか? 自販機で売っている血でよければありますよ?”

    「……血?」
     その文字に顔を上げ、ミキサンの顔を見る。
     ミキサンはあれ? と不思議そうな顔をしてから、“何型がいいとか拘りがありましたか?”と言う。
    「そうではなく……」
     ――血など、吸血鬼でもあるま――
     ハッと思い至り、耳に手を当てる。
     長くなった髪の感触、その下にある耳は、尖っていた。
    「……」
     恐る恐る次に口に手を当てる。親指をゆっくり剣士に当て、その先が尖っているのを確認した。
     座っているのに、ぐらりと周囲が揺れる。

     気がつけばミキサンの顔が近くにあり、焦った顔でベッドに倒れる私を見下ろしていた。
     一瞬、気絶していたのだろう。
    「……すまない」
     起きあがろうとして、ベッドに押し戻された。
    「             」
     ミキサンはまた板を私に見せる。

    “話は寝ながらでもできます。本当はこのまま寝させてあげたいのですが食事だけはとって欲しくて、何か食べられそうですか?”
     何かと言葉を選んでくれるミキサンは優しい。
    “ありがとう。だが私には返せる物がなにもない”
    “俺がやりたくてやってるんでいいですよ”
    “そういうわけにはいかない。それに私は”
     ここから先は彼に伝えるのに勇気がいった。優しくされた相手に拒絶されるのはこたえる。それでも伝えないという選択肢はなかった。

    “教会から破門された身です”

     出て行けと言われるかもしれないと身構えていれば、予想に反してミキサンは不思議そうな顔をした。そして返ってきた言葉は、私にとって予想外のものだった。
    “そうですか”
     すんなり受け入れているというよりは、それがどうしたというような返答に戸惑ってしまう。
     ――ここはおそらく異国。教会の教えが浸透していないのかもしれない。
     ならば彼の反応も納得できる。
     そうだ。ここはどこなのか。それに彼が使う不思議な道具はなんなのか。
     聞かなくてはいけない事が多く、何からどう聞けばいいのかも分からぬ状況で、とりあえず“ここはどこですか?”という質問から入った。

     たくさん話をした。
     スマートフォンで翻訳し、身振り手振り、片言の英語で。
     ここは日本という国で、あれからおそらく二百年ちかく経っている事。
     昔と違い、吸血鬼は滅する対象ではなく、それなりに人間社会に受け入れられている事。特にこの新横浜には吸血鬼が多く暮らすらしい。
     それでもやはりまだまだ壁があるらしく、ミキサンは“慣れるまではここで暮らしてください”と提案してきた。
    “これ以上、世話になれません”と断ったのだが、現代に慣れていない吸血鬼を一人放り出してしまうのは、自分の精神衛生上よくないので、俺の為だと思ってと説得された。
     いつか恩返しをしてもらいますから、この部屋で暮らしてくださいと土下座しそうな勢いで言われては、頷くしかなかった。
     それからミキサンとの暮らしが始まった。私はミキサンにお世話になりっぱなしだ。
     まずミキサンは私を迎え入れて一週間、仕事を休んだ。たまたま休みをとっていたという彼に嘘だろうと問えば、目を離せば塵になってしまいそうな貴方が気になって仕事にならないと開き直り、つきっきりで世話をしてくれた。
     そのおかげもあって、はじめ三日はベッドから起き上がれなかったが、四日目からはふらつくものの立ち上がって十数歩、歩けた。
     血液さえ飲めればすぐに回復するのだろう。
     私でも分かってる事をミキサンは一言も言わなかった。
     人工血液を買ってきてくれ、作り物なんですけどと勧めてくれた。それすら始め飲めなかった私に対して、牛乳で割ったり料理に混ぜたりと試行錯誤してくれた。
     それに身体も綺麗に拭いてくれて、髪も切ってくれた。
     私がテレビに興味を示せば、情報が多すぎるのであまり見せたくはないんですがと前置きしたものの、使い方を丁寧に教えてくれた。子供用の教育番組は面白く、よくそれを見ている。
     ミキサンにとても親切に看病してもらい、一週間後にはまだ痩せ細っているものの、目を離せば塵になる状態からは改善された。
     私を招いてから初めて仕事に行く時など、ミキサンはあれやこれやと心配して、やっぱり今日も休む……と言いだしたので、半ば泣き落としで行ってもらった。
     そうして一ヶ月が過ぎ、私はミキサンにおんぶに抱っこの状態で暮らしていた。
     衣食住全てにおいて頼ってしまっている。
     まず衣。ミキサンのお下がりや、寒がりな私の為に八割引になってて〜、などど下手な嘘をついて買ってきてくれる。
     食についても、血がじゅうぶんにとれていないせいか、すぐに腹がすく私の為に冷蔵庫をレンジで温めればいいだけのタッパーを常にストックしてくれている。
     次に住なのだが、ミキサンの家に居候だけでなく、住むにあたっての書類を関係各所に提出してくれた。
     日本語についても教師をかってでてくれて、今ではスマートフォンなしである程度会話ができるまで上達した。
     何か恩を返したい。
     何かして欲しい事はないかと問えば、「え? なんでもいいんですか? じゃあ次の休み、一日おはようの顔を洗うのから、おやすみのミルクまで俺にお世話させてください」などと言ってくる。
     聞いた私がバカだったと、せめて家事をと思っても、一時間も動き回れば少し横にならないと動けなくなる。
     人工血液もろくに飲めないのが悪いらしく、人間の時のような筋力はまだ戻らないのだ。
     気合いでどうにかならないかと、気力で数時間家事をしてみれば、倒れてしまい、ミキサンにとても心配をかけてしまった。
     二日間仕事を休んで私の側にいるほどに。
     その二日、ミキサンは焦らなくていい、いっそ俺が死ぬまでいてくださいと言った。
     そんなある夜、ミキサンが仕事でいない日に部屋のベルが鳴った。
     呼び鈴がある事は知っていたが、私がきてからこの部屋のチャイムが鳴るのは初めてだ。
     出るべきかどうか。
     ミキサンが、荷物はコンビニや集積所留めにいているから、俺がいない時に鳴っても勧誘かもですし無視してくださいと言っていたのだ。
     無視すればいいのだろうかと悩んでいれば、もう一度、チャイムが鳴り、次は声が聞こえていた。
    「吸血鬼対策課の者です。吸血鬼の方がいられるのは分かっています。開けてください」
     吸血鬼対策課。
     確か行政組織の悪魔祓いだったか。ミキサンの説明にあった。
     ならば詐欺ではないだろうと、私は立ち上がる。ドアを開ければ、マスクのような物で顔の下半分を隠したダンピールと、プラチナブロンドとおそらくつけ髭をした人間が同じ制服を着て立っていた。


    「フトウナアツカイ、デスカ?」
    「はい。貴方は退治人の方から備品として申請され、その申請が通っております。ですが貴方が家から出たのを見た人がおらず、不当な扱いを受けているのでは? という匿名の通報がありまして」
     マスクの、半田と名乗った青年がここに来た事情を説明する。
    「フトウナアツカイ、ソレハナイデス。ミキサン、トテモイイヒト」
    「ではなぜ、外に出なかったのです?」
    「……ワタシ、マトモニ、チヲノメナイ。ナノデ、スグヒンケツニナリマス。タオレマス。デナイ」
     それに備品で申請する事についても事前に説明してもらっている。
     親吸血鬼はわからない、二百年タイムスリップしてきたような吸血鬼、市へ各種手続きの申請を通すのは無理ではないが時間がかかるだろう。
     だが、退治人をやっている自分の備品として申請すればとりあえず新横浜への居住権みたいなものはとれるし、害される事があれば俺の備品にと守る事もできる。
     備品として申請して通った例もある。その退治人のように事務所はかまえていないが、無理ではないはずだ。
     そう説明するミキサンに、ミキサンが楽な方法でお願いしますと返したのを覚えている。
    「本当に、望んでここにいるんじゃな?」
    「ハイ」
     隊長と呼ばれる彼の言葉に頷けば、吸血鬼対策課の二人は帰っていった。



    「フトウナアツカイデス!」

    「え!? 熱かったです!?」
     お湯で濡らして絞ったタオルで身体を拭いてくれていたミキサンが焦る。
    「ジブンデフケルシマス!」
    「いやでも、風呂に入れないほど疲れているんでしょう? 俺にさせてくださいよ」
    「ミキサン、シゴトデツカレテマス」
    「クラさんの世話は別腹です」
     話しながらも、ミキサンはテキパキと私の身体を拭いていく。
    「そういえば疲れたって、また無茶して家事してないですよね?」
    「ムチャシテシゴトスルヒトガ、ブーメラン!」
    「ハハッ。日本語上手になりましたね。はい。拭き終わりました」
     ミキサンは桶にタオルを入れると、それを持って立ち上がる。
    「ツカレタノハ、キュウケツキタイサクカノヒト、キタカラデス」
     ガッ
     バシャ
     ミキサンが桶を落として、派手に水をぶちまける。
     ミキサンは自分の足元を濡らす水を気にすることなく、どこか怯えたように私を見てくる。
    「え。それは……その、クラさん」
    「ワタシガ、ミキサンニ、フトウナアツカイ、サレテナイカ、シラベニクルシマシタ」
     今日あった事を話せば、ミキサンは落ち着きを取り戻す。
     タオルを持ってきて床を拭きながら、「それはこの前の事件と関係してるなぁ。あ、こっからは内緒話で」と話しだした。

     備品として吸血鬼を申請して通った事務所は有名で書物までだしている。
     そうすると真似る奴は出てくるもので、ミキサン以外にも備品として吸血鬼を申請し、通った事務所があった。
     その事務所は吸血鬼を監禁し、虐待した。
     事件は明るみになる前に事務所ごと握り潰されたが、見本となった有名な事務所の退治人の耳に入り、とても落ち込んだのだそうだ。
     それはもう、被害に遭った吸血鬼に謝りにいこうとするほど。
     周囲の人間や吸血鬼の慰めがあって回復したが、次、同じような事件が起きれば立ち直るまでに時間がかかるだろう。

    「そこで、吸血鬼を備品申請した所をあたってるんだと思います。吸血鬼と積極的に仲が悪くなりたいわけでもないですしね。放置という判断はなかったらしいです。それに、これも内緒なんですけど、有名な退治人と吸血鬼対策課の上が身内らしいんですよね」
     床をすっかり拭き終えたミキサンが、ホットミルクを作ってくれる。
     それを受け取り、私はある事を閃いた。
    「ユウメイナタイジニン、ビヒンノキュウケツキト、アクマバライシテル?」
    「え? えぇ。まぁ、そうですね」
    「ワタシ、ミキサンノビヒン! アクマバライガンバルシマス!」
     恩を返せると喜んだが、ミキサンは微妙な顔をする。
    「まず人工血液、一回に全て飲めるようになってからミキね〜」
    「ウ」
     その日のホットミルクはいつもより人工血液の味は薄く、全部飲む事ができた。




    ※※※※※


     私が新横浜に来て約二ヶ月。
     外に出たのは目覚めて彷徨ったあの夜だけだ。
     あの日以外は、全てミキサンの部屋で暮らしている。
     ミキサンがいない時、分厚いカーテンを開けて夜景を見る事はあるが、ベランダには一度も出ていない。
     カーテン越しに外を見ているだけで不安そうに焦り始めるミキサンに申し訳なかったし、それに黙って出るよりミキサンに断ってから出たかった。
     きっとあの不器用な彼は、外に出したくないくせに私が外に出たいと言えば二つ返事で出してくれるのだから。
     本当に不器用だと思う。
     囲い込んで世話をしたいのならもっと上手な方法があるし、もっと強行な手段にもでられるはずだというのに、せいぜいする事といえば、ミルクに入れる人工血液を少なくする事だけ。
     しかも少なくした時はじゃっかん挙動不審になっているので可愛い人である。
     ミキサンが望み、ミキサンの為になるのであれば、このままでもと思わなくはない。
     教会から破門され、道に迷い、死にぞこなった私という存在が誰かの為になるなんて、奇跡なようなものだろう。
     しかも二百年もの時を経て目覚めるなど、ミキサンの為だったのかとすら思うのだから。
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    🌱(め)

    DONE嘘予告軸の🧛‍♂️クラと退治人三木のミキクラ。なんちゃって戦闘描写があります。

    ディンに吸血鬼にされて目覚めたら見知らぬ土地にいたので一人シンヨコを放浪して嘘ディンを探そうとしていたクラさんと出会った退治人兼便利屋の三木の話。捏造妄想幻覚モリモリ。執筆途中で誕生日バレで脳を焼かれたんですが今回の話は清々しい程関係ありませんのでご承知の上でお願いします。
    ※以前書いた嘘ノスクラとは別軸です
    嘘ミキクラ 身を隠すようにして廃ビルの階段を上がる。
     埃を被った廊下の隅で小さく痩せた野良猫が軽い足音で通り過ぎていった。暗がりからなぁう、わぁん、と成猫らしい声がする。親猫と合流したのか。歩を進めると別の野良猫が通路の隅で毛を膨らませて威嚇していた。少し来ていなかったうちにすっかり野良猫の住処になってしまっているようだ。確かに不法侵入は此方の方に違いないので、伝わらないとは分かっていつつも「すみません、お邪魔しますね」と小声で会釈した。猫はそんな事は知らずに走って行った。そんなものだろう。目的の部屋の前に着くと安全靴が床の硝子を踏んでざらついた音を立てる。とっくに来訪は知られているだろうが、ノックを三回。お邪魔します。錆びた鉄扉を開けると耳障りな音がした。油を注して整備したいが三木が勝手にやればまた少し怒った顔をして、それから恐縮するんだろうな。困り顔で辿々しく言葉を探しながら怒る姿が目に浮かぶ。嫌われるのは本意ではないのでやるならバレないようにしないとな。
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