価値夕暮れ時の路地裏。サロムは、フードを被った男に声をかけられた。
「お前が光の戦士か」
「……」
サロムは答えない。長槍を手に持った男を、じっと見つめる。
「おっと、顔も見せずに話しかけるのは失礼か」
男は、そう言いつつフードを脱いだ。現れたのは、褐色の肌をしたエレゼン族の青年だった。
「お前のことは色々と調べさせてもらった。ま、心当たりは幾らでもあるだろ?」
「……そうだね」
サロムは短く答える。
「自覚があって結構。にしても、ははっ、随分あのアウラ男にご執心だな。お前が殺した奴にも同じように大切な人がいるとか、過去があるんだとか、思ったりしないのか」
「思うよ」
サロムは青年の目を見て答えた。
「ずっと思ってる。みんな大切なものがあって、戦わなきゃいけない事情があって、どうしても逃げられなくて戦ってるんだと思う」
「……」
青年は何も言わない。サロムの発言を促すように、少しだけ片眉を動かした。
「でもさ、それで俺がもう辛いです、やめますって思って何もしなくなったとして、俺が死なせてしまったその人達は帰ってこないよね。俺が殺したんだから」
「…………」
「罰受ける必要があると思ったならその時受けるよ。でもそれは今じゃない。それだけだよ」
「…………」
青年は答えない。両者の間に、長い沈黙が訪れる。それを打ち切ったのは、青年の方だった。
「……はあ〜〜〜……」
青年は深く溜息をついた。そして構えていた長槍を背中に戻す。
「どうしたの」
サロムが武器を構えたまま尋ねると、青年は手をひらひらと振った。
「うん、お前と戦う気なくなっちゃったわ。色々背負って生きるのにすげえやる気あんねお前」
青年はうんうん、と一人で頷いた。
「あとついでに言うと、絶対に、万が一にも、勝ち目がない。何故なら俺はそんなに強くないから。槍に付けてきた猛毒も、お前に傷一つ付けられず無駄に終わる気がしてならない、いや、確実にそうなる」
自信たっぷりに言い放つ青年に、サロムも気を抜かれる。
「ええ……そ、そっかあ……」
「俺は頭脳労働向きなんだよ。だから、何に、誰に付けば得かくらいはすぐわかる。今日も殺しに来たっていうよりまあ、お値段を確かめに来たんだが……確かに価値はあったよ」
サロムが武器を収めたのを確認し、青年は手を差し出した。
「俺の名前はガエル。今後会うことがあったら、その時はよろしくな」