初花目の前に死体が一つ。
その日、ハイランド王国の皇子であるルカ・ブライトは、初めて人を殺めた。
振るった剣先がまず人の肌を喰み、そのまま筋張った肉を抉る。内部に秘められた幾つかの臓物を断ち、続いてどこかしらの骨を粉砕する。数刻前まで生きていたその体は大きく撓み、後は絶えて動かなくなる。
それはルカが想像していたよりも実に単純で、退屈なものだった。
「つまらぬな……」
ルカは苛立ち、王家に伝わるその剣を乱暴に振った。草葉に赤い血液が飛び散り、銀の刀身は月光に似た輝きを取り戻す。
「これでは、我が身に燻る怒りへの慰めにもならぬ」
そう呟く間に、言葉の形にならない雄叫びを上げながら、槍を持った兵士がルカめがけて突進してくる。
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