冬の蛍星芒祭の季節。
街には白い雪が降り、赤い実をつけた柊には金色の鈴が括り付けられて、どこもかしこも楽しげな雰囲気に満ちている。
サロムとルカは、その中を二人連れ立って歩いていた。
「やっぱりこの時期って楽しくなるよね」
「ああ」
浮かれた色の装飾に照らされて、サロムの金髪がきらきらと光る。サロムの言葉に同意を示しながらも、ルカはそれを見て、思わず口にした。
「ただ……俺は星明かりより、蛍の……」
「蛍?」
雪景色には似つかわしくない言葉に、サロムが不思議そうな顔でルカを見上げる。
自分は何故そんなことを口走ったのか。自分でも理解できず、ルカはかぶりを振った。
「いや、なんでもない」
「見たことはないけど……冬の蛍かあ」
「…………」
──炎節に飛びたつはずが、雪の中に目覚めてしまい、もう長くは生きられない、哀れな虫。
弱々しく仄かな光が、脆い羽を伝って外界に滴り落ちていく。
奪うほどの価値もない命。宿星に追い立てられ、生を終えんと冷えていく己の指先が、その一寸ほどの体を認めて、労るように寒空へと放つ。
「あっ!」
「おっ……と」
と、ルカの意識はそこで遮られた。
走っていた子供が、サロムにぶつかってしまったらしい。
「ご、ごめんなさい!」
慌てて謝る子供に、サロムは優しく微笑みかけた。
「大丈夫だよ。ケガはない?」
「うん」
「そっか。良かった。雪降ってるから、転ばないように気を付けて帰ってね」
「はい」
素直に答え、その場から歩き去る子供の背中を見守りながら、サロムが言う。
「プレゼント楽しみなんだね」
「ああ……」
「子供たちみんな、幸せに過ごせてるといいなあ」
「……そうだな」
ルカは心の奥底にあるものから、目の前にあるものに視線を移した。
サロムが振り返って笑う。
今の俺にはこいつがいて、こいつがいれば俺は俺でいられる。それだけで充分だ。
「……そうだルカ、今年はお酒三樽だったけど、来年のプレゼント何がいい?」
「だからこの間も言ったろう。もうそんな年齢じゃないだろうが」
「えーっ、良い子のルカくんにプレゼント渡したい!欲しいもの教えてくれないとヤダーッ!」
「どっちがガキの立場なんだ!そもそも年齢そう変わらんだろう!むしろお前が下だ!」
ルカはくるりと踵を返し、さくさくと音を立てながら積もった銀雪の上を歩いてゆく。
──傷付いた孤独な子供は、あの日雪の中で眠りについたのだ。
頭に浮かんだ言葉と、記憶にない情景をそっと拭い去りながら、サロムはルカの背中を追った。