作業進捗天使のたまご
そのシュートフォームを見たとき、俺には世界が止まってしまったかのように全てが見えた。赤いビブスを来た男の足がサッカーボールの中心に触れるその一瞬。その一瞬で後ろに振り返り、走り出す。自陣のゴールサイドに向かって俺は走り出す。
パーン。耳心地が良い破裂音にも似た音が空を飛んだ。あと数秒後にはゴールネットにシュートされるであろうそれを、フィールドに立つ選手たちは鈍い音を立て地面に落ちることを祈り、ただただその行く末を見守るがごとく突っ立ている。
遅い、全てが遅い。これじゃ…勝てない。
自陣はスカスカだ。前面に出た選手は団子状態になって列を整えようとはしない。協調性を求めた結果、柔軟性がないという馬鹿げた話を今は考えたくはなかった。ただ試合に勝つ。その衝動だけで体を必死に動かした。風を切るように、意識が飛ぶまで、全力でフィールドを駆け巡った。
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