ふたなり尾のヴァシ尾@初めてのえっち「…いいのか?」
「はっ、今更…、どうせ逃げるんだろ」
「逃げなどしない」
ヴァシリはいかめしい顔のまま尾形の腰を撫で上げた。服の裾から入って来る手。慣れていない人の手の感触に思わず肩が小さく揺れた。
「怖いか」
「怖くなんかねぇって言ってる」
大きな手が探るようにゆっくりと白い肌を滑って行く。そのまま抱き上げるように尾形の身体をベッドに横たえると緊張に引き結んだ唇に自分のそれを重ねた。最初は啄むような軽い口付けを何度か繰り返し、それから深く唇を合わせて行く。
濃厚な口付け。絡み合う舌。熱い吐息を隙間から零して互いの口腔を貪る。ヴァシリは尾形を怯えさせないようにゆっくりと服を脱がせた。肌を撫でる冷えた空気。その温度差に尾形は小さく身じろぎをする。
「…あまり、見るな」
「美しいと思って」
電灯の下に晒された白い肢体は眩しいまでに清らかだ。この肌が穢されかけたのかと思うとヴァシリは心底腹が立った。
この、美しい身体を大事にしたい。
「私の大事なものだ。しっかり見ておきたい」
「はは、だから趣味悪いって…」
口調こそ強気だがその声は何処か頼りない。精一杯の虚勢の裏に恥じらいの素振りを隠して、尾形はヴァシリの頬を撫でた。
「抱けるもんなら、抱いてみろよ」
挑戦的な物言いをして見せる尾形。しかしその実それは本意ではないのは明らかだ。見え隠れする畏れはどうしたって隠しきれない。隠しきれていると思っているのは尾形だけ。しかもそれが気付かれていないと思っているであろうところが、またヴァシリにとっては何とも愛おしかった。
「オガタを、私だけのものにしたい」
もう一度口付けを交わして、すっきりとした首筋に唇を滑らせた。前歯が甘噛みすると甘い吐息が微かに漏れる。鎖骨からなだらかな胸へと、唇の膚で確認するように喰んで行く。胸の突起を舌先で転がすように舐めると、色付く紅点がぷっくりと膨らんでしこりを持つ。
「ん…っ」
尾形は小さな吐息を漏らして、まるで耐えるかのように目をギュッと閉じて自らの手の甲を噛んでいた。
「ダメだ、手を…傷がつく」
その手をそっと外す。狼狽える気配が濃く浮かんだのを制する。
「…っ、いい、から」
「ダメだ」
「……、…声、が」
恥をしのんだかのように小さく言う尾形。目線をヴァシリと合わせないように逸らしていた。そんな尾形の手の甲にヴァシリは口付ける。
「聞かせろ」
尾形が目尻を赤く染めて唇を噛む。
「…うるせぇ、…そんな事よりお前もいい加減に、脱げ」
まだ着衣したままのヴァシリに向かって不機嫌そうに言った。自分だけが肌を晒している事に羞恥を感じたのか論点をずらしたのか、尾形は正に機嫌の悪い猫さながらの表情で目の前の男を見上げる。早く、と言わんばかりに裾を引く手。ヴァシリは言われるがまま服を脱いだ。色素の薄い体毛を纏ったダビデの彫刻のような肉体が顕になる。そんな姿を視界に捉えた尾形は目を細め、それからプイと横を向く。
それ以上何か言葉を発されない事に、尾形の不満はないのだろうと受け取り、ヴァシリは背けてしまった尾形の顔を見つめたままなめらかな肌を弄る。触れる度に荒くなる呼吸。キメの細やかな肌は何処を触れてもビロードのような手触りでしっとりと手のひらに馴染んだ。そして、中心に触れる。尾形の身体がビクリと大きく震えた。
「…大丈夫か」
返事はない。ただ控えめに返された頷きにヴァシリの手が動く。しっかりと機能を持っているそこは刺激に透明な蜜を浮かばせて感度を得ている事を示していた。
押し殺された声が漏れる。淑やかさを秘めて、同時に淫猥さを露呈して溢れる声。目の前の現実から目を逸らすように向かれた顔はそのままで、恥じらう様を見せる。その様子が何ともいじましくヴァシリの胸に愛しさが込み上げて来る。何度か汲むと、他人の手に触れられる事に慣れていない身体は呆気なく達した。
荒い息を吐いて吐精の余韻に脱力する尾形の顔に何度も唇を落とし、息が整うのを待ってから指先で秘所に触れる。あからさまに動揺する尾形。
「…、待て…」
「怖いか?」
「怖く、なんか」
強がりだ。フッとあらぬ方向に逸らした目の、長いまつ毛が震えていた。それでも張る虚勢を崩そうとしないところが実に尾形らしかった。
「怖かったらやめるが」
「…やめられんのかよ…」
尾形がヴァシリの方に向き直る。まるで喧嘩を売るような声。身体を晒し、抱かれる事に肚を決めた尾形にとっては途中でやめるというのは実に不本意だ。そして、ヴァシリにとっても尾形の言う事は極めて尤もな事だった。ここまで来てやめられるか。しかし怖がる尾形を無理に組み敷く事はヴァシリにとって本意ではない。そんな彼を挑発するように尾形の手がヴァシリの陰茎に触れる。
「…こんなになってるくせに」
痛い程に滾った陰茎は血管を浮き立たせてドクドクと脈打っていた。とはいえ手に余るこの大きさのものを尾形が受け入れられるかどうかは些か疑問が残る。
「だが…」
おずおず、とも言えるような遠慮がちな声に、尾形はまた強がってみせた。
「はっ、こんな立派なもん持ってて飾りかよ」
「…オガタ」
「…何だよ」
「ここで、した事は」
「……ねぇよ…」
消え入りそうな声。
「指は?」
「………ねぇよ」
バツが悪そうな表情を浮かべて吐き捨てるように言った。
指すらも入れた事がないのならキツかろう。しかし尾形は逃さないとばかりヴァシリにしがみつく。
「…しろよ」
その一言を発するのにどれだけの決心を要したのかは安易に知れた。いくら強がってはいても拭い去れない恐怖心があるのは間違いないだろう。それでもヴァシリは尾形を自分のものにしたかったし、尾形もそれを望んでいた。
何度目か分からない口付けを交わしながら陰核を弄ると蜜口からとろりと溢れるものがあった。秘部に指を押し込む。濡れそぼつそこは簡単に指を飲み込み、熱い柔肉が侵入した異物を締め付けた。
中は狭くきつい。それでも指を動かしているうちにこわばりが解ける。せめて痛みが軽くなるようにと指を増やして慣らして行く。使った事のない器官とはいえ一応の感度は得られているのか、尾形は声を押し殺しながらも吐く息に甘いものを混じわせていた。
どれくらいそうしていたのだろう。
「もう、…いい、から」
尾形が頬を上気させヴァシリの耳元で囁いた。いつもよりも湿度の高い声。甘えた響きのそれはヴァシリの下腹をより一層重くさせた。堪らなくなって足を割り開き先端を当てる。
「…あ、…ゴム…」
思い出したかのようにポツリと尾形が呟く。
「あ…」
そうだ、生理まである尾形の女性器にはしっかりとした女としての機能が備わっている。避妊具なしで行為に至るのは妊娠の可能性があった。ヴァシリとしてはそれはそれで一向に構わなかったが、尾形はそれを良しとしないだろう。考えあぐねてそのまま動きを止めてしまったヴァシリに、尾形は小さく笑みを投げた。
「いや、…いい」
「良くは、ないだろう」
「構わん、…ただ、中には出さないで、くれ」
「だが…」
「いい、万が一の事があってもお前に迷惑かけやしねぇよ」
「万が一?子供が出来るという事か?」
「お前に迷惑はかけない」
「何を言っている」
迷惑?迷惑とは何を言っているのだ。
ヴァシリは尾形の言っている意味が分からず首を傾げた。
「子供が出来たら私とオガタの子だろう、可愛いに違いない」
その言葉に尾形が心底驚いた表情を見せる。
「は…?本気で言ってるのか?」
「私はオガタに関する事は全て本気だが」
嘘でも冗談でもなく、真っ直ぐな目を向けて言うヴァシリに、尾形は赤い顔のままため息をついた。精悍な顔立ちのこの男が、その相貌と同じように歪みのない思考を持っている事は重々理解していた。ならば、これ以上問答を続けても無駄だろう。
「…とにかく、中には出さないでくれ」
「分かった」
当てた先端をゆっくりと押し込む。ぐちゅ…、と水音を立てて埋もれて行く雄。
「っ、ぃ…っ…」
「…痛いか?」
「大丈、夫」
中は指を入れた時よりも狭く感じ、そして熱かった。すぐにでも全て埋め込みたいのを堪えてゆっくりと腰を進めて行く。尾形の身体が酷く緊張していた。
「…オガタ、そんなに緊張しないでくれ。ゆっくり息を吐いて」
「別に、っ、…緊張、なん、か…っ」
尾形がそう強がってみたところで、緊張しているのは明らかだ。初めて抱かれる身体にヴァシリのもの大きく、負担が大きかった。こわばった身体の力はそう簡単には抜けないのに、尾形は気丈な姿勢を崩さない。ヴァシリは繰り返し頬に首にと唇を落としながらじりじりと腰を進める。
「んあ…っ」
半分程埋めたところで圧迫感に尾形の身体が仰け反った。そのまま無意識に逃げる腰を掴んで雄を押し込む。鋭い痛みが尾形の下肢を貫き、白い喉から「あ、」と短い悲鳴が上がった。
熱が、全て尾形の胎内に収まっていた。
「ぁ…、あぁ……」
力の入る腹筋と連動して内部が雄を締め付ける。きつい締め付けにヴァシリのこめかみがジンジンと痛んだが、それ以上に受け入れている尾形の身体が心配だった。
「…痛くないか?」
「くる、し…」
「抜く…か?」
ここでやめるのは並大抵の精神力ではない。しかし尾形に大きな負担を強いたくないヴァシリは抱く身体を気遣い己の身を引こうとした。だが、尾形の手がそれを拒んだ。
「やめ、なくて…いい」
逞しい二の腕に爪を立てて縋る尾形。目の縁に薄っすらと涙を溜めて見上げるその顔は胸が苦しくなるくらい健気に見えた。
「抱けよ…、ちゃん、と…」
両足を腰に絡み付かせ全身でヴァシリに抱き付く。甘く切ない吐息。肌と肌。身体の深部まで繋がる熱。その温度にヴァシリは目眩すら覚えた。
「…ダメだオガタ。…我慢が、利かなくなる」
「好きにして、いいって…っ」
苦しげな声。その強がりの下に隠れているものに愛おしさが溢れて来る。
抱いて、抱いて、抱いて、ただひたすらに抱いて自分だけのものにしたい。
「…加減が、出来ないかもしれないが」
「だから、…好きにしろ、って…」
頬を染め、涙を溜めた目で不敵な笑みを浮かべて、迫力など微塵もないのに強がる尾形が何処までも愛おしかった。青い瞳の奥にギン、と灼熱の炎が上がる。
「ははぁ…、いい顔、しやがって」
苦しいくせに、妙に楽しげに尾形が笑う。しかし次の瞬間にはその余裕も欠片すら失った。
「ひぁっ!!」
ヴァシリが抽送を始める。苛烈とも言える動きに逃げる腰を掴まれてぶつかる肉と肉。結合部から発される重く湿った音とぶつかり合う肉の音が尾形の耳を掠めて行く。
「あっ、ぁあっ!!んあっ!!んん…っ!!」
奥深くまで抉られる胎内。痛みと圧迫感しか感じなかったそれは、やがて感じた事のない悦を呼び、初めての快楽を尾形に感じさせた。
ゴリゴリと中を満たす雄が、ひとつの性だけでなく同時に持つもうひとつの性までも揺さぶって快感を呼ぶ。タラタラとあさましげに蜜を垂らす陰茎。頭の先から爪先まで痺れるような快感をさざなんで尾形の頭を霞ませる。
「んぁっ、ふっ、ぅあ…っぁ、ぁんっ!!」
言葉もまともに発せない。この身体がこんな風に、こんな感度を得られるなど思っても見なかった尾形は、ただ成す術もなく広い背中に爪を立てるだけ。
指先は脊の膚に食い込み圧と共に痛みを伝えて来る。しかしそれがまたこの手に尾形を抱いているのだという実感にも繋がり、ヴァシリは全身で尾形の存在を感じた。
「ぅ、ふぁ…っ!ぁ、あ!…んっ、ん…っっ」
濡れた唇からひっきりなしに溢れる甘い声。潤む柔肉は初々しさのままきつく雄を締め上げる。睦み合いにひとつのものと融合する身体。縋る腕に絡む足。薄い水の膜を張らせた黒い瞳は切なげに、それでいて甘く媚びた色を浮き立たせて自らを抱く男の顔をじっと見る。そしてそれ以上に熱い眼差しを向ける青い双眸。それしか見えぬとばかりに真っ直ぐに濡れ羽の珠玉を見つめていた。
激しくなる抽送。その動きに白い肢体が跳ね、弓形に反る。喉の奥からか細い悲鳴を上げて身体を大きく痙攣させると中心から透明な飛沫を迸らせた。小刻みな震えを繰り返す尾形を抱き締め、ヴァシリは思い切り腰を押し付けるとその最奥に熱を放った。