ゴール「結婚のこと、ゴールイン、て言ったりするじゃないですか」
だいぶ前に出席した友達の結婚式の、引き出物でもらったギフトカタログをめくりながら旬くんが言う。
「あー。うん、ゴールでありスタート、みたいな」
どんな話に発展するのかな、と思いながら適当に相槌をうつ。
「そう! それなんですよ冬樹さん! ゴールでありスタートでもある!」
旬くんはたまに発想が突飛である。カタログを放り出し、得意のあのにんまりした笑顔で俺に詰め寄る。
「何か思い当たることありません?」
「そんなに俺にとんちの利きを求めないでよ、なんの話?」
「……とんち、って何ですか?」
逆に質問されてしまう。一休さん見たことないの、と口から出そうになって、ないなと思い直して飲み込む。
「それは後で検索して。で、何の話だっけ?」
とりあえず話をもとに戻す。脱線しがちな旬くんの話を軌道修正するのにも最近は慣れてきた。
「そうそう。ゴールでありスタート、これって冬樹さんみたいじゃないですか」
「どういう意味……?」
だからとんちの利きを求めるな、と。
「この間誕生日の話したときに言ってたじゃないですか、死んで蘇ったって」
聖人か何かみたいになっているけれど、言わんとしていることはわかった。
「あ……あの、売れないバラードの話ね……」
「あはは、そうですそうです!」
自分でも雰囲気に流されやすい方だと思っているので、今更あの時流されて飲み込まれた雰囲気の中で出たクサい言葉のチョイスを持ち出されると顔が熱くなる。
「つまり、冬樹さんは俺あって新しい人生が始まったって事でしょう?」
旬くんの顔はまたあのいやらしいにんまり顔だ。話の着地点がわかってきた。
「それって結…」
そこで俺は人差し指で旬くんの口を塞ぐ。「…婚したも同然じゃないですか!?」と続きそうな気がしたからだ。
「そ、そういう大事っぽいやつはさ……なんかもっと、別の機会に取っておこうよ……」
咄嗟に制止したので、素直にその訳を口にするしかなかった。
プロポーズ、と言ったら夢を見過ぎなのかもしれないし、そんなのなくても多分この先の人生もふたりで居る気がする。馬鹿なことに固執した、とまた恥ずかしくなる。
「そうですね、じゃあ、今回のゴールはまたあらためて……ってことで」
旬くんはそう言うと、ごく自然に唇を重ねてくる。
こんな歳になって、こんなに初々しく人を好きになるなんて思ってもみなかった。君と居ると新しいスタートが沢山ある気がする。きっとゴールも全部一緒に迎えるのだろう。