お菓子で終わらせたい書記官と悪戯したい筆頭 「ふむ…ここは『Trick or Trick』と宣言するべきかな?」
「旦那、冗談は仮面だけにしとこうぜ?」
貴族風のタキシードに漆黒のマントを羽織った姿はまさしく伝説の吸血鬼。
金糸の髪がサラサラと風に揺られ湖面を思わせる碧い瞳、一枚の絵画のごとく完成された美貌の男に、レクターは、どこからともなく袋に包まれた飴玉を取り出しその手に乗せた。
……いや、乗せようとした。が、気づけば飴を持った方の手首をつかまれ、軽く引き寄せられる。そして、そのまま男の胸元に収まる……事もなく、レクターは空いた手でトンと男の胸を叩き、その反動を利用してクルリと回転するように身を躱した。
掴まれている手に収まっていたはずの飴は、いつのまにか空いたその手にあり、マジシャンのような早業で、そのまま男の胸ポケットにねじ込もうとするが、男は手首から掌へと撫でるような仕草でその動きを受け流し、結果としてレクターはもう一回転して、男の数歩先で立ち止まった。
まるでワルツでも踊っているかのような姿は艶やかで、見ていた通行人達が拍手をしたりおひねりを投げたりしている中、二人の男は笑顔のまま向かい合っている。飛び交うおひねりを受け取ったり、躱したりしてるしながらも、攻防は続いていて、大変よい見世物だ。
「……アイツ等、付き合ってないんだよな??」
「そー思ってるのはレっくんだけだと思うよ~?」
とりあえず手に持った籠に菓子ではなく、飛び交うミラを受けながら、呟くスウィンに、眠たそうなナーディアの声が答えた。