ゼムリア奇譚ネタ心霊事件に巻き込まれるリィン&ロイド
ギシ…と音をたてて太い縄が軋み、それに繋がる男の身体が揺れる。完全に生命活動を停止しているはずのソレは、しかし、空気を切り裂くような絶叫を上げた。
「彼がこの屋敷で自殺したという百年前の貴族か……」
「恰好からしてそうみたいだな。けど、問題はそこじゃない」
ロイドの言葉にリィンはわかっている。と応え、刀を抜いた。
「今の俺ならば…魂だって斬ってみせる!!」
「いや!そうじゃなくって!!リィンはすぐに刀で問題を解決しない!!」
え??って不思議そうに小首を傾げるリィンにロイドが続けて言う
「そうじゃなくって、あの首をみてくれ。縄目のつきかたがおかしい、つまり…」
「つまり…?」
「彼は自殺じゃなく、他殺だ。百年前では誤魔化せただろうけど、今なら調べれば真犯人を……」
「いや!?君も大概に職業病が出てるぞロイド!?!?」
そもそも、依頼をしてきたのはクロスベルの市民ではあるが、物件は帝国にある私有地だし、被害者だって帝国貴族だ。クロスベルの警察に捜査権は無い。
「く……目の前に証拠があるっていうのに…」
口惜しそうに嘆くロイドの肩にリィンがそっと手を置いた。
「ロイド…幽霊は物証にならないし、時代は百年前だ…犯人も死んでいると思うんだ……」
残念だけど…と目を伏せるリィンに、ロイドもそうだよな…と、思考を切り替える。
「そうだな……今は出来る事をする……まずは彼の話を……」
「ああ。まず、彼には下りてきてもらおう。物理的に。縄を切ればいけると思うんだ」
「え!?もう少し穏便に……」
と続けようとしたロイドの声にかぶさるように、男の咆哮が響き渡る。
「ほら。まずは正気にもどさないと……」
「……みたいだな……」
仕方ない。とため息をつき、トンファーを構えたロイドを見て、リィンも改めて刀を構えた。
その後、断末魔のような絶叫とともに屋敷を包む瘴気は晴れ、以降、怪異は収まったとか。
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書記官の場合
「レクター君、それは何かな?」
貴族でもなく、ただのルーファスとなった黒衣の男は傍らに立つ赤毛の青年に尋ねた。
「あぁ、なんかそこで拾って??」
そういう青年の背には半透明の少女がしがみつくように被さっており、ずっと彼の耳元で何かを呟いている。
「元の場所に捨ててきたまえ」
「いや、それが見事な惨殺事件現場で、今戻るのは無理かなって」
ルーファスは優美な眉をしかめる。
「……つまり、ソレはその事件の被害者だと?」
「いや、どっちかていうと加害者?どっかで置いてきたら、今度はそこでまた事件が起こるんだよなぁ……」
明日のご飯は魚なんだよなぁ…程度の口調で告げられた割と深刻な事実に、ルーファスの眉に間に深い皺が刻まれた。
「……ちなみにソレは何か要望でも言っているのか?」
「いんや?死ねとか何で生きてるのとか、恨み言のオンパレードだな。死ぬと低下するのかねぇ…語彙力」
不思議そうに零れた言葉にルーファスは頭が痛むかのように片手を添えてこめかみを揉む。
「……それで、私にどうしろと?」
「旦那ならそういってくれると思ったよ」
へらり。と、気の抜けた笑顔を向ける男の肩口に、苛立ちをぶつけるかのように、ルーファスが奇剣を振るった。