「困りましたね。午後は100%晴れの予報だったのですけど」
雨雲の立ち込める空を見上げながらソーラーマンは呟いた。休暇中に街歩きを楽しんでいたソーラーマンとポンプマンは、急な雨に足止めを食らい、今は適当な店の軒先で雨をしのいでいる。
「オレは雨天でも問題なく活動できるから、雨の中を歩こうともいっこうに平気なのだが。お前はそうはいかないからな」
ポンプマンはそう云ってソーラーマンを見下ろした。ソーラーマンの頭上の疑似太陽生成装置は水気に極端に弱く、雨に濡れようものならたちまち故障してしまうのだ。
ご迷惑おかけします、と詫びるソーラーマンに、ポンプマンは気にするな、と簡潔に返した。
「さて、どうしましょうね。雨が止む気配も見えませんし」「この様子では傘を借りようにも期待薄だな。まあ、少し待ってみればいいだろう」
二人は空模様を観察しつつ雑談を始めた。話題は主に先程立ち寄った雑貨屋での出来事である。
「ところで、あの店にあった『オタマジャクシ』という商品は何でしょう?」
「さあな。少なくとも俺は見たことがない。……ただ、店主の説明を聞く限りだと、蛙や魚の形をした玩具らしいぞ」
「へえ! それは興味深いですね!」
目を輝かせて身を乗り出すソーラーマン。そんな彼の反応を見て、ポンプマンが苦笑を浮かべる。
「買うのか? お前のことだから、そういう物には興味がないと思っていたのだが」
「いえ、私は遠慮しておきますよ。今月は既に予算を使い切ってしまいまして……」
残念です、と肩を落とすソーラーマン。その姿を見て、ポンプマンはふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、今日は給料日だったか」
「はい。しかし、財布の中にはあと千円ちょっとしか残っていません」
ソーラーマンがしょんぼりと項垂れる。彼は現在、給金の大半を食費として浪費している状態であり、懐事情は極めて厳しい状況にあるのだ。
「……よし。俺が代わりに買ってきてやる」
ポンプマンはしばらく思案した後、そう口にした。
「本当ですか!?︎ ありがとうございます、ポンプマン!!」
途端に顔を明るくさせるソーラーマン。そんな彼に向かってポンプマンは落ち着け、と片手を突き出し制止すると、そのまま言葉を続けた。
「ただし、一つ条件がある」
「何でしょうか?」
「金を貸せとは言わん。その代わり――」
ポンプマンはそこで一旦言葉を区切り、一呼吸置いてから再び口を開く。
「明日からしばらくの間、お前の家に泊めてくれないか」
***
翌日の朝、私服姿のポンプマンが家を訪ねてきた。
「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」
玄関に現れたポンプマンを出迎えた私は、彼に笑顔で挨拶をする。
「ああ。おかげでよく寝られたよ」
それを聞いて安心しました、と返す私の横を通り過ぎ、ポンプマンは居間へと歩いていく。そしてソファの上に腰掛けると、早速だが、と話を切り出してきた。
「今日の予定を教えてくれないか」
「今日はいつも通りパトロールを行うつもりですが」
「その後は?」
「特に用事はありませんね」
「ふむ……」
それだけ聞くと、ポンプマンはおもむろに立ち上がって部屋の中を歩き回り始めた。一体何をするつもりなのか、と首を傾げる私の前で、彼は窓の前に立つと、カーテンを引き開ける。
瞬間、室内に差し込んできた陽光を浴びて、思わず目が眩んだ。手で庇を作りながら顔を上げると、そこには澄み渡った青空が広がっている。
「いい天気だな」
ポンプマンがぽつりと呟く。確かに、絶好の外出日よりと言えた。
「せっかくの休みなのに、外に出ないのは勿体無い。どこか出かけようじゃないか」
「どこか、と言われても困りますね。この街の地理には疎いものですから。どこに行くのが良いのかさっぱりわかりません」
「ならば案内しよう」
「良いのですか?」
「構わない。むしろ、それが目的なのだからな」
ポンプマンはそう云ってニヤリと笑う。
「さあ、支度をしてこい。出発はそれからだ」
「承知致しました」私は返事と共に深く頭を下げた。
「お待たせいたしました」
数分後、準備を終えた私が部屋から出てくると、既にポンプマンは家の外で待機していた。
「では行こうか」
「はい」
私たちは連れ立って街へと向かった。
「……ここが、お前