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    sk_bluefilm

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    🔥と🐍幼馴染IF設定。notCP。
    炎柱就任後すぐくらいの煉獄さんと柱になる少し前の伊黒さんの顔馴染みコンビが鬼を追うミステリ風の話(になる予定)

    なけなしの星 次の指令は、現在単独行動をしている柱と合流の上で現地へ向かえ、というものだった。この辺りで待機するように命じられている。俺は相棒とも呼べる白蛇の鏑丸と共に、薄雲に霞むふくよかな月を眺めていた。鎮守の森の片隅で、神木ではないらしい松の立派な枝に腰掛けている。俺は人付き合いの上手い方ではない。誰かと共同で動くより、ひとりきりで鬼を狩る機会が多かった。寂しいとも思わないが、意外ではあったのだ。俺は階級も乙となり、これまで一定以上の場数を踏んでいる。鬼殺隊に入って以来、柱と共に行動せよと告げられたのは初めてだった。
     足音がして、俺は松の木陰から道を見下ろす。明るいとは言い難い、朧月夜だ。暗い田舎道でも、その男は目を引いた。炎を宿したような色の髪を持ち、意志の漲る双眸を炯々と光らせている。喩えるならば、まるで篝火だ。
    「杏寿郎?」
     驚きから、ついその名を呼ぶ。煉獄杏寿郎という名の彼は、すぐに俺の居所に気づいた。一見すると得体の知れない、恐ろしげで異質な風貌に似合わず、邪気のない朗らかな笑顔を浮かべる。
    「その声は、小芭内。伊黒小芭内じゃないか」
     久しいな、と声を張り上げるので、苦笑してしまった。人通りのない田舎道とはいえ、杏寿郎の溌剌とした声はよく響く。俺は松の木からひょいと飛び降りた。
    「なんだ。お前がここから任務へ向かうという柱か」
    「ああ、そうだ。まさか、君が来るとは思わなかったがな」
     俺と杏寿郎は、以前から面識がある。俺を救い出した先代炎柱の煉獄槇寿郎殿は、行き場のない子供を見放すような真似はしなかった。生きていく方針が定まるまでの間、炎柱の屋敷に保護してくれたのだ。鬼殺の剣士となる意を固め、育手の元へ向かうまでの半年ほど、俺は杏寿郎と千寿郎の兄弟と一緒に暮らした。それ以降も、文のやりとりなどは続けている。杏寿郎は、言うなれば俺の幼馴染のような存在だった。
    「鏑丸も、鱗の艶がいい。元気そうで何よりだ」
     蛇の鏑丸相手にも、杏寿郎はいつだって折り目正しい。俺はこの風変わりな青年を気に入っていた。恩人の息子だからという理由のみならず、杏寿郎は信用出来る。他の者ならいざ知らず、杏寿郎に手を貸すのは、吝かでもない。
    「次の任務について、お前は仔細を知っているんだろう」
    「ああ。とはいえ、君の方も任務を終えたばかりのようだ。今夜は、藤の花の家紋の家に世話になろう」
     鬼狩りの仕事はいつも急を要するもので、任務が終わればまた次の任務、というのが普通だ。この後すぐに動く訳でもないなら、何故俺は呼ばれたのだろう。俺の疑問に応えるように、杏寿郎が笑った。
    「このまま歩き続ければ、夜明け前には目的地に着く。だが、今晩ばかりは急ぐ訳にもいかない。何せ、俺は今、両手で満足に刀を振るえないからな」
     俺はぽかんと呆気に取られてしまう。よく見れば、炎柱のみが受け継ぐとされる羽織に隠された右腕は、だらんと力なく垂れ下がっていた。
    「負傷したのか」
    「どうも、腕の神経が駄目になったらしい。深刻な怪我ではなさそうだが、要が報告を入れたところ、この任務を宛てがわれた。功を焦らず、慎重に調査を進める必要があると」
    「無茶をする……」
     顔を顰めた俺に、杏寿郎は痛みを感じている素振りも見せず踵を返す。
    「さあ、行こう。実を言うと、先刻からずっと空腹でな。腹と背中が貼りつきそうだ」
     相手が柱であっても、怪我をした隊士の補助に人員が割かれる事はあまりない。下手に続けて任務を命じるより、充分な療養の時間を与える方が、結局は効率がいいのだ。それでも杏寿郎を行かせるというなら、柱ほどの手練れの剣士を向かわせるべき理由があるに違いない。与えられた任務が困難なものである事を予感し、俺は夜道を歩きながら周囲を警戒した。

     豪農の住まいと思しき藤の家紋の家で、杏寿郎は早速、医師の診察を受けた。本人の言葉通り、長時間に渡り強く神経を圧迫された事で、握力が極端に弱まっているようだ。藤の家の主人が、食事には箸より使いやすい西洋の匙を使うかと問いかけてきた。杏寿郎は右手を振ってみせる。
    「箸くらいならば、今でも問題なく持てるでしょう。お心遣いに感謝します」
     手早く膳が用意され、襖が閉められたところで、俺は切り出した。
    「それは、どういう怪我なんだ。お前らしくもない」
    「なに……少し、しくじった。どれだけ気をつけていても、怪我は皆無とはいかない。不甲斐ない話だが」
     杏寿郎は早速、白飯の盛られた茶碗を持つ。
    「鬼を討つ際、人質を取られてな。十二鬼月ではなかったものの、その鬼は、食糧と定めた人間を住処に貯めておく癖があったようだ。生存者が何名か居た。人質の女性が鬼の張った罠にかかりそうになったので、咄嗟に庇った拍子に、鎖で上腕を潰されそうになった。鎖で拘束されたまま鬼と斬り結んだからか、普段ならば問題ないところが、この様だ」
     俺は部屋の隅の薄暗がりで、口元を隠す包帯を外した。部屋の入り口である襖には背を向けている。食事は苦手だ。茶碗に少量の食事を取り分け、残りの膳を杏寿郎の方へ押しやった。
    「お前が命を拾ったなら、まあいい。これも食え。俺はもう要らない」
    「では、遠慮なく頂こう。ありがとう」
     杏寿郎は俺と違い、よく食べる。俺の事情を知っている事もあり、俺の事を知らない者から供された食べ物をこっそり分けてやると、何も聞かずにするすると腹に収めてくれた。出会った頃から、変わらない。それにしても、本当に美味そうに食事をする男だ。表情や身振りからそう見えるという以上に、美味いという主張が激しい。
     俺は口元を隠しながら、手早く食事を終える。いつも近くに居る鏑丸は、屋根裏に仔鼠でも探しにいったようだ。香の物を咀嚼し終えた杏寿郎は、うまい、と言って俺の方を見た。
    「小芭内。三里ほど先の小さな町で、行方不明者が出ているらしい。半年間、絶え間なく人が消え続けているが、被害者に共通点はない。無宿者も消えているところを見るに、金品を目的とした強盗の仕業ではなさそうだ。鬼が出ているかもしれない」
     眦の鋭い、猛禽類にも似た目が光る。
    「半年、か。その情報だけでは、鬼殺隊が動くには、鬼の仕業だという決め手に欠けるんじゃないか」
    「ああ。だが、先発隊を出して調査を進める前に、まず俺が呼ばれた。お館様の命だ。何か、理由があるんだろう」
     その理由も、いずれ調べていけば分かるかもしれない。杏寿郎は長く産屋敷家に仕えている煉獄家の出であり、お館様の命は何より優先すべきものと弁えていた。
    「分かった。まずは、情報収集だな。俺はお前に同行した方がいいだろう。それとも、別の方面から探るか」
    「君には俺と一緒に来てもらいたい。負傷した腕の件はともかく、いちいちやり取りをして情報のすり合わせを行うより、共に行動して鬼を追う方が近道だ。人が消えている範囲も、さして広くはない」
     俺は頷く。多くの人間に疎まれながらも、使命によって生かされている命だ。鬼を滅ぼす為に使う事に躊躇いはない。杏寿郎とは事情が違うとはいえ、目指す場所は同じだと知っている。これ以上人が傷つけられる前に、早く解決したい。
    「ところで、小芭内。千寿郎に書物を融通してくれたそうだな」
     杏寿郎は話を切り替えた。
    「耳が早いな。お前は忙しいから、なかなか屋敷にも帰れないんじゃないのか」
    「丁度一週間前に、少し立ち寄ったんだ」
     弟の事を楽しそうに話す杏寿郎は、昔と何も変わらない、家族想いの長男の顔をしていた。
    「賢い子だとは知っていたが、随分と風変わりな本を愛読していて驚いた。千寿郎の頭の中は、俺よりもずっと豊かなのかもしれない」
     俺は杏寿郎の近況の方を気にかけていたけれど、口を挟むのも野暮だ。相槌を打ち、旧知の少年の成長を素直に喜んでみせる。それともうひとつ、俺は千寿郎からも聞いていない気掛かりがあった。
    「槇寿郎殿……父君の、近頃のご様子は」
     杏寿郎は先ほどまでと何ら変わらない調子で、ただ一言答える。
    「お変わりない」
     変わりないという事は、今も酒浸りなのだろうか。息子の杏寿郎が炎柱を引き継いだ経緯は聞いていた。共に暮らした期間があったとはいえ、赤の他人である俺が口を挟める問題ではないと承知している。俺はそれ以上詮索する事をやめ、代わりに質問を重ねた。
    「お前は、大丈夫なのか」
     炎柱を継ごうが継ぐまいが、俺にとって杏寿郎は得難い存在だ。しかし彼の背負う宿命の重みは、煉獄家の者以外は誰にも理解出来ない。そんな相手であるから、実際に弱音を吐かれても困るだろうに、俺はついそのような世迷言を投げかけてしまう。しかし杏寿郎は気を悪くした様子もなく、柔らかい笑みを浮かべた。
    「無論、大丈夫だ」
     俺はやはり言葉に困って、そうか、とだけ答える。杏寿郎は気を利かせてか、継子として指導をした剣士の話を始めた。見どころのある少女で、最終選別も無事に通過したらしい。杏寿郎は陰口とは無縁の男だが、実力も気立も手放しに褒めている辺りを見るに、その継子はさぞかし好人物なのだろう。
     そのうち杏寿郎が食事を終えたところで、俺達は別々の部屋で身体を休める事になった。少しだけ気安く会話をしたものの、顔を合わせなかった期間の隔たりは、そうそう埋められるものではない。俺を幼馴染のようなものだと言ってくれたのは杏寿郎であったが、自分はきっと、その看板にはそぐわない男なのだ。それでも、任務においては役に立てるだろう。俺は意気込みを胸に飲み込み、瞼を下ろした。

     翌朝、杏寿郎は右腕を三角巾で吊って現れた。神経を痛めているという割に、骨でも折れているかのように大袈裟である。俺の視線に気づいたのか、杏寿郎は愉快そうに笑い声を立てた。
    「怪我を見せびらかすような有様になったが、悪化はしていないぞ。この家の女将が、気を遣ってくれたんだ」
    「断らなかったのか」
    「ああ。仮に鬼と出くわす事があっても、手負いと侮られたなら、油断を誘えるやもしれん」
     杏寿郎ほどの剣士が、片手で刀を振るう技術がないとは思えない。問題がないと判断したのなら、それ以上は口を挟めなかった。俺と杏寿郎は昼前に藤の花の家紋の家を出立する。遠くで鴉の鳴き声がした。杏寿郎の鎹鴉だ。行くべき道を示している様子だった。


    まだまだ書きます
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