【ふたりの秘密】「観光?それとも敵情視察かなぁ?」
バールで一息付いていた所に、39地区の弟ボスが当然のように相席しながら言葉を掛けてくる。
「観光中だ」
飲んでいたカップをソーサーに戻しながら答える。今が観光中であることは本当だ。午前のうちに仕事は済ませたのでこの時間は間違いなく自分の為の時間である。
「ま、そう答えるしかないよね。」
自分の眉間に皺が刻まれた気がするが、男は構わず続ける。
「でもさ、観光なら美味しいものもいっぱい食べようよ!」
濃厚なトパーズの様な虹彩を一つ向けてへらりと笑う自称色男の指が、カップにかけたままの指先に触れた。手袋越しのそこから熱を感じる気がする。
「今なら予約無しで食べられるところに連れて行ってあげるけど、どうかな?」
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