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    森野れな

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    森野れな

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    🏊【旭郁】旭にだけだよ、の後、付き合ってない旭郁がこれをきっかけに互いの気持ちに気付いたら……とう、SSというか「こんな妄想したよ」っていう事務連絡です。

    #Free!
    #旭郁

    【旭郁】初恋に気付いた日「旭にだけだよ?」
    「はぁ!? ちょっ、テメ……っ!?」

     考えるより先、旭の顔がぶわっと赤くなる。
     小悪魔的な笑みで紡がれた「旭にだけ」という響きが、あまりにも甘美だったものだから。
     郁弥のことはずっと大事に想ってきた。
     けれど迫り上がるこの熱の理由は、それだけではない気がして戸惑いを隠せない。
     そんな旭を、郁弥は揶揄った名残の笑顔で覗き込む。

    「……ふふっ。僕、旭がそんなに照れるようなこと言った?」

     どうしてこんなに高揚するのか、たしかな理由は自分でも分からなかった。
     きっと郁弥の言葉に他意は無い。けれど告白みたいだ、と。そう思ってしまったのだ。
     一度浮かんでしまえば心の高ぶりを抑えることができなくて、震える言葉が口をつく。

    「だ、だってよ……なんつーか、さっきの言い方だと、あー、その……」
    「……好き」
    「――――!?」

     心臓がひっくりかえると同時。ぴんと背筋が伸びて、一瞬。時間が止まった。

    「…………って言ってるように聞こえた?」

     郁弥は尚も楽しそうにこちらを見ている。が、旭はそれどころではない。過った妄想が、まさか郁弥の声で再現されるとは思わなかったのだ。「やっぱ告白かよ!」と冗談めかして終われば良かったのに、そうすることも出来ないまま胸はドキドキと早鐘を打ち続けている。

    「あ……ああ。いや、えっと、深い意味はねーってのは分かってんだけど、つい……」
    「もしかしてドキドキしたの?」

     覗き込んでくる瞳が無邪気で、幼い印象すら受けるけれど、そこには決して子供には宿らない色気のようなものが存在していて。
     それに、照明の落ちたプールで見る濡れた身体が、たまらなく艶めいて見えたので。
     なんとも言えない胸のざわめき。とにかく叫ばずにはいられない。

    「〜〜〜〜ッ、あーもう、したよ! ドキドキした! 悪ぃか!」
    「えっ……?」

     そのとき。
     さっきまで機嫌良さそうにしていた郁弥の顔から、するりと笑みが抜け落ちた。そのかわり、まるい目が瞬きながらゆっくり大きく開かれる。白い肌はみるみるうちに赤く染まり、きゅっと結ばれた口元は何か強い感情に圧され震えていた。蕾が鮮やかに花開いていくのを、旭は固唾を飲んで視界に映す。
     こんな顔、初めて見る。
     自分の中でまだ動いたことのない感情が、ドクンと揺れた気がした。

    「っつーか、なんでお前まで赤くなんだよ……!」

     とりあえず突っ込みを入れたのは、これ以上見つめ合っていたらおかしくなってしまいそうだから。
     郁弥のほうも、猛烈に慌てた様子で噛み付いて来る。

    「ッ、だって、いつもみたいに『んな訳ねーだろ』って、言われると思ってた、のに、旭が、ドキドキしたとか言うからびっくりして……!」

     その震える瞳がいっそう近付いたところで突然の沈黙。
     満ちる静寂は波紋の音まで聴こえてきそうなほど澄み切っていて、この場所だけまったくの別世界に切り取られてしまったかのようだった。
     薄暗い水面を揺らしながら、郁弥がまた一歩距離を詰める。そして。

    「旭は、なんでドキドキしたの……?」

     情火で掠れた声が、水面にぽとりと落ちた。

    「な、んで、だろうな」

     旭の声も上擦る。
     見えそうで見えない感情の正体を、郁弥の瞳の中に探した。
     いや、実のところあとは認めるだけなのだが、突然過ぎて理解が追いつかない、と言った方が正しいだろうか。

    「……わかんない?」
    「や、わかる。……っつーか、いま分かった、たぶん」
    「うん。僕も、気付いちゃったかも……」

     郁弥は戸惑いながらそう言った。
     同じ気持ちだった。
     この感情に名前を付けたら何かが変わる。
     未知の光に手を伸ばすのは少しこわかった。今この瞬間にその判断を下していいのかすら分からない。

    「ど、どうするの……?」

     同じく判断しかねている、郁弥のまつげがかすかに揺れる。
     突然輪郭をあらわした感情への戸惑いと、こんなにドキドキするなんて、という驚きを隠せない表情でお互い赤面したまま視線を絡め、触れられないもどかしい距離を詰められずにいる。
     けれど心はどうしようもなく惹かれ合っていた。 
     目の前の相手に夢中になって、二人の隙間は半ば無意識に少しずつ埋められ、ぎりぎりまで近付いた一瞬は互いにすこし躊躇ってしまったけれど、そこで止まるなんて出来るはずもなかった。
     本能が求めるままに、唇が重なる。
     そうすることがとても自然に思えた。

    「…………んっ」

     郁弥の口から漏れたちいさくて可愛い声が鼓膜に染みる。身体中の血が沸騰し、思い切り抱き締めたい衝動にかられた。抱き締めて、もっと深くキスして、ずっと触れ合っていたいと思った。
     もうこの感情の正体に、気付かぬふりはできないところまで来ている。
     たぶん、郁弥も。

     唇を離し、もう一度キスできそうなくらい近くで視線を交わす。するとかすかに眉を寄せた郁弥の口から、ぶわりと感情が溢れた。

    「すき……」

     鎖骨まで赤くして、かなり照れているのだろう。けれど視線は逸らさない。
     紡がれた二文字が、耳元から全身へと広がった。
     郁弥の声で縁取られた感情はまぶしくて、温かくて、旭の心をどうしようもなく揺さぶる。

    「旭は……?」

     少し首を傾げて訊く郁弥を見て、昔からコレが可愛いんだよな、と胸がときめく音がした。
     思わず抱き締める。湿った肌がしっとりと触れ合って、むせかえるほどの恋情にくらくらする。

    「俺も好きだ。郁弥のこと」
    「……うん」
     郁弥は微笑んで頷いた。
     何年もの間、ひっそりと根付いていた想いが咲いた今日の幸せを一生忘れない。そしてこれからは、二人で想いを育てていけたら嬉しい。
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