ジュオカル 『祝祭の棘』「開かぬ箱か」
アルジュナ オルタが起きた時に寝床を見れば、そこには手の平サイズの黒い細工箱があった。
そこには、カルナが寝ていた筈だと手に取り千里眼を凝らすが、やはり中は窺い知れない。
『जन्मदिन की शुभकामनाएँ(happy birthday)』
と書かれたメモから、恐らくあの邪竜の仕業だと当たりを付けるが思惑は分からない。
何かの試練であるのだろうと思うが、これが何の試練になるというのだろうか?
試しに表面の仕掛けを一つ動かしてみれば中に書かれていたメッセージが現れる。
『問1 本当に求めるものはこの中に入っている?』
「愚問だ。堰界竜たるお前が与える試練の先に褒美がるのなら、この中に入ってなければおかしい」
カタリ、カタリと動かしていると又文章が現れる。
『問2 本当に入っているのなら、このままの方が都合が良いだろう?喪う事は二度とないのだ』
「……そうだな。だが、永遠に会えない事と死んでいる事は同じだ。逢いたい、知りたいと思い続ける限り、世界にカルナは在る。私が、この箱で良いと思える程しか会いたくないのなら……それは、ただの箱だ」
成程、試練とは私に想いを自覚しろという事だったかと思いながら声に出す。
その度に、細工箱は形を変えて褒美の様に一粒ずつ宝石や砂金を落としていく。
それを拾いもせずに箱に向き合っている。
心臓の筋繊維を一つずつ剥される様に顕わにされる執着と悔恨、失くそうとしていた総てが少しずつ言葉になって自分の中に戻っていく。
これが、誕生祝だとするなら、正しく産まれ直しているし確かに祝福であり褒美であり……確かに抜けない棘を刺す様な試練だ。
二度と、抜けなければいいと思いながら心の奥に深く深く刺し込んでいく。
「……私がここまでするのだから、出てくるカルナがえっちな格好でもして、自分からキスでもしてくれなければ割に合わないぞ、ヴリトラ」
照れ隠しに呟けば、また一つカルナの瞳に似たアクアマリンが落ちた。