こいとはどんな、「隊員との恋愛ってどう思う?」
同じ年の奴らでの飲み会の終盤に来馬がぽつんとそんなことをいった。金曜日の夜の居酒屋の喧噪に紛れて何でもないことを装ったみたいな声だった。
「ええー、ダメだろそれは……」
思いのほかガチめのトーンで太刀川が返すのを、少し驚いた顔で来馬が見る。
意外かもしれないが、来馬がボーダーに来るよりも前の時期、まあ色々とあったのだ。
「士気に関わるしな…堤んとこだってセフレなわけだし」
「おい」
急に自分の名前を出されて焦る。
自隊の隊長とそういう関係なのは事実だし、ここにいる奴らは来馬を含めて全員知ってはいるのだが。
「それは恋愛関係とは……」
酒気に少しだけ混濁した目をこちらに向けて来馬が言ったのに、オレが答える前に太刀川がやけにきっぱりと返す。
「いやセフレと恋人は別だろ、フレンドっていう位だし」
「そっかあ……難しいねえ」
ちょっと落胆したようにため息をつく。結構、いや大分酒臭い。かなり酔ってるなこいつ。
「まーなぁ、別れたときとかきっついしな本人だけじゃなくて周りが……」
「太刀川くんが周りのこと考えてるなんて意外ね」
それまで傍観を決め込んでいた加古ちゃんがスルリと会話に入ってくる。
「実体験だかんな……俺の隊じゃねーけど」
「まあ人と人との間の話だものね、だから堤くんのとこだってセフレなわけだし……」
「あんまりセフレセフレ連呼しなさんな、来馬の教育に悪い」
これから真っ当な恋愛をしたい、と多分思っている来馬に、こんな往生際の悪い状態を見せるのも忍びない気がして、婉然と笑ってこちらを見る彼女に呆れたように返す。
「堤、なんだか巻き込んでごめんな」
「まあセフレなのは事実だしな……」
純粋培養じみた(実際にはそんなこともないのかもしれないが、なんとなくオレも含めて来馬にそういう”幻想”をもっている連中は少なくない)目を向けて誠実に謝られると、いっそう自分の往生際の悪さが際立って神父の前で罪を隠せないような気持ちで認めてしまう。罪ではないが、事実ではある。
「堤はその……諏訪さんと付き合いたいとは」
「うーん、ペンディングだな……隊員の間は……」
これもまあ、事実だ。とりあえず、今は、また今度、そうやって色々、本当に色々を先送りしている。自覚はあるのだ。
「ペッティング?!」
バカでかい声で太刀川が言う横ですかさず二宮が鳩尾をそれはそれは的確に突いた。
生身の太刀川は弱い。というか、鳩尾をこの強さで突かれたら換装体でも結構痛いと思う。
加古ちゃんが悶絶する太刀川を冷たい目で一瞥する。
「来馬くんの教育に悪いわ」
「いやぼくも言っても二十歳の成人男性なので……」
「……隊長である間は様子を見た方が無難だろうな」
困ったように笑う来馬に、ものすごく不味そうな顔でハイボールを啜ってから二宮が言った。
「禁止ってわけではないけど……何隊か凄いことになって大変だったものね、初期も初期の頃の話よ」
「まあ村上が成人になるまで待つのもキツいっつーのはあるか、人の心に戸はたてられない」
「あらもう復活してきた」
「それそういう使い方するか?」
鳩尾をさすりながら至極真面目な顔で太刀川が言うことにつっこむ。言うだろ、言うかな、言わないでしょう、酔っぱらいたちの結論のない堂々巡りの横で不味そうな顔のまま二宮が来馬を見る。
「おい来馬なに豆鉄砲くらったみてぇな顔してんだ」
「……ぼく鋼のことだって言ったっけ?」
「俺でもわかるぜそんなの」
「検討する位には村上の事そういう意味で気にかけてるのか~って驚いてるところだなオレは」
「隊員って話題が出ただけでもう村上くんだなって分かっちゃうわね、隊員っていうか、恋愛って言葉だけでもね」
「えぇ……そんなに分かりやすい……?」
口々に言う同じ年の面々に、酒の酔い以上の赤みを乗せた顔で来馬が言う。
”勝ち確”という言葉が脳裏に浮かぶ、村上に百万が一その気がなかったとしたってこの顔を見れば一発でオチるだろ。……オチた後の始末の付け方までは面倒見切れないが。いや多分我ら同級生たちはなんやかや面倒をみてしまうんだろうが。
「まあ精々理性を働かせることだな、来馬隊長」
酒臭いため息とともに二宮がそう言う。
「セフレだけはやめといたほうがいいぞ」
万感の思いを込めてオレがそう言うと、ちょっと涙目になって来馬はコクリとうなずくのだった。