なれそめ魈鍾①「鍾離先生、恋人でも作ったら?」
公子の提案に鍾離は目をしばたたかせた。
それは旅の途中、ひと時の会食、何気ない会話の中で起こった。
すべての契約を終わらせる契約、を結んだ岩王帝君。璃月を離れ、鍾離という凡人として生きる道を選んだ彼は、契約を伴わない生を謳歌している。しているものの、この頃は少々持て余していた。いくら凡人になったとはいえ、神としての記憶や生き方はそう簡単に矯正されるものではない。それゆえに彼は思い悩んでおり、打ち解けた者たちとの柔らかい空気の中でなめらかになった舌が、「もっと凡人らしいことをしたい」と漏らしたのである。
――ことから、冒頭の提案につながる。
「いやいやいや、おかしいだろ!」
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