Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    えんどう

    @usleeepy

    『要パス』タグのものは冒頭の箇条書きをよく読んでから本文へ進んでください
    パスはこちら→ X3uZsa

    褒めたい時はこちらへ↓↓↓
    https://wavebox.me/wave/d7cii6kot3y2pz1e/

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💴 💵 🍓 🍟
    POIPOI 105

    えんどう

    ☆quiet follow

    ▷🌸🌸🌸

    ##第三者がいる話
    ##5001-9999文字

    ぐだおが王様に花冠を作る話▽二人の他にブーディカ、エウリュアレ、アステリオス、アルジュナオルタ、呪腕がいます
    ▽ぐだキャスギル





    「マスター。では私は」
    「うん。危険はないと思うけど、気をつけて」
    「御意」
     真っ黒な姿は、文字通り一瞬で消える。情報収集に向かう呪腕のハサンを、見えないけれど見送り、後ろを振り返る。薄暗い洞窟にいてもいっそ輝いて見えるギルガメッシュは、カルデアとの通信機に向かって何か言っている。このあたりの地形がどうのとか、聖杯の位置は解ったのかとか、本来自分が聞いておかないといけない気がするのだが、ギルガメッシュの記憶力なら彼の方が確実に一言一句覚えられるのでつい頼りがちになってしまう。
    「王様」
    「――ん? どうした」
    「あと任せていいですか? オレ、向こうの様子見に行ってきます」
    「ああ。構わん。あまり遠くへは行くなよ」
    「もちろん」
     行ってきますと手を振ると、横目に見ながら少し笑われた。洞窟を出た立香は、きょろきょろと辺りを見回す。今回同行しているブーディカ、エウリュアレ、アステリオス、アルジュナオルタは連れ立って(アルジュナオルタは半ば引きずられて行ったが)、森の中を散策……じゃなくて哨戒しているはずだ。それもあまり遠くへは行かないよう言ってあるから、そう遠くまでは行っていないと思いたいけど。
    「――――――」
     耳を澄ませていた立香に、女性と思しき声が聞こえてきた。こんな森の中に女性がそう何人もいるとは思いづらく、立香は声のした方へ森を進む。進むにつれ、声は複数人の話し声に変わっていった。
    「――……うわ……」
     ガサッと低木の枝をかき分けて抜けた先は、一面の花畑だった。
    「立香!」
     ブーディカの声がして、その声を探すと大きく手を振る彼女が見えた。その周囲に他の者もいる。
    「ここすごいね!」
    「すごいでしょ! 一面の花畑!」
     皆の方へ歩きながら、声を張って話しかける。返すブーディカも大声だ。
    「あら? マスター、一人で来たの? アナタが来るならあの王サマと一緒だと思っていたのだけれど」
    「王様? ダ・ヴィンチちゃん達と話し込んでたから残ってもらったけど……」
    「そうなの。せっかく気を利かせてふたりきりにしてあげたのに。鈍いのね、アナタ」
    「えっ?」
    「まあ、来ちゃったものは仕方ない! 立香もこっちこっち」
     ようやく腹から声を出さなくても聞こえる距離に来た立香に、エウリュアレが意味深な笑顔を向ける。手招きするブーディカは苦笑いだ。ふたりきりというのは立香とギルガメッシュのことだろう。呪腕が偵察に出ることは皆知っていた。では気を利かせて、というのは。
    「どうりで哨戒に出るには大人数だと思った……」
     特に吹聴して回ったことはないが、立香がギルガメッシュに好意を抱いていることに気づく者はいる。初めはごまかしていたが、最近ではもう隠してもいない。わざわざ言ったりはしないけど。大声で言ってもいいとはたまに思うけれど。
    「ごめんねぇ。立香には言っておけばよかったね」
    「いいよ。大丈夫大丈夫。むしろ気を使わせてごめん」
     苦笑いに苦笑いで返す。欲求不満にでも見えていたのだろうか。それだとちょっと恥ずかしい。
    「で、みんな何してたの?」
     エウリュアレの向かいにはアステリオス、その隣にはアルジュナオルタ、立ち上がっているブーディカはアルジュナオルタの隣に座っていたようだ。
    「これを作っていました」
     立香の質問にはアルジュナオルタが答えた。(浮けるのに)なぜか正座している彼の手には、いびつではあるが輪になった花があった。
    「花冠……?」
    「そ! あんまり綺麗な花だからさ、ちょっと拝借しちゃった」
    「へぇ……あ、じゃあエウリュアレのは……」
    「ぼくが、つくった!」
    「下手くそだけど。私が美しいのだから関係ないでしょう?」
    「うん、よく似あってるよ」
     えへへ、と笑うアステリオスに、優しげな眼差しを向けるエウリュアレ。和む。立香の横でブーディカも同じ顔をしていた。
    「マスターも作りますか? 意外と難しいですが」
    「作ったことないけど……作れるかな」
    「大丈夫大丈夫! さ、立香も座りなよ」
     アルジュナオルタも穏やかな顔をしている。なんやかんや馴染んでいるのは見ていて和む。癒やし空間だなあ、ここ。
     ブーディカに促されてなるべく花の少ないところへ腰を下ろし、隣へ座るブーディカを待つ。
    「教えてあげるから、留守番してる彼に作ってやりな」
    「えっ」
    「いいんじゃない、私ほどは似合わないでしょうけど」
    「ええっと……」
    「似合いそうな花を選ぶんだよ」
     なぜか話が勝手に進んでいるし、こういう時の女性陣は押しが強い。諦めて留守番……なのかは解らないが、洞窟で待っているギルガメッシュに似合う花を探すことにした。
     辺りを見回してみる。紫がかった青と、白にグラデーションする小さな花、これが一番多いようだ。それに負けじと白く丸い花も咲いている。これは公園で見たことがある。シロツメクサだ。根元にクローバーもある。それから、ところどころに咲いているだけではあるがやたら目立つタンポポ。その他、名前も知らない小さな花がいくつか。
    (似合う花、似合う花……)
     言われた通りに、ギルガメッシュに似合う花を探す。頭の中に彼の人を思い浮かべ、重ね合わせる。どんな花でも似合いそう、というか、
    (花より綺麗だもんなぁ)
     でも、花冠を乗せているところはちょっと見てみたい。
    「決まった?」
    「これと、これ……あとはこれかな」
     青と白の花、それに形の似ている白い花、それとタンポポ。かわいすぎる気はしたけど、タンポポも英語にするとライオンだし。
    「意外と控えめなんだね? もっと派手なの選ぶと思ってたよ」
    「そ、そう?」
    「でも、きれいだとおもう!」
     立香が指した花を見て、意外そうにブーディカが言い、その言葉を聞いていたアステリオスがフォローする。エウリュアレは意味深な笑顔を浮かべているだけで、逆にそれが怖い。アルジュナオルタは……自分の花冠作りに集中している。微笑ましい。
    「はい、じゃあこれを編むからね」
    「あ、うん」
     ブーディカが花を何本か手折り、立香に手渡す。花冠なんて初めて作る。本当に作れるのだろうか。

       ❀❀❀

    「で、そこをそう……そうそう、そうやって飛び出てるのを隠して……」
     ブーディカに言われた通り、輪から飛び出している短い茎を既に編まれている茎の隙間へ押し込んで隠す。一本一本飛び出している茎を処理して、最後の一本。
    「………………できた」
    「はい、完成!」
    「できた〜〜〜〜!」
    「マスター、おめでとう!」
     思わず両手を上げてバンザイすると、アステリオスが一緒にバンザイのポーズを取ってくれる。アルジュナオルタからの拍手も頂戴した。
    「……うん、初めてにしては綺麗にできたんじゃないかい?」
    「そう? よかった〜〜」
    「渡すのが楽しみね? マスター」
    「きっと喜んでくれますね」
    「おうさま、よろこぶ!」
     喜ぶ……喜ぶのだろうか。出来上がった青と白と黄色の花冠を光に翳すように持ち上げて、思い浮かべる。似合う、と思うのだけど。
    「さ、立香のも完成したし、そろそろ帰るよ。王サマ待ちくたびれてるでしょ」
    「そ――」
    「――まったくだ。随分念入りに哨戒していると思えば貴様ら……」
     ブーディカに同意しようと口を開いた立香の声にかぶさるように、不機嫌な低音が背後から聞こえた。
    「お、王様……」
    「どこぞで全滅しておったら厄介と残滓を辿ってみれば……何をしている」
    「あら、見て解らない? 花冠を作っていたのよ」
    「見れば解ることを問うているのではない。揃いも揃って遊び呆けているのはどういった了見かと訊いている」
     エウリュアレはいつもの通りだが、ギルガメッシュは不機嫌を加速させたように見える。腕組みをして仁王立ちになっている時は、大体が不機嫌だ。
    「す、すみません王様、オレが作るのに手間取っちゃって」
    「作るだと……?」
     立香の答えに鼻白んだギルガメッシュに気を取られていた立香は、エウリュアレがアステリオスに何か耳打ちしたのに気づかず、突然立ち上がったアステリオスに手の中の花冠をそっと取られてようやく、二人に意識を向けた。
    「おうさまの、はなかんむり!」
    「あ」
    「む?」
     立ち上がればゆうにギルガメッシュよりも背の高いアステリオスが、立香の作った花冠をぽすっとギルガメッシュの頭に乗せた。元々戴いている白いターバンと青い角を模した冠の上から乗せただけなので、浮いているし似合っているとも言いがたい。が。
    「いいじゃない。角と布が邪魔だけれど。それは取れないのかしら?」
    「うんうん、色も合ってるし、いいんじゃない? ねえ? アルジュナ」
    「ええ、とても似合っていると思います。マスターが真剣に選んでいましたから」
    「頑張った甲斐があったねぇ、立香!」
     はしゃぐ女性陣からの評判は上々だ。アステリオスもいい仕事をしたと言わんばかりの満足気な笑顔だし、話を振られたアルジュナオルタも花冠の高さに浮かんで、にこにこと答えている。
    「なんだ……?」
    「あっ! ダメダメ! 触るならそっと触らないと! そんな硬い爪で触ったら傷ついちゃうよ」
     怒っていたはずが毒気を抜かれたのか、面食らったように目を瞬いたギルガメッシュが右手で頭を触ろうとし、ブーディカに止められる。鏡見なよとブーディカが小さな鏡を差し出してギルガメッシュに見せるのを、立香はまるで蚊帳の外にいるような気分で見るしかない。
    「あわわ」
     もう立香にはどうすることもできない。どうすればこの場をうまく収められるのか。いや、既にうまく収まっているのか?ギルガメッシュの怒りは解けたようだし、皆ギルガメッシュの周りでわちゃわちゃと楽しそうにしているからいいのだろうか?もう立香には解らない。
    「なんだ、それ外せるんじゃない。うん、そっちの方がいいね。綺麗綺麗」
    「ふん。この我が美でそこいらの草に負けるはずがなかろう」
    「そうじゃなくて、立香からのプレゼントがよく似合ってる、って話だよ!」
    「賢王なんて言って、アナタも案外鈍いのね。マスターも鈍いし、お似合いなのかしら」
    「おうさま、きれい!」
    「ええ、特にこの青が映えますね」
     どうしよう、どうにかした方がいいのか、立香に何かできるのか、どうしたらいいのか、やや混乱している立香に、はしゃぐ声はあまり届いていない。ギルガメッシュが機嫌を損ねないかの方が心配だ。
    「立香! ほら」
     輪の外であたふたしていた立香に、ブーディカの声が届く。はたと我に返った立香は改めて皆の方を見、真ん中に立たされてブーディカに前へ、立香の方へ押し出されたギルガメッシュを見る。
     いつもの、鮮やかな青の石で出来た角と白いターバンはなく、代わりに小さな青と白の花、それに似た形の白い花、それらの間にまばらに編み込まれた黄色いタンポポでできた輪がギルガメッシュの金髪を飾っていた。短い鎖に繋がれた紫の宝石が、まるで花冠の一部のように垂れて煌めいていた。
    「あ…………」
    「どうだ? よもや似合わぬ、などとは言うまい?」
     立香を見下ろすギルガメッシュは得意げに笑っていて、不機嫌どころか、ちょっと機嫌が良くなっている。何を言ったらこうなるのか。ブーディカママ恐るべし。
    「あ、え、あ、き、綺麗です、すごく、……すごく、綺麗」
     ギルガメッシュの背後にいる、期待と好奇心でキラキラと瞳を輝かせていた女性陣の表情がぱっと華やぐ。エウリュアレはアステリオスに「いいコトをしたわね」と褒め、褒められたアステリオスもとても嬉しそうな顔をするし、アルジュナオルタも(おそらくよく解っていないとは思うが)にこにこと微笑んでいた。
     という皆の反応を見てから、ギルガメッシュを見る。当然、と笑われるのではないか、とも思ったけれど。
    「〜〜〜〜っと、当然、で、あろう…………」
     いつもの高笑いもなく、張りのある声もなく、呟くように言って手で口元を隠し顔を背ける。いい加減、鈍い立香でも学んだ。これは、照れている。つい真剣に言ってしまったのが効いたのだろう。そういうのに弱いこともだんだん解ってきた。と言っても狙ったわけではなかったから、これは不意打ちのようなかわいさだけど。かわいい、と言いたいのを堪えてギルガメッシュを見つめると、顔を背けたまま、しっしっと片手を払われた。
    「皆々様、そろそろよろしいですかな?」
    「あっ」
     立香の声に合わせて、立香以外の全員が振り返る。色とりどりの花畑の中に落ちた影のように真っ黒な、偵察を任せていた呪腕のハサンが立っていた。
    「ごっ、ごめん! 忘れてたわけじゃないんだけど……!」
     ギルガメッシュもこちらへ来てしまっているので洞窟はもぬけの殻だ。慌てて駆け寄って謝る立香に続いてブーディカがごめんごめん!と謝罪を口にし、アステリオスもすまなそうに巨躯を丸めて謝る。皆に向かって片手を鷹揚に挙げた呪腕は仮面の下で笑う。
    「はっはっは。いやいや、私は構いません魔術師どのに皆様。ついでに周囲の状況も検分しておきました故」
    「ありがとう……! ほんとごめん!」
    「では、戻って作戦会議といたしましょう」
    「うん、戻ろう」
     立香の声を合図に、ぞろぞろと一行は歩き出す。先頭になった立香と反対に、珍しく最後尾についたギルガメッシュを盗み見るとやはり、ほんのり頬を紅潮させていた。

       ❀❀❀

    「あぁーー! やっと布団で寝れる!」
    「こら、手荒に扱うでない」
    「すみません……でもおふとんあったか〜い……」
     部屋へ入るなりベッドまで駆け足で向かい、その勢いのままダイブする。立香の体重を受け止めてぼふっと空気が抜けた柔らかな布団に沈んで、立香はようやく人心地ついた。
     ギルガメッシュが用意しただけあって、自室の寝具はどれも使い心地がとても良い。野宿にも慣れたと言えど、この布団の柔らかさは何にも勝る。
    「予定通り終わって良かったですね」
    「そうだな。野宿にも些か飽きていた頃よ」
     立香と正反対にゆったりとこちらへ歩いてくるギルガメッシュの纏う、黄金や冠が光の粒になって消える。ベッドに腰かける頃にはすっかり軽装に変わっていた。
    「王様もお疲れ様でした」
    「全くよな。よもや手隙に遊び呆けるとは我も予想外であったわ」
    「それまだ気にしてたんですか……」
     よいしょ、と上体を起こし、立香はギルガメッシュの隣へ座る。ギルガメッシュが言っているのはあの花畑でのことだろう。なんとなく有耶無耶で流されたのだと思っていたが、そう甘くはないらしい。
    「休息の必要性は嫌というほど理解しているが、節度というものもあろう」
    「ハイ。おっしゃるとおりでゴザイマス……」
     皆がいたとは言え、さすがに油断しすぎたと立香も思う。しゅんとして俯いた立香は、ギルガメッシュが横目で見、微笑したことに気づかない。
    「……とはいえ――」
     俯いている立香の視界の端に、光がチラつく。反射的に顔を上げた立香は、ギルガメッシュの手の中に落ちた何かがぱさりと音を立てたのを聞く。
    「王様、それ――」
    「なに、手折られた花をむざむざ野ざらしにするのも後味が悪い」
     それは立香がレイシフト先でギルガメッシュへ贈った花冠だった。最後に見たのは洞窟へ戻る途中に遭遇した魔猪との戦闘だったか。花冠を戴いたまま斧でバッサバッサと猪を蹴散らしていたような。あの時に落としたか捨てたかしたんだとばかり思っていたけれど。
    「それに、これは貴様からの〝プレゼント〟であろう? そこに込められた想いまで無碍にするほど、今の我は酷薄ではない」
     ふふん、とドヤ顔で立香を見たギルガメッシュに立香は驚きに見開いた目を瞬く。つい差し出した手に、花冠が渡されて立香は間近で花冠を見る。多少萎れてはいるものの、色の鮮やかさは花畑で見た時と大差ない。
    「……」
    「?」
     花冠を見つめた立香が、す、とギルガメッシュを見る。目があう。立香が何も言わずに見つめると、ギルガメッシュは数秒見つめあってから不思議そうに首を傾げ、立香はその彼の頭へおもむろに花冠を乗せた。
    「……?」
     なぜ乗せられたのか少しも理解できないと言いたげな顔でギルガメッシュが立香を見る。目線をあわせて、笑いかけてみる。と、不思議そうにしていたギルガメッシュは更に疑問符が浮いているのが見えそうなほどに疑念の目を向けた。
    「……あの時、ちゃんと言えなかったですけど」
     花は萎れてしまったけれど、それは立香が彼に似合う花を考えて選んで作ったもので、最初はただの自己満足だったかもしれないけれど、彼が掬い上げると言うのなら、それは。
    「すごく……すごく、綺麗です、王様」
     ぱちぱちと瞬きをするギルガメッシュは、数瞬面食らったような顔をしていたが、すぐに表情を和らげる。それから、口許には笑みを浮かべたまま真紅の瞳が収まった目を眇めた。
    「それは、花の事か?」
    「解ってて言ってますよね?」
    「はて? 何の事だか」
     そらとぼけるギルガメッシュの、悪戯っぽい笑顔に立香も笑い返す。それから、弱ってしまった花に触れないように、冠の辺りから頰までを片手で撫で、そのまま滑らかな頬に触れる。ギルガメッシュが目を閉じて、表情は微笑んでいるように見えた。緩くたわむ金髪が柔らかく立香の手をくすぐった。
    「もちろん王様のことですよ。綺麗で……強くて、」
     立香はそこで一度言葉を区切り、身を乗り出す。あまりに無防備なギルガメッシュにもっと触れたくて、微笑を敷いた唇にそうっとくちづける。ふにゃりとやわらかく触れあった唇は、離すと皮膚同士が少しくっついた。惜しんでるみたいだな、と思い、惜しいもんな、と心の中で頷く。完全に離れると目を開いたギルガメッシュと目があった。
    「好きです、王様。……綺麗で、強くて、頼りになって、厳しいけど優しい、オレの大好きな人」
     立香の並べる拙い称賛を、ギルガメッシュは微笑んだまま黙って聞いている。緩やかに眇められた鮮やかな紅色へ、立香は少し照れたように笑い返す。
    「改めて言うとちょっと恥ずかしいですね」
    「何を恥ずかしがる必要がある? 貴様が口にするのは真実のみであろう」
    「そ、うです、けど……改めてこう、面と向かって言うのは素面じゃなんか恥ずかしいですよ」
    「そう照れるでないわ。王を讃美するのは当然の事よ」
     そこで立香は気づく。そういえばこの眼の前でドヤ顔してる綺麗なひとは王であったと。それならば、讃美などいくらでも浴びていただろう。立香の拙いそれよりももっと、もっとたくさんの言葉を。
    「どうした? もう終いか」
    「オレにそんなに語彙ないですよ……ウルクの人たちはもっと言えたかもですけど」
    「ウルク?」
     そこでなぜ国の名前が出るのか、ギルガメッシュにはすぐに解らなかったらしい。褒められて当然の人生ならそんなこと考えもしないだろう。立香が無い語彙を振り絞って褒めちぎっていることなど。
    「いや、ウルクの人たち……王様の臣下の人たちなら、オレよりもっと色んな言葉で褒められたでしょうけど、オレには」
     そんなに語彙ないし、と呟く頃には華やいだ気持ちなど萎れていた。それこそ花冠以上には。
    「――――」
     萎れていじけている立香の横で、ギルガメッシュは何度か眼を瞬く。立香の落胆が理解できないと言った顔で首を傾げ、疑問符を浮かべるのを俯いた立香は見ていない。それよりも、なんだか自分がギルガメッシュには相応しくないような、不釣り合いなような気がして、いやそれは最初から解っていたのだけど、改めて思い知らされた気がして気分は重く、沈んでいく。
    「……本当に、見ていて飽きぬ男よな、貴様は」
    「……?」
    「しかも聡いようで鈍い。どちらが本当の――いや、どちらも立香か」
     うんうんとひとり納得するギルガメッシュに、今度は立香が首を傾げる。何の話をしているのか解らないが、立香のことを言っている。
    「王様?」
    「なに、そうさな…………」
     首を傾げる立香に、ギルガメッシュは言葉の先を制止するように掌を立香へ向け、片手を顎に近づけて思案に耽るように指を当てる。待て、と言われたような気がして立香は大人しくギルガメッシュの次の言葉を待つ。何を言われるのだろうという、疑問と少しの期待が入り混じった立香の目にギルガメッシュが映っていた。
    「心無い言葉……いや、我を讃美するあ奴らは嘘偽りない真実を述べていたが――今はそんなことはどうでもよい。
     ……立香」
    「は、はい」
    「我はな、我を讃美することを好いと言っているのではない。貴様が真に思う言葉であるから好い、と言っているのだ。その違いも解らぬのか? このばかもの」
    「あでっ」
     びし、とギルガメッシュにデコピンされて立香は咄嗟に額に両手を当てる。じわじわと痛みが広がり、同時にじわじわとギルガメッシュの言葉を理解する。
    「お、王様……おうさま〜〜!」
    「ぉお? っ、と」
     ギルガメッシュが驚いたような声を漏らしたのは、感極まった立香ががばっと抱きついて、ふたりして仰向けにベッドへ倒れたからだ。空気を孕んだ掛け布団にばふっと埋まり、立派な寝台が小さく悲鳴を上げる。ギルガメッシュにのしかかった立香が身体を起こして見下ろせば、紅い紅い真紅の瞳がふたつ、立香を見上げた。いつもは細い瞳孔が、今は少し開いて丸みを帯びている。冠から散ってしまったのか、青い花弁がギルガメッシュの頭の周りへ数枚、散っていた。
    「好きです、王様。綺麗で格好良くて、時々かわいくて、強くて頼りになるオレの王様」
     立香を見上げるギルガメッシュへ顔を寄せる、と、その瞳を閉じるので、たまらない気持ちになりながら立香はギルガメッシュへくちづける。荒れることのない唇は、いつ触れても柔らかいし、この柔らかさを知っているのが自分だけだと思うと自然と笑みも浮かんでくる。
    「――……オレの、とは、大きく出たな」
    「間違ってないでしょう? ここにいる王様はオレの王様です」
    「傲慢……に聞こえぬのが不思議だな」
    「そういうの、王様の担当ですしね」
    「我は慢心などせぬぞ?」
    「慢心せずして何が王か、とか言ってましたけど」
    「若気の至りという言葉もあろう」
     クスクス笑いあいながら、会話の合間にくちづける。くちづける合間に会話している、と言ってもいい。ギルガメッシュが身じろぐ度、冠は崩れ、花は散る。けれど、散った花もこの王を飾っているように見えるのだからたちが悪い。金砂の髪に青い花弁がひとひら絡んでいるのが、どうしようもなく似合うし、美しい。隠れて笑うように声を抑えて笑うのが、かわいくて愛おしい。
    「王様、」
    「ん」
    「好きです。大好き」
    「ん……我、も、」
     ギルガメッシュが口を開いたのと同時にその唇を塞いでしまい、立香はすぐに離す。今、言いかけた言葉は。
    「……我も、……好いているぞ、立香」
    「⌇⌇⌇⌇⌇⌇っ」
     立香の目に促されたギルガメッシュは、緩く微笑ったままで続きを口にする。予想していても実際にギルガメッシュの甘い声の乗った言葉は破壊力が違う。感極まった立香は嬉しさを顔面いっぱいに表したような笑顔でギルガメッシュに覆いかぶさって抱き締める。苦しい、と笑う声が咎めるが、少しだけ無視をした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘💞💕❤💖❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works